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38.三人でお出かけ!編6~尊い粒~
しおりを挟むジャッ、ジャッ、
大きな臼の中に入れられた大量の米に、一定のペースで大きな杵を振り落とす。それによって押しつぶされた穀物が音を立てて皮を落としていくのだ。
この地道な作業を、彼らは毎日行っているのだろう。それは『わぁ、大変』で終わらせられないほど、本当に俺なんかが想像出来ないほど大変なことだと思う。
米もどき――この世界では雑穀と呼ばれる穀物――は、雑草と呼ばれるように、苗を植えずとも自然と生えてくる。そうして他の植物の生長を阻害するのだ。その根性は逞しく、どんな条件の悪い土地でも(味は悪いらしいが)一応穂は付けるらしい。
この世界で主に人が食べる物として作られているのは小麦(もどき)である。小麦は脱穀した後の処理が簡単で、形状が何となく似ている米も同じように処理して食べてみたら固くて不味かったため、家畜の餌になったのだという。米は二層の殻に覆われており、確かに簡単な処理だけでは“美味しい”とは言えないだろう。もっと試してみればよかったのに・・・と昔の人の短気さに呆れてしまう。ちなみに、以上の米と小麦の情報はこの世界のものであって、元の世界ではどうであったか詳しいことは知らない。二つの違いについて、小学校とか中学校の家庭科の教科書に載ってたかもしれんけど、そんな真剣に読んでなかったし。
うん、でも今は思うわ。ガチで勉強するなら家庭科だけでいいわ(完全に俺の主観)。一番役に立つ気がする。
とまぁ、それは置いておいて・・・・・・。要するに、食べられる米にするのは大変だということだ。今殻を取っている最中であるが、杵で突かれているのはすでに乾燥させたものであり、この過程で殻が取れたものからさらにもう一枚皮を取り除く必要がある。それを文句も言わず、淡々と熟している子どもたちに、尊敬の念しかない。
俺の隣でもみすりをしている様子をじっと見つめているコンは、一体何を考えているのか、いつものように浮かない表情からは、何も読み取ることができなかった。
「こんなものしか出せませんが・・・・・・どうぞ召し上がって下さい」
ふ、ふぉおおお!!!美味そう!!
作業の各過程を見学させてもらい、微力ながらも手伝いを終え、みんなと屋敷の縁側っぽい場所で汗を拭っていると、汗一つかかず綺麗なままのミュエルさんが、大量のおにぎりを盆に載せてやって来た。子どもたちが喜んでそれを手に取り、はむはむと頬張る。今見てきた過程を経て、大事に大事に作られた米たち。そのつやっつやとした尊さを感じつつ、俺も一つを手にした。掴んだ手を跳ね返すような弾力と、艶感。粒の形が美しく、しっとりとした質感が肌で触れてよくわかる。
恐る恐る一口囓る。うん。うんまい。そして、尊い。
計画的に育てられる小麦とは違い、雑草として生えてくる米はどの季節でも次々に生えてくる。しかし家畜用とは言えども需要のある米は、無計画よりは計画的に育てた方が収穫の効率も良い。だからどこの畑でもしっかりとした土を作り、栄養や水の量も調節して時期を見計らってきっちりと世話をしているのだ。そして難問なのが、虫や病気。
雑穀が農家から嫌われている理由の一つに、雑穀に群がる独特の害虫の存在がある。雑草として栄養を吸い取るだけでなく、害虫も呼び寄せるなど、迷惑以外の何でもないだろう。
だから、反対に米をちゃんと育てるのはすごく難しいのだ。下手に世話をしすぎれば、雑草魂に傷を付け逆に枯れてしまったりする。虫や病気からも守らなければならない。それらをクリアした後に、この美味しさに出会えるのである。
それに、このユキちゃん家のお米はなんだかひと味ふた味違う気がする。その疑問を素直に投げかけると、なんとミュエルさんたちは品種改良を行っているのだとか。だから、食感や色艶、弾力がこれだけ違うのだと、やっと納得できた。この美味しさは、彼らの苦労に苦労を重ねた努力の結晶そのものなのだ。
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