29 / 67
29.『desire』の問題児2~心配~
しおりを挟む「あ~腹減ったぁ・・・・・・」
空腹を訴える腹を擦り、一階のフロアへと降りる。時計は正午過ぎを指しており、開店準備前の腹ごしらえだ。先ほどからくぅうと気の抜けるような音を出す腹に、『満たしてやるからな』という思いを込めて優しく擦った。
『いただきます』と小さく心の中で呟いてスプーンを手に取る。思わず口に出して言ってしまいそうだが、この世界では食前の挨拶をする文化はないためいつも心の中だけで言うのだ。
食事はいつも同じメニュー。基本的にはスープとパンだ。ここでの主食はパンで、店に食べに行っても米は見たことがない。まぁ米を食べたすぎて色々勝手に買えるルートを開拓したけど・・・・・・その話はまたの機会にしよう。
スープは昼は軽めに具が少なめで、キャベツみたいな野菜とコーンみたいなのが入った至極ヘルシーなスープだ。がっつり食べるときは色々な具がごろごろ入っていて、イメージ的にはシチューや鍋みたいなときもある。味はどれも薄めだけどね。
キャストたちが食べる食事も、見習いの子たちが全て作ってくれている。本当に、みんな働き者だ。
うん、おいしい。薄い塩味だけど、シンプルイズベストっっていうのかな。この世界の食事はクドいか薄いかの二択だけど、店での食事は薄味一択。でもそればかり食べていると味覚が覚醒するのか、薄くても美味しく感じられる様になったのだ。口に含むと野菜がほろほろと崩れて、優しい甘みが広がる。質素だけど、おいしい。
自然と口角を上げながら、皿に載ったパンに手を伸ばす。ごわごわとした手触りで、ずっしりと重いそれを、手に力を入れてバリバリと割る。固いパンしかないらしいが、俺はもともとふわふわよりも固い方が好きなので、頑張って千切った塊の片方に齧り付く。中には顎がだるくなるとスープに付けながら食べる者もいた。
「え~またぁ~?もぅ、しょうがないなぁ」
噛みごたえのあるパンを咀嚼していると、少し離れたところからモモの呆れたような声が聞こえてきた。モモはいつも、声がでかい。
モモの前では、食器の載ったトレーを持ち困った顔をしているユキちゃんが立っている。それを見て、俺もモモと同様に『またか』と思った。
コンは、ここに来てから碌に食事を取らないのだ。無理矢理押しつけても、せいぜい食べるのはスープ二口とパンを三口程度で、本当に、食べない。ただでさえ痩せているのに、いつか倒れるのではないかと気が気ではない。だが俺が食事を持っていくと絶対に一口も口に入れないので、俺はどうすることもできなかった。それほどまでに嫌われている俺ってすごくね?と変に感心してしまう。
いや、感心している場合ではなく、本当にコンの身体が心配だ。それまで元気よく咀嚼していたパンが突然重たく感じられ、顎を動かすのに困難さを覚えた。
25
お気に入りに追加
399
あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる