異世界ホストNo.1

狼蝶

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28.『desire』の問題児

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「おっ、新入りかい?名前は何て言うんだ?」
「うっせぇ、気安く話しかけんなっ!」
「なっ、なんだこいつ!!」
 あれからしばらく経った今、コンは『desire』で“見習い”として働いていた。“見習い”とは年が若くキャストとして働けない者たちのことで、彼らはキャストたちの部屋や店内の清掃、料理や飲み物作り、キャストたちの服の洗濯など、細々とした雑用を任されている。キャストとしてはモモが最年少であるが、見習いは皆モモよりも年下の者たちなのである。まぁ、モモがダントツで子どもっぽい性格なのだが・・・・・・。
 話をコンのことに戻すが、顔の良い(自分で言うのが憚られる)俺に買われたことが大層ショックだったらしく、あの後コンは皆が唖然とする発言をしたのだった。
~~
 コンが俺の素顔を知って脱兎の如く風呂場から逃げ出した後、店長の背後から散々拒絶の言葉を浴びせられた。
『俺に近寄るなっ!俺のこと欺しやがって!!』
『ちょっとコンくん、』
『違う!!俺はコンなんかじゃないっ!こんな奴につけてもらった名前なんかいらないっ!!』
 俺のことを攻撃するコンを店長が窘めるが、めちゃくちゃショックなことを言われてしもた。ふざけなきゃやってらんないよ・・・・・・。
『俺をここで働かせてくれ』
 チン、となっていた俺とその状況を窺っていたキャストたちの前で、コンがびっくりするような要求を店長にぶつける。
『え、ど、どうして・・・・・・?』
困った顔をした店長が、首を傾げる。俺もみんなも、コンの口から出た予想だにしなかった言葉に、咄嗟に反応をすることができなかった。
『働いて、自分で自分を買う!だから、俺をここで働かせてくれ』
『因みに、ナナミくんは君をいくらで買ったんだい?』
『金貨一枚』
『『『金貨・・・・・・!!?』』』
 コンの答えに店長は絶句し、キャストたちはざわざわと騒ぎ始めた。俺は相場がわからなかったため、回りの反応にビクリと身体を揺らす。
『コンくん、うちで働いてもらうのはいいんだけど・・・・・・金貨を稼ぐとなると、道のりは長いよ。それでもいい?』
 言い聞かせるような店長の物言いに、コンはごくりと唾を飲み込む。周りで見守るキャストたちも、悲痛そうな顔で頷いていた。
 そしてコンは、決意を固めたように唇をキツく引き結び、こくりと一つ頷いたのだった。
 ~~
「申し訳ございません。この子、まだ慣れていなくて」
 コンが『desire』で働き始めて三日、開店中テーブルを拭いたり物を運んだりと働いているが・・・・・・彼の客への態度が最悪だった。
足に付けられていた鎖を外し、綺麗に磨かれた彼の容姿はとても美しく(俺の感覚では)、年若いながら成長したら絶世の美青年になることが予想された。未だに身体は痩せているが、汚れを洗い流した彼の髪は黒にほど近い青色で、鈍く光る様子が色気を発しているように見える。その髪色が珍しく、声をかけてくる客も絶えないのだが、コンの一言で皆撃沈するか憤怒するかしていた。
そして客ばかりでなく、コンは同じ見習いの立場の者やキャストたちとの仲も最悪であった。
 まずモモが先輩風を吹かせて『わからないことあったら僕が教えてあげる』と言ったときに、フンと首を逸らして無視をしたのである。そこでモモは怒ってしまい、『もう教えないもん!』と幼児のようになってしまった(その後泣きついていたモモはクソ可愛くて、撫で回した)。
 先輩見習いの子たちも、仕事を教えようとしたが俺に対するように拒絶をされ、教えるどころではなかったらしい。皆が店長に苦情を言い、仕方なく店長が直々に仕事を教えることになったのだった。それもまた、店長大好きなみんなの反感を買った。
 コンは店長にはベッタリで、何かあるとすぐに引っ付きに行くため、皆は段々とコンの存在を疎むようになった。
 コンの態度はでかく、客であっても口調や行動は乱暴である。そのため客とのトラブルが絶えず、その度に教育係に任命された先輩見習いが頭をペコペコと下げて謝罪を繰り返していた。
 今も積んだタオルを洗面所に運ぶ途中、声をかけてきた客に向かって失礼な態度を取ったため、客が気分を害して怒鳴ってきたようである。謝り続ける見習いの子が可哀想で、思わず俺も謝ると、客は溜飲を下げて席へと戻ってくれた。大きなトラブルにならなくてよかったと溜息を吐く。
「あ、ありがとうございます・・・・・・」
 コンの教育係・・・・・・来年からキャストに昇格する見習いの中での最年長、ユキちゃんが、俺に向かって頭を下げてきた。目には涙が溜まっている。
「ううん、どうってことないよ。これからも、できる限りフォローするから」
 安心してもらえるように、にこりと微笑む。すると“ぽっ!”と音が出るみたいに顔を真っ赤にさせて、あわあわと慌てだしてしまった。
「そうやって優しい顔してほんとは心の中で馬鹿にしてるくせに」
 慌てるユキちゃんにほっこりさせられていると、それを見ていたコンがシラケた目でぼそりと呟いた。ギリギリ俺に聞こえるくらいの声の大きさだった。
「俺仕事に戻りますから」
 そう言って俺を一睨みしてから去って行く。数歩歩いた先で客とぶつかり、文句を言われている。それに対する態度が悪かったからか、客の顔が怒気を孕んでいた。
「ナナミさん、ありがとうございましたっ。僕、ちゃんと頑張りますからっ」
 ユキちゃんはコンが再びトラブルを起こしていることを察知し、最後にぺこりと頭を下げると怒っている客の方へと走って行った。
 大変だな・・・・・・。また客に頭を下げているユキちゃんを見て、心が苦しくなる。一方で飄々とした表情で突っ立っているコンに、俺は少しだけ反感を抱いてしまった。

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