25 / 67
25.拾い子6~まずはお風呂に!?~
しおりを挟む「なぁ、これって一人いくつ貰えんのー?」
少年の名が決まり一段落付いたと思ったとき、カシアがキッチンから顔を出しそう尋ねてきた。その下からはモモも顔を出していて、わくわくと期待に満ちた表情でこちらを覗いている。
店にある分買ってきたことから、正直いくつ買ったのか把握していなかった。一体何個あるんだろう。そのことを正直に言うと、二人が嬉々として『じゃあ数える!』とキッチンに消えていったので、二人に任せることにした。二人を見送り、俺はそういえば、と巾着から小さめの紙袋を取り出す。
「はい、店長。店長が好きそうなやつ見つけたから、買ってみました」
そう言って店長に渡したのは、街で見かけたあの毒々しい色のカップケーキのようなお菓子。紙袋の中を覗いた店長はぱぁっと顔を輝かせると、緩んだ顔で嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとうナナミくん。とっても美味しそうだよ」
そう言ってふにゃりと笑う店長の顔は、とても可愛らしい。
「えっ何々~。店長何もらったの~って、ゲッ!色ヤバっ!!店長それ食べんの!?」
「さっすが店長、変な物好き!俺そんなの食べられないよぉ」
「アハハハ!色!色がっっ間緑色とかっ!!」
皆に覗かれ、散々笑い者にされる店長。にこやかだった顔に影が射した気がした。
「今笑った子たち・・・・・・、君たちは今日の掃除係決定」
「「「ゲッ!」」」
ある意味にこにこ顔になった店長に、今日の閉店後の掃除当番を言いつけられたお調子者三人組は、ついさっきまで浮かべていた笑顔を取り消し情けない顔になった。
「やったぁ、三人とも、サンキュー!」
「思ってても黙ってれば良いのにねー」
一方で、元々掃除当番であったキャストたちが彼らに感謝を述べ『ラッキー』と笑い合う。
「「「店長ごめんなさい・・・・・・」」」
「ふふっ、ダーメ♡」
三人は謝ったが、天使の笑顔の店長に優しく拒否をされた。ガックリと肩を落としてふらふらとソファに腰を下ろす。実は俺も店長にお土産を渡すとき、『ハイこれ店長に。店長、変な物好きだから』とか言おうとしていたが、言わなくて本当によかったと心の底から思った。
「折角ナナミくんがお菓子買ってきてくれたから、仕事の前にお茶にしようか」
店長の一言に、キャストたちが一気に騒ぎ出す。開店まではまだ時間があるため、直前準備までゆっくりできそうだ。
「じゃあ俺、お茶の準備してきますね」
「僕も手伝う~!シノ兄ちゃんも、いっしょにやろ?」
「みんな、お茶する前に部屋の準備してくること。それと、お茶し終わったら速やかに開店準備に取り掛かること。いいね?」
「「「はーい」」」
カシアとモモ、そしてシノがモモに引っ張られてカウンター裏へと消えていく。浮かれている空気感の中で店長が釘を刺し、皆が元気よく返事をしてそれぞれの部屋へと戻っていった。
「さて、コンくんのことだけど・・・・・・」
「は、はい・・・・・・」
皆が軽やかな足で上へと上がっていくのを見て、店長が俺に身体を向け直す。お土産の一件で忘れかけそうになっていた話題に再び触れられ、背筋が伸びた。
「まずはお風呂に入れてきてくれる?」
「・・・・・・はい?」
「あ、ナナミくんもついでに一緒に入っちゃえばいいや。よろしくね。話は後でゆ~っくり聞かせてもらうからさ」
有無を言わさないという風にそう言い放つと、店長は大事そうに抱える紙袋の中を覗いてはにこりと微笑んだ。
確かにコンは全身が汚れており、入浴が必要だろう。しかし、一緒に入っても大丈夫だろうか・・・・・・?
「ということだから、まずお風呂行こっか」
そう言って手を差し伸べると、黙ったまま一つだけ頷き、手を重ねてきた。傷だらけの小さな手。先ほど垣間見た傷だらけの身体。泥や血がこびりついた顔や肢体に同じく泥で汚れた髪。
その全てを、綺麗さっぱり落としてあげたい。そう思いながら、俺はコンを連れて浴室へと向かっていった。
26
お気に入りに追加
399
あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる