異世界ホストNo.1

狼蝶

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25.拾い子6~まずはお風呂に!?~

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「なぁ、これって一人いくつ貰えんのー?」
 少年の名が決まり一段落付いたと思ったとき、カシアがキッチンから顔を出しそう尋ねてきた。その下からはモモも顔を出していて、わくわくと期待に満ちた表情でこちらを覗いている。
 店にある分買ってきたことから、正直いくつ買ったのか把握していなかった。一体何個あるんだろう。そのことを正直に言うと、二人が嬉々として『じゃあ数える!』とキッチンに消えていったので、二人に任せることにした。二人を見送り、俺はそういえば、と巾着から小さめの紙袋を取り出す。
「はい、店長。店長が好きそうなやつ見つけたから、買ってみました」
 そう言って店長に渡したのは、街で見かけたあの毒々しい色のカップケーキのようなお菓子。紙袋の中を覗いた店長はぱぁっと顔を輝かせると、緩んだ顔で嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとうナナミくん。とっても美味しそうだよ」
 そう言ってふにゃりと笑う店長の顔は、とても可愛らしい。
「えっ何々~。店長何もらったの~って、ゲッ!色ヤバっ!!店長それ食べんの!?」
「さっすが店長、変な物好き!俺そんなの食べられないよぉ」
「アハハハ!色!色がっっ間緑色とかっ!!」
 皆に覗かれ、散々笑い者にされる店長。にこやかだった顔に影が射した気がした。
「今笑った子たち・・・・・・、君たちは今日の掃除係決定」
「「「ゲッ!」」」
 ある意味にこにこ顔になった店長に、今日の閉店後の掃除当番を言いつけられたお調子者三人組は、ついさっきまで浮かべていた笑顔を取り消し情けない顔になった。
「やったぁ、三人とも、サンキュー!」
「思ってても黙ってれば良いのにねー」
 一方で、元々掃除当番であったキャストたちが彼らに感謝を述べ『ラッキー』と笑い合う。
「「「店長ごめんなさい・・・・・・」」」
「ふふっ、ダーメ♡」
 三人は謝ったが、天使の笑顔の店長に優しく拒否をされた。ガックリと肩を落としてふらふらとソファに腰を下ろす。実は俺も店長にお土産を渡すとき、『ハイこれ店長に。店長、変な物好きだから』とか言おうとしていたが、言わなくて本当によかったと心の底から思った。
「折角ナナミくんがお菓子買ってきてくれたから、仕事の前にお茶にしようか」
 店長の一言に、キャストたちが一気に騒ぎ出す。開店まではまだ時間があるため、直前準備までゆっくりできそうだ。
「じゃあ俺、お茶の準備してきますね」
「僕も手伝う~!シノ兄ちゃんも、いっしょにやろ?」
「みんな、お茶する前に部屋の準備してくること。それと、お茶し終わったら速やかに開店準備に取り掛かること。いいね?」
「「「はーい」」」
 カシアとモモ、そしてシノがモモに引っ張られてカウンター裏へと消えていく。浮かれている空気感の中で店長が釘を刺し、皆が元気よく返事をしてそれぞれの部屋へと戻っていった。
「さて、コンくんのことだけど・・・・・・」
「は、はい・・・・・・」
 皆が軽やかな足で上へと上がっていくのを見て、店長が俺に身体を向け直す。お土産の一件で忘れかけそうになっていた話題に再び触れられ、背筋が伸びた。
「まずはお風呂に入れてきてくれる?」
「・・・・・・はい?」
「あ、ナナミくんもついでに一緒に入っちゃえばいいや。よろしくね。話は後でゆ~っくり聞かせてもらうからさ」
 有無を言わさないという風にそう言い放つと、店長は大事そうに抱える紙袋の中を覗いてはにこりと微笑んだ。
 確かにコンは全身が汚れており、入浴が必要だろう。しかし、一緒に入っても大丈夫だろうか・・・・・・?
「ということだから、まずお風呂行こっか」
 そう言って手を差し伸べると、黙ったまま一つだけ頷き、手を重ねてきた。傷だらけの小さな手。先ほど垣間見た傷だらけの身体。泥や血がこびりついた顔や肢体に同じく泥で汚れた髪。
 その全てを、綺麗さっぱり落としてあげたい。そう思いながら、俺はコンを連れて浴室へと向かっていった。

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