異世界ホストNo.1

狼蝶

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22.拾い子3~現金な大人たち~

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 呆然と彼の行った方向を眺めていたが、ふと足元の存在を思い出す。
 少年は今だにローブを掴んだままで、まんまるな目で俺を見上げていた。
 くっ、かわいいっっ!!撫でたいが、いきなり頭を撫でたら逃げられてしまいそうだ。警戒心MAXの猫ちゃんみたいにね。
 さて、おっさんに金貨を渡すという一部始終を見ていた周りの人々ですが・・・・・・、絶賛ざわざわ中です。
 俺の評価がいきなり”地味な不細工”から”金持ち不細工”になったようで、皆目がギラギラとしてきたのがわかった。
 買い物客たちは、遠巻きに噂話をしていて、俺の足元にいる少年のことを怖い目で見ている。
 もぅ、大人が子供を見る目じゃないな、これは。
「っ!?」
 俺はそれらの視線から隠すように、ローブの端を広げて少年の姿を覆った。
 バッ、と再び見上げてきた頭を自然な流れで撫でてしまうが、逃げられることはなくてよかった。
 撫でる前に一瞬ビクッとされてしまったのがショックだったが、まず触らせてくれたことが前進だ。

「にいちゃん、どうだいコレ――」
「そこの旦那、これ、今ならまとめて買うと――」
「お兄さん、これ美味しいよ――」
 おっさんが消えてからしばらく経った後、店の人たちからワッ!と一気に声をかけられる。
 店々から伸ばされる手に引っ張られそうで、恐怖心から俺は歩道に後ずさった。

 みんな、現金だ。
 さっきはガン無視(後にガン飛ばし)してきた青果店のおっさんも、目の色を変えて俺に微笑みかけていた。
 仕方ないことだが、そのあからさまな態度にムッときてしまう。
 俺は癒し補充のためにもう一度少年の頭を一撫でしてから、彼が足にぶつかってくるまで物色していた菓子店へと近づいて行った。あの巨大なシュークリームの様な菓子だ。
 若い店員さんは俺が近づくと緊張したように顔を強張らせる。
「すいません、コレ、あるだけください」
「はっ、ハヒッ!」
 俺はその店員さんに金貨を渡すと、彼は落としそうになりながらもそれを受け取り、大急ぎで準備をし出した。

 因みに、ここまで俺の脳内はパニック状態だ。
 金貨投げたらなんかみんなに注目されて、声かけられて、手招きされて、物売られてさぁ。こんな難易度高めな状況、ショボコミュ力保持者の俺に切り抜けられるとでも思うかね?
 さっき見てた菓子店が偶々目に入ったからふらふらと歩いて行って、頭真っ白のまま全部注文しちゃったんじゃ!

 少し落ち着いたところで店の中に目を向けると、若い店員さんの顔が必死の形相になっていた。山の様に積んであったのだ。さぞかし大変だろう。緊張によるものだと思われるが、紙袋を広げたり一つ一つ掴んで入れる作業に難儀しており、最後は半泣き状態だったが、プロ顔負けレベルの速さでこなしていた。
 『でっ、できまひたっ!!』と急ぎすぎて噛んだらしい彼に、顔を近づけて『ありがとうございます』って囁いたら顔を真っ赤にさせたんだけど、急ぎすぎて熱あがっちゃったのかな?

 さて『desire』のみんなへのお土産も買えたし、帰ろう!と思い、山いっぱいのシュークリームもどきを積んだ紙袋二個を抱き抱える。
 足元を見ると、未だにローブを強く握り締めている少年。俺が買い物をしている間、ずっとその状態だったのだ。
 俺は紙袋二つを片腕に抱え、開いた方の手を少年へと差し出した。不思議そうに見てくる彼の、力の籠った手にそっと触れ、ローブから離すと手を繋ぐ。
「行こっか」
ぎゅうと小さな手を握り、少年へと微笑みかける。眼鏡で見えていないかもしれないが、声の雰囲気で無害だとわかってくれたようだ。
 彼も、弱々しいながらも手を握り返してくれた。

 さて、買い物へ行って子供を連れて帰ってくるって、店長とかみんな、驚くかなぁ・・・
 そんなことを呑気に考えながら、俺は少年の手を引いて歩き出した。


 ***

 ~後に残された街の人たち

「兄ちゃん、災難だったね。あんな大量、ありがてぇけど正直拷問だぜ」
「しかも客がねぇ・・・どっちも不細工ときた」
「若い店員さん、アンタ今留守にしてる店長に店任されてんだろ?大丈夫かい?あんな不細工に商品売って。評判が落ちるとか言って叱られないかい?」
「・・・・・・だった」
「「え?」」
 エプロンを握り顔を俯かせている青年の呟きを、周りは聞き取ることができずに聞き返す。
 すると青年はぽぅっと何かに見入っているような顔面を上げた。
「全然不細工じゃなかった・・・・・・。あれは、美の神だ」
「「「っえぇええええ!!?」」」
 その後の大騒動を、すでにその場を去ったナナミたちは知る由もなかった。

 ***

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