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20.拾い子1~ナナミ、初めての街でのお買い物~
しおりを挟む今日は街にやってきた。『desire』の周辺は風俗店が多く、そこから少し行ったところに食べ物などの買い物ができる店が並んでいる。しかし日用品や雑貨などの特別な物は、街にある大きな商店に行かなければ買えないのだ。
今日は大金・・・金貨三枚を握りしめ、賑わう休日の街に繰り出していた。正直これ、すっごい大金。貨幣の価値を見ていくと、まず銅貨で、次に銀貨、そして金貨、そしてそしてその上に大金貨が存在する。銅貨十枚で銀貨一枚分であり、銀貨五十枚で金貨一枚分となる。そして金貨二十枚で大金貨一枚分となり、リリアム兄弟を始めお客さんたちが俺に支払ってくれる対価の高いことがお分かり頂けただろう。
もう俺、国を傾けられちゃうぞ?(財力で)(♡)(括弧ばっか煩いな笑)
まぁ落ち着いて。因みに俺の一応定められている金額は、『一晩:金貨一枚』である。うん、落ち着いてられないな。たっっっかすぎるやろ!俺なんかと半日いっしょに過ごすだけとか、銅貨三枚くらいでいいんじゃない?てか、それでも高くない?
そう素直に思ったことを言ったら、店長やお客さん方にすっごく冷たい目で見られたのだが・・・・・・。俺、なんか間違ったこと言った?
というか、眩しいほどの美貌を持つみんなと一緒の時間を過ごさせてもらって、しかもえっちなことまでしちゃうって・・・・・・これ逆に俺が払った方が良くない?って、思った事をそのまま言っちゃったら、いつもえへえへで射精ばっかしているアリスさんがプッツンとキレて、『私、Sになってナナミさんを泣かせますよ?』とか天変地異が起こりそうなこと言ってきたんだっけ・・・・・・。あれは衝撃的だったな。もう思っても言わないことにする。
そして話を戻すと、『desire』には週に一日だけ休日があり、その日以外はキャストが日替わりで休日をもらっている。今日は俺の番というわけだ。
帽子を深く被り、普段慣れない黒縁の眼鏡をかけ直しながら、店頭に並ぶ珍しい果物たちに目を通していく。日光を浴びて艶々と光る赤色の果物は、プラムのような大きさだが味を予想することができない。全くの未知なるものだ。その隣に置いてある黄色い果物も、形が三角形のパンのようで、中身がどんな風になっているのか興味をそそった。
実は俺、街に来るのは初めてである。ん?と思われた方もいると思うが、今俺は帽子を被り、だて眼鏡を掛けて変装をしている状態だ。
記憶のない設定を背負っている俺に対し店長はそれはもう過保護で、今日も幼稚園児よろしく
『ほら帽子被って、眼鏡して、なるたけ地味に見えるようにしてね。ナナミくん、格好いいんだから、変装バレちゃったら誘拐されちゃうよ!?』
だの、
『忘れ物ない?お金持った?本当に両替えしなくて大丈夫?やっぱ金貨だけじゃ使い勝手が――』
だの、そして最後にはとうとう
『いい?知らない人について行っちゃ絶対にダメだからね?ちゃんと『desire』に戻ってくること。ここがナナミくんのお家なんだから』
などと、甲斐甲斐しく世話をされて送り出されたのである(最後の方なんか感動的な言葉かけられたな)。まるで初めてのなんやらみたいだと思いながらも、本当に心配してくれていることを感じ、完璧な変装姿で店を出た。店長だけでなくキャストみんなからも心配をされ、俺の信用はどうなってんだと思うが、実際大きな街は初めてだから、何も言えない。
どうしよう、思い出したら不安になってきた。俺、上手く買い物できるかな・・・・・・?
今までは店のみんなと常連の客、そして一歩店の外に出れば近所づきあいのある顔見知りの人達に囲まれた生活を送っていた。元々人とコミュニケーションを取ることが滅法苦手な俺でも、慣れとみんなの接しやすさで人並みの付き合いができているのだ。
しかしどうだろう、ここは普段俺が生活している、所謂『不細工の多い地域』ではない場所である。
『desire』のある一帯は世間では醜いとされる者たちが多い。中央都市の“掃きだめ”とさえ言われているのだが、俺にしたら反対に天国のような場所である。どこを見ても美顔、美顔、だからだ。
だがここではその様な人達は布やローブなどで身を隠しており、非常に居心地悪そうにこそこそと歩いている感じである。一方で顔の良い(?)人などは、ふんぞり返る勢いで胸を張って歩いており、ぶつかったら文句の一つや二つを喰らいそうな態度だった。
それにしても、広い・・・・・・。
街は、思った以上に賑わっていた。ザ・市場という感じだ。
上手く店の人とコミュニケーションを取れるか、緊張に唾を飲み込み、俺は気になった果物を購入しようと一つの露店に近づいた。
よし、これを買おう。
普段近場の市場で見ることのない、俺にとっては珍しい果物を手に取る。値段を見ると、“銭貨三枚”と記されていた。
今俺の持つ財布の中には、銭貨という貨幣はない。銭貨は銅貨のさらに細かい単位で、十枚で銅貨一枚分の価値となる貨幣なのである。今まで銭貨がなくても買い物できたのは、近所の店では銅貨以上の貨幣しか使っていないからだった。
よくよく考えると、この街の店に並ぶ商品はどれもとても安い。おそらく“掃きだめ”で店を出す商人たちはその容姿から買い付けの際に商品を高く買わされ、それに利益が上乗せされる形となるため、必然的に店に並ぶ物の値段が上がるのだろうと思われた。
要するに、ぼったくられているのである。“掃きだめ”にいる商人も、住人も。
ひっどい話だ。憤りながらも、手に取ったつやつやの実を棚に戻し、腰に付けた布巾着の紐を緩める。
金貨しか持ってきてないけど、お釣りあるかな・・・・・・?ちらりと店主を見ると、彼は物を物色している客にデレデレと鼻の下を伸ばしていた。店主は身体にも顔にも肉が満ちており、彼がこの世界での“イイ男”だということがわかる。客も同じような体型の男だった。俺も客のはずなのに、見事にガン無視されているのは変装のおかげだろうか。
あからさますぎる態度にやや不安になりつつも、この世界に来て初めての“醜くない人”に向かって話しかけてみることにした。
「あの、これ――・・・・・・」
「あん?」
あ、無理だコレ――!!!
俺はすぐに『何でもないです!』と呟いて、手に持っていた商品を棚に戻した。アカンだめだこれ。こわすぎるんですが!?
両替的なことできるか尋ねようとしたんだけど、不細工認定されている俺への視線が絶対零度すぎて、声を発し続けるのが辛い。
もう一度言おう。だめだこりゃあ。
銭貨と銅貨に替えて出直してこいってことかな・・・・・・。出発する前に店長が『両替しようか?』と何度も言ってくれたのを思い出し、やっぱりしてもらえばよかったと今更ながらに後悔する。
しつこいくらいに言ってくれた理由が、今わかった。両替えなんか頼んだら迷惑になるんじゃないかという思いもあったが、中央都市だし、金貨で普通に買い物ができると思っていたのだ。だが、思ったよりもここの物価が低すぎた。いや、逆に近所が異常に物価高なんだ。
ヤバい。買い物せずに帰ることになってしまう。俺はとりあえずこっわいおっさんの店から離れると、道の真ん中に足を進めた。
まったく、さっきのおっさんもアリスさんたちを見習えよ!ちょっとは可愛げを持て!などと頭の中で毒づきながら、店を冷やかしていく。
時折ローブを深く被った人とすれ違うが、皆下を向いて早足で通り過ぎていき、彼らとすれ違った人達は嫌そうに顔を顰めていた。俺も、なんとなく歓迎されていない視線を向けられる。
う~ん、どうしようか。食品も、雑貨も、何もかもが安い。金貨なんて出したらお釣りに困って怒られるか、それともこんな奴がなぜ大金を持っているのか疑われ、連行されてしまうかもしれない。
今度は店長の言うことを聞いて両替えしてもらってから来ようと思い、今日はウィンドーショッピングだけして帰ることにした。みんなにお土産を買って帰りたかったが、菓子を大量に買っても銅貨二、三枚ほどであるから、結局買えないだろう。
あーあ、と残念に思いつつも甘い匂いに誘われて菓子を売っている店にふらふらと近づくと、店頭にはシュークリームに似た大きな焼き菓子が山のように積んであった。値段を見ると、一つ銅貨一枚で、かなり根が張ることがわかる。
たっかい菓子を買えば良いのでは!?とそこでピンときた。中央都市なのだから、きっと中心部には高級菓子店などが立ち並んでいるのだろう。そこで爆買いをすれば良いのではないかと思いついたのだ。
そんなに無理に使わなくてもよいのだが、折角遠くまで来たのにウィンドーショッピングだけなのもつまらない。
どうして菓子にこだわるのかって?それは単純に、甘い物が好きだからでっす。つまらん答えで悪いね。ま、正直欲しいものとか今ないし、甘い物が貴重な世界らしいからね。それとこの世界のスイーツに興味が大ありなので。
「うっわ、うまそ~」
うきうきとしながら立ち並ぶ菓子店を一つ一つ覗いていく。元の世界でもそれほどスイーツには詳しくはないのだが、明らかに様相が異なる物体もあり、とても興味がそそられる。毒々しい色のものは食欲は沸かないが見た目には面白い。絶対店長が好きなやつだ(店長変な物好きだから)。
「オイ!待てコラ!!」
これと、これと・・・と頭の中で計算しながら商品を物色していると、背後で腹の底が響くような怒鳴り声が響いてきた。自分が怒鳴られたわけではないと思うが、心臓がぎゅっと萎縮してしまう。
声がした方を見るため振り返ろうとした瞬間、どん、と足に軽い何かがぶつかった。
「あっ、テメっ!」
足下を見ると、泥だらけでぼろぼろの服を着ている子どもが、俺の足にしがみついていた。よほど強く握りしめているようで、ローブの裾に大きな皺ができている。上から顔は見えないが、ボサボサの髪も白く汚れていた。
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