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11.商売敵からのスパイ、スルギの巻 おまけ
しおりを挟むスルギは今でも毎日鞭を握り、懸命に働いている。しかし、どうやっても店の売り上げNo.1には届かないでいた。
そして、スルギが懸命に働いている理由はNo.1のキャストを超えたいというものだけではなかった。毎日一生懸命鞭を振るうのは、ナナミに会うためだ。
キャストを指名するに当たって値段は一応決められている。しかしナナミの料金設定はかなり高いのだ。頑張って稼げば何とか払えるが、なんとなくプライド的に多めに支払ってしまうのだ。まぁ、そのくらい満足しているのだが。
今日は月に一回の楽しみ、『desire』に行く日だ。一回目の指名の場合予約が可能だが、それ以降は予約不可で、日によってはナナミに会えないときもある。しかしその日はその日で他のキャストと話し、飲み、食べて楽しむのだ。今までは仕事一筋で、店の外には気を向けたこともなかった。しかし、『desire』に行くようになって、そこで働くキャスト達に触発され、自分も励もうという気力が沸いてくるようになったのだ。
特に、『desire』最年少のモモとは背丈も近く、低身長同盟を結んでいる。カシアとは世間話、そしてシノとはエロ話(ナナミに関する)に花を咲かせていて、なんだかんだ楽しんでいた。
今日も、薄暗い路地の中淡い明かりの灯った『desire』の扉を押し開け、煌びやかな空間に身を投じる。
受付に行くと、それほど見目も良くない年若いボーイが穏やかな顔で迎え入れてくれる。
「誰を指名されますか」
「“ナナミ”を」
言い慣れた名前を述べると、ボーイの眉が残念そうに下げられる。
「申し訳ございませんお客様。本日ナナミは他のお客様の担当となっておりますので――モモならばちょうど空いておりますが」
「じゃあモモをお願いします」
「畏まりました。あちらのテーブルでお待ちください」
ナナミがいないのは残念だが、モモとも話したいことがあったのでよしとする。チビ談笑という奴だ。
指定されたテーブルに向かう途中、少し先の方にナナミの背中が見えた。思わず声をかけようと思ってしまったが、今自分は指名した客でないためぐっとこらえる。もどかしい気持ちで堪えながらその後ろ姿を見つめていると、彼の逞しい腕に小さな身体が引っ付いた。その後ろ姿に、既視感を抱く。
そして次の瞬間、スルギはハッとした。
「ふぇっ、フェリス!!?」
瞬間的に口を開いてしまった。スルギの声に振り向いた少年のような青年は、スルギの姿を認めると目を見開いて驚愕を露わにしている。
「す、スルギっ!?え、マジで!?」
気まずそうに笑う気弱そうな青年。目の下にある泣きぼくろが、客曰く『泣かせたい顔』なのだとか。
「違うっ!いや、違くはないんだけどっ、これは、なんていうか・・・・・・」
焦りながら言い訳を捻出しようとしている泣きぼくろの青年は、『carrot & stick』でのスルギの同僚、そしてスルギの超えられない壁――No.1のキャスト、“フェリス”であったのだ。
いくら頑張って客を増やしても、なかなかたどり着けないNo.1。それもそのはず、フェリスも馬車馬のように働いて山のように稼ぎを増やしていたからなのだ。何故にそんなに働いて稼ぐのか。
スルギは目の前の光景を見て、その理由がわかった気がした。
――商売敵からのスパイ、スルギの巻
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