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3.ナナミとキャスト達の初対面時
しおりを挟む「今日からここで一緒に働くことになった、ナナミくんです。みんな、仲良くしてあげてね」
そう言ってにこにこと笑う店長に肩を抱かれ紹介された男の容姿を見て、キャストたちは皆驚愕した。
『『『なんだこの、美丈夫はっ!!?』』』
皆の心の声が大合唱する。
「ヨヨギ ナナミです。よろしくお願いします」
絶対にあちらの方が見目が良いはずなのに、醜い自分たちに向かって丁寧に下げられた頭を見て、皆が困惑する。
『え、引く手あまたじゃね?なんでこの店?』
と、店長が聞いたら笑顔でげんこつを落とされそうな失礼なことを、キャストたちは心の中で思った。
だがそう思うのは無理もないことであった。ここは夜の蝶宿であり、正真正銘自分の身を売る場所である。が、『desire』は醜い客専門の店であり、彼らを向かい入れるキャストたちもまた、あまり見目が良いとは言えない者たちであるからだ。
今シノたちの前に立っている長身の、極上といえるほどの美貌を持つ彼なら、王都の高級娼館でも売上一位を獲れるだろう。だからこそ、皆は何故彼のような美形がこの店で働くことになったのか、疑問に思った。
「ね、めっちゃイケメンじゃない!?店長どこで拾ってきたんだろう?」
「それな。てか、よくうちで働くな。あの顔じゃ、普通のとこの方が稼げるのに」
「しっ、店長が何か言ってるよ・・・・・・世間のことに疎いから色々教えてあげてだって。え、もしかして彼って俗世の人間じゃないとか?」
「俗世の人間じゃないってどういう意味だ?どっかの国の王子とか?」
「それだったらなんで・・・・・・。もしかして、何か重罪を犯してその罰として・・・とか?」
「え、マジか。一体どんな罪犯したらあんなイケメンがこんな店で働くことになるんだ」
「ちょっとカシア!うちの店に失礼だろ!!」
「ごめん、そんなつもりじゃ」
「でも、悪い人には見えないよ?」
「モモ、人は見かけによらないんだよ。危ないかもしれないから近づいちゃダメだよ?」
「でもでも、かっこいい・・・・・・」
ほぅっと両手を口元においてナナミと名乗った謎のイケメンに見取れるモモに、キャストたちが『確かに』と共感する。
「まだわからないことも多いので、教えて頂けると嬉しいです。よろしくお願いします」
再び頭を下げるナナミに、『しかも優しそう!!』と感動する面々。
遠慮深げに微笑むナナミに皆がうっとりとしていると、キャストの中からモモが飛び出しナナミの腰に抱きついた。
突然の行動に、隣にいたシノとカシアがぎょっとする。
「ちょっ、モモ!!」
「んふふ・・・・・・僕、モモ。よろしくね」
モモの行動に皆顔が強ばった。いくら物腰が柔らかくて優しそうでも、顔の良い人間は大抵性格がねじ曲がっている。それが経験上、皆の共通認識にあったからだ。見目の悪い者に親しくされるのを、美しい者は嫌う。酷いと同じ空気を吸うのも許されないときもあるという。
ナナミの腹部にすり寄ったモモが甘えたように笑った。見ていて気が気ではないシノが引き剥がそうと動いたとき、ぼそり、とその場に麗しい声が響いた。
「えっ、かわっ・・・・・・。えっと、モモくん・・・・・・よろしくお願いします・・・・・・」
『今可愛いって言いかけたっ!?しかも撫でられているだと・・・!?』
特別嫌悪感を出すわけでもなくほわりと微笑んだナナミに、皆一斉に心臓を打ち抜かれる。それを間近で見、しかも頭を遠慮がちに撫でられているモモは、自分から行ったわりに一体何が起きているのか混乱している風であった。
『てかモモ、撫でられてるとか羨ましい・・・・・・!!』と何人かが羨望の眼差しで見ていると、恥ずかしさに耐えきれなくなったのかモモがナナミから飛び退いて両手で頭を押さえた。
いきなり離れていったぬくもりに、残念そうにするナナミにまた一同がきゅん!とする。
「ハイハイ!自己紹介も終わったところで、みんな準備しようね」
「「「はーい」」」
次は俺が・・・・・・という雰囲気になったところで店長が咳払いをし、皆がつまらなそうに散っていった。
「ねーねーナナミくん、僕がいろいろ教えてあげるね!」
「こらモモっ、抜け駆けしてんじゃねぇ!ナナミっつったっけ?先輩である俺が手取り足取り教えてやるよ!」
「カシア兄ちゃんだって抜け駆けしようとしてるじゃんっ!」
すぐにナナミに引っ付こうとするモモを引き剥がしてナナミの肩に腕を回したカシアに、モモが抗議の声を上げて腕を離そうとする。
「こらっ二人とも!仕事の準備に取りかかる!」
「「っ、はーい・・・・・・」」
初っぱなから二人に取り合いされ、あわあわとしていたナナミだが、一見その顔に嫌悪の色はない。だが・・・・・・とシノは二人をホールへ向かわせつつ、ちらりとナナミの様子を窺った。
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