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しおりを挟むまん丸の大きな目はまるで宝石のような輝きを放ち、生理的なものなのか目の底から滲んでくる涙がそれを一層強めている。飢えた者が目にすれば、その涼しげなシルバーの色を持った宝石を喉から手が出るほど欲するだろう。全体的に小さくなったからか、顔に占める目の比率が非常に大きい。だから一番最初に目が行くのはその目だが、中心に小さい山を作っている艶やかで小ぶりな鼻も、さらにその下にある色付きの砂糖菓子のような瑞々しい唇もまさに食べてしまいたいほど可愛らしかった。フラウも呆けたような顔をして、リリーの姿に目が釘付けになっている。
「ああ~~ん、かわい~~!!!」
「っ!!」
目尻の下がった目を瞑り、幼くなったリリーの頬に自身の顔を擦り寄せ叫び声を上げるリリアナ。一体何が起こったのかわからずきょとんとした顔でリリアナにされるがままふにふにとほっぺの形を変えられていたリリーは、だんだんと表情を歪めるとみるみるうちにその目に涙が湧き出てきた。
『あ、泣く』
と皆の気持ちが一致した直後、リリーがその小さな両手でリリアナを拒絶するように押しのけ、『うっ、うっ』と愚図り始めた。
「やらっ!やらっ!!うあ~ん!!」
「あらあら大変。お腹が空いたのかしら?さぁ私と一緒にお家へ帰りましょうね、リリーちゃん」
「待て!リリアナ!!・・・・・・ック!」
目の前で起こったことに呆気に捕らわれていたが、舞台からリリーを抱き上げた状態で立ち去ろうとするリリアナの姿にハレムたちがやっとのことで声を出し舞台へと上がり込む。
しかしリリアナに近づこうとすると、彼女が張った魔法の膜のようなもので、ハレムたちの足は阻まれてしまったのだ。見えない厚い壁で、ハレムたちの伸ばす手が弾かれてしまう。
「リリーっ!!リリーっ!!」
「う、にちゃ?・・・にちゃぁーー!!」
ギムリィがリリーに呼びかけながら壁を叩いていると、リリアナの腕の中にいるリリーが彼の方を向き、見覚えのある顔に自分の兄だと認識をしたのか涙を止め小さな手をギムリィに向かって必死に伸ばす。だがそれを許さないようにリリアナに抱き直され、再び泣きそうになりながらもそれから逃げるように身を捩っている。そんな、弟の必死な様子を目の前にしているのに、助けられない自分にハレムは腹が立ち、ぐっと唇を噛んだ。
「リリー様をお離しください!!」
「っな、どうしてここに入れるのよあなたっ!?」
リリアナは泣き崩れるリリーをあやしながらも立ち去ろうと魔法を唱え始めた。諦めるつもりはないもののもうダメだという絶望を間近に感じたとき、ハレムの隣を人影が通り過ぎて行き、その持ち主は現在進行系で自分たちの存在を阻む見えない壁を通り抜けていった。あまりにもスッと入っていったことから、皆その人物を見て固まっていた。特にその中でもフラウは、目を見開き口も開けたままという普段ならばしないような驚き様だった。
誰も入って来れないと思っていたリリアナ自身も、その存在に驚愕の様子を見せている。
「な、なによ貴方!?どうして?なんでっ・・・貴方何者?」
「さぁ・・・・・・私にもわからない。でも、リリー様を返していただくわ」
リリアナの張った魔法の防御壁の内側に唯一入れた存在、それはフラウの妹――フラウリーゼだった。
「っ・・・、でも、入れたから何?一体どうやって私からリリーちゃんを奪い返そうっていうの?」
「わからないわ」
「っふふふふふふ!!わからないですって!?」
「でも、貴方にはリリー様を解放していただきます!!」
「「「っ、フラウリーゼっ!!?」
「!!!?何っ、何なの!?嫌っ、キャァアアアアアアアアア――!!!!!」
馬鹿にしたように笑うリリアナにフラウリーゼが言い放った直後、眩い光が彼女からあふれ出した。先ほどリリアナが魔法を唱えたときのような眩しいほどの光。
だが、先ほどの光とは、何かが違った。そう、浴びている側の心地と、温度。
今フラウリーゼから発されている光はハレムたちをも包み込んだが、全身を包むその光はなんとなく懐かしい感じがし、優しい匂いが記憶から呼び起こされそうな、そんな感覚を抱かせる温かさを持っていた。なんだろう、この光は・・・と思っていると、舞台上からリリアナのと思われる甲高い悲鳴が大きく響いた。
一体何が起こったのか。確かめたい思いだが光で目を焼かれそうで瞼を開けることができない。
リリーは無事なのか。フラウリーゼは無事なのか。確かめる術は、なかった。
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