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しおりを挟むホワイトローズを罵ると、同じくらい・・・いやその倍ほどの量の謗りを言葉巧みに口から吐き出すキャスティアに、フラウの心は浮き上がった。フラウリーゼが知ったら絶対に軽蔑される。だがキャスティアの口から零れるホワイトローズ家を貶す言葉と、ブロッサム家を持ち上げる言葉は、フラウにとっては甘美な響きを持っていたのだ。キャスティアの言葉を聞いていると、ホワイトローズへと向かう不穏な気持ちが正しいものだと思えてきた。
フラウリーゼたちが入学してきて数ヶ月経ったある日の午後、フラウはフラウリーゼの手作りだという昼食をセイとアランと共に学園の裏庭というべきだだっ広い草原の丘で食べていた。
フラウと同じでホワイトローズにあまり良い思いを抱いていないアランは、いつも何かとリリーを目の敵にしておりフラウも共感を示していた。またアランはフラウリーゼにぞっこんだったため、その恨みは一層強かったものだろう。しかしアランの荒かった気性は治まり、入学して数ヶ月経った頃には彼に似合わず暇があるとぼうっと惚けるようになったらしい。
その日も、折角フラウリーゼが作ってくれた貴重な昼食を手に持ちながら、意識は遥か遠くへと飛ばしていた。呆れたようにアランに声をかけるフラウリーゼにアランは意識をこちらに戻したが、フラウは若干の苛つきに嫌味を言ってしまう。昔から集中力が乏しいアランのことだから、大体授業にでもついて行けていないのだろうと思って口に出すと、セイが苦笑いをして辛辣だと述べる。
一見すると、和やかな空気が流れている。フラウは、そんな心地よい雰囲気に羨望を抱きつつ陶酔しながら、だが自分は家のためにしっかりとしていなければならないと思っていた。
再び呆けたように視線をある一点に留めたアランに呆れを感じつつその視線の先を辿っていくと、少し離れた木陰の中に、第三王子と肩を並べて座るリリーの姿があった。
今までの穏やかな空気に反し、突然頭にカッと血が昇ったのを感じたが、ゼノタールがクォードライトたちに呼ばれて去って行きリリーが一人その場に残されたのを見たとき、フラウは持っていたカップの中の紅茶を覗いてふとこれをあいつにかけてやろう、と思い立った。きっとささくれ立った気持ちをスカッとさせてくれるだろう、と。
以前、キャスティアが『リリーに何か飲み物をぶっかけてみたいなぁ。一体どんな顔するんでしょう?面白そう』と言っていたのを思い出し、嫌なわくわく感を感じつつリリーの元へと歩いていった。
バシャリと手元のカップを奴の頭上で傾け、綺麗な琥珀色の中身をぶちまける。その感覚にもだが、綺麗なホワイトブルーシルバーの髪の毛をしとどに濡らしていく感覚に、フラウは今まで抱いたことのない快感を得た。濡れた髪に涙が滲んだ瞳が相まって悲壮感を漂わせており、それを見ていると何とも苦しくて、胸の底が低く疼いた気がした。
こんな痛みは初めてだった。
その後合流したキャスティアはいかにも愉快だというようにクスクスと妖精みたいな笑い声を上げながらフラウの行動を称えた。フラウを追ってその場に来たセイには信じられないという表情で怒鳴られたが、フラウとしては微妙な心境であった。
確かにセイの言うとおり、自分はフラウリーゼに誇れないような行為をしてしまったからだ。しかもリリーの兄、ギムリィと敵対しそうになった際に何も悪くないフラウリーゼに頭を下げさせてしまったからだった。しかし同じブロッサム家であるはずのセイが自分を責めることが許せなくて、セイ以上に怒りをぶつけてしまった。キャスティアがセイに挑発的なことを発するのを聞いていて、以前は仲良く話していた相手に何をいうのかという怒りも湧いたが、ホワイトローズへの嫌がらせにほんの少しだけ心の晴れたフラウは反対し否定ばかりをしてくるセイに絶縁を言い渡してしまった。
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