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しおりを挟む生まれた長女――フラウリーゼはブロッサム家にとって、王族との繋がりを深くするための道具だった。フラウリーゼは粛々と健やかに育っていき、当主の期待を膨らませた。端から見れば周りから愛されて育ったかのように見えるが、実はそんなことはない。両親からの愛はなく、召使いからも最低限の扱いしかしてもらってこなかった。だがフラウだけは違った。フラウリーゼはフラウの全てだったのだ。
それまで父の言うことは絶対。フラウは将来はブロッサム家を継ぎ、王族との繋がりを強固なものにしさらなる権力を手にすることが自分の使命だと思い教育を受けていた。そのためには婚約という形も道具になるということも、冷たい頭で理解していた。しかし、灰色だった世界を色づけてくれた我が妹、フラウリーゼをその道具にするということは、どうしても考えられなかった。
フラウはフラウリーゼが幸せになることを望んでおり、将来王子との婚約を期待されているフラウリーゼにこう言ったことがある。
『王子と婚約をしたくなかったら、無理をしなくてもいいんだぞ』と。
だがフラウリーゼはいつものふわりとした笑みを浮かべ、やや頬も染めながら『ううん。私、王子様と結婚したいの』と恥ずかしそうにはにかんだのだ。『そうか』と答えたが、フラウはフラウリーゼが本当に王子と結婚したいのではないことに気づいていた。
彼女はまだ幼く異性との交流もあまりない。そしてフラウ同様生まれた瞬間からブロッサム家を栄えさせるための道具として育てられているため自我というものが薄かった。おそらく『王子と婚約する』という自分に課せられた課題を、無意識のうちに自分の望みだと思い込んでいるのだろう。
だが、それでもいいと思った。今のフラウリーゼがそう思うならばそれでもいいという思いと、王子と婚約すれば彼女も自由の身になれると思ったからだ。王族たちは皆信用できる男たちであると思っていたし、フラウリーゼが彼らと結婚しない限り家での立場が危うくなってしまう。きっと王子と婚約できなかった場合、どこぞの知らない貴族の子息と無理矢理婚約させられるのだろう。そう考えると、悔しいながらもブロッサム家の計略通り王族と婚姻を結ぶことが最善の選択であると思われた。
妹を守りたい。幼いフラウは今の自分では到底それは叶わないと思い、必死になって父に言われるがまま勉学に励んだ。そして社交界デビューを果たし、やっと王子に見えると勇んで王族主催の茶会に参加した時、初めてホワイトローズ家の人間を目にした。
初めて見たギムリィは、それはそれは美しく繊細で、澄んだ瞳には冷たく光る自信が燃えていた。
妹が生まれてからは、一身に受ける厳しい教育のストレスから募っていたホワイトッローズ家への憎悪の気持ちは緩和していたのだが、その日からフラウはホワイトローズ家を敵視せざるを得なくなってしまった。
同様に社交界デビューをしたギムリィの評判は常に良く、また彼自身第一王子のクォードライトとの交流関係も深い。世間は彼が王子の婚約者となるだろうと囁いた。
それを耳にした父は一層機嫌が悪くなり、その波を受けるフラウもその影響を受けた。何をやってもギムリィはフラウのその先を行ってしまう。王子との仲も睦まじく、フラウの焦りと怒りは溜まっていく一方だ。
『だがまだ大丈夫だ』。クォードライトの一つ下には第二王子のジルナイトがいる。きっと彼は、フラウリーゼを妃に選ぶに決まっている。幼い頃から叩き込まれた国の歴史からも、王族はこれまでブロッサム家とホワイトローズ家どちらとも平等に関係を保ってきたことがわかっており、第一王子の婚約者の座は奪われても第二王子の婚約者の座はブロッサム家に与えられていると思っていたのだ。父は将来王となる確立が最も高い、第一王子の婚約者の座を政敵であるホワイトローズに奪われたことに怒り心頭だったが、それもまだ確定したことではなかったし、第二王子がいたことからフラウは特に深刻に受け止めていなかった。
しかしその一種の安心感は、ホワイトローズ家の次男ハレムがジルナイトと親しいという情報を得たときに崩れた。
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