44 / 60
44
しおりを挟むタイムの侮辱にさらに血が頭に上り、ギムリィの手を握る力が強くなる。口調を荒く叫んでしまったが、隣のクォードがギムリィの肩にそっと手を乗せ静かに制すると、交代というように彼は冷たく凍った声でタイムにそこをどけと言い放った。
「確認いたしました。・・・・・・では、フラウ様」
リリーはもう署名を終わらせたようで、牧師はそれを確認した後フラウへとペンを渡し署名を促した。
「リリーは魔女に操られているんだっ!!今すぐ宣言を中止しろっ!!」
「だから・・・そんなこと信じられる訳――」
「魔女はいる!この中でも魔女の存在を認知する者もいるだろうっ!?現に、君だって長い間病床に臥せっていたのを魔女の薬で全快したと君のお父上から聞いたぞ」
リリーの署名は済んでしまい、後はフラウがその隣に自分の名を認めるだけ。事は一刻を争い、ギムリィたちもいよいよ余裕を繕う暇もなく切羽詰まった表情になった。ハレムが必死に叫ぶが馬鹿にしたようなタイムは取り合おうとはせず、周りも何をすべきかわからずただ視線を王子たちの方へと向けるだけだった。
だがそんなとき、セイが群衆の中から人が一定の距離を開けているその中心に自ら入り、会場にいる全員に聞こえるほどの大声で周りに向かって呼びかけた。この中にも必ず魔女が実在することを知っている者はいる。そう確信していたのだ。
「フラウ様っ!!貴方もそれでよろしいんですかっっ!?そこまでして王族とホワイトローズ家の繋がりを阻止したいんですかっ!!?」
今度はアランが牧師に渡されたペンを持つフラウに向かって呼びかける。側にいるフラウリーゼも怒りを含んだ顔で兄を睨み付ける。
「兄さんっっ!兄さん言っていたじゃない。私が幸せならそれで良いって・・・・・・。あれは、嘘だったの!?」
「嘘じゃないっ!!」
「じゃあ何故――っ?」
「俺は、リリーのことを心から愛している」
「兄さん!!」
その目は本気だった。アランに引き留められながらも必死に身を乗り出し兄の元へと向かおうとするフラウリーゼに向けられたフラウの目は本気そのもので、唇も今まで見慣れていた歪んだものではなく、端がきつく結ばれており真面目な心を表しているようだった。
「ではフラウ様、ご署名を」
「「「フラウっ!!」」」
「フラウ様っ!!」
「兄さんっ!!」
皆の目がフラウに集中し、普段人を信用せず大事な仕事を頼むこともないギムリィもやハレムも、思わず最後の頼みの綱であるように、その存在へ懇願するかのように叫んだ。
だがフラウが重厚なペンを握り治し、それに皆がもう終わりだと絶望を浮かべる。
「俺は、リリーを愛している」
フラウは名前を書く前にリリーの頬に自分の手を添えその可愛らしい顔をしばらく見つめると、口の端を今まで以上にきゅっと引き締め――
「愛しているから、俺は・・・・・・書かない」
――手に持ったペンをへし折った。
2
お気に入りに追加
189
あなたにおすすめの小説
前世が俺の友人で、いまだに俺のことが好きだって本当ですか
Bee
BL
半年前に別れた元恋人だった男の結婚式で、ユウジはそこではじめて二股をかけられていたことを知る。8年も一緒にいた相手に裏切られていたことを知り、ショックを受けたユウジは式場を飛び出してしまう。
無我夢中で車を走らせて、気がつくとユウジは見知らぬ場所にいることに気がつく。そこはまるで天国のようで、そばには7年前に死んだ友人の黒木が。黒木はユウジのことが好きだったと言い出して――
最初は主人公が別れた男の結婚式に参加しているところから始まります。
死んだ友人との再会と、その友人の生まれ変わりと思われる青年との出会いへと話が続きます。
生まれ変わり(?)21歳大学生×きれいめな48歳おっさんの話です。
※軽い性的表現あり
短編から長編に変更しています
パーティー全員転生者!? 元オタクは黒い剣士の薬草になる
むらくも
BL
楽しみにしてたゲームを入手した!
のに、事故に遭った俺はそのゲームの世界へ転生したみたいだった。
仕方がないから異世界でサバイバル……って職業僧侶!? 攻撃手段は杖で殴るだけ!?
職業ガチャ大外れの俺が出会ったのは、無茶苦茶な戦い方の剣士だった。
回復してやったら「私の薬草になれ」って……人をアイテム扱いしてんじゃねぇーーッッ!
元オタクの組んだパーティは元悪役令息、元悪役令嬢、元腐女子……おい待て変なの入ってない!?
何故か転生者が集まった、奇妙なパーティの珍道中ファンタジーBL。
※戦闘描写に少々流血表現が入ります。
※BL要素はほんのりです。
【完結】別れ……ますよね?
325号室の住人
BL
☆全3話、完結済
僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。
ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。
【完結】浮薄な文官は嘘をつく
七咲陸
BL
『薄幸文官志望は嘘をつく』 続編。
イヴ=スタームは王立騎士団の経理部の文官であった。
父に「スターム家再興のため、カシミール=グランティーノに近づき、篭絡し、金を引き出せ」と命令を受ける。
イヴはスターム家特有の治癒の力を使って、頭痛に悩んでいたカシミールに近づくことに成功してしまう。
カシミールに、「どうして俺の治癒をするのか教えてくれ」と言われ、焦ったイヴは『カシミールを好きだから』と嘘をついてしまった。
そう、これは───
浮薄で、浅はかな文官が、嘘をついたせいで全てを失った物語。
□『薄幸文官志望は嘘をつく』を読まなくても出来る限り大丈夫なようにしています。
□全17話
【完結】『ルカ』
瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。
倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。
クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。
そんなある日、クロを知る青年が現れ……?
貴族の青年×記憶喪失の青年です。
※自サイトでも掲載しています。
2021年6月28日 本編完結
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
某国の皇子、冒険者となる
くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。
転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。
俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために……
異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。
主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。
※ BL要素は控えめです。
2020年1月30日(木)完結しました。
彼の至宝
まめ
BL
十五歳の誕生日を迎えた主人公が、突如として思い出した前世の記憶を、本当にこれって前世なの、どうなのとあれこれ悩みながら、自分の中で色々と折り合いをつけ、それぞれの幸せを見つける話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる