天使の声と魔女の呪い

狼蝶

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 タイムの侮辱にさらに血が頭に上り、ギムリィの手を握る力が強くなる。口調を荒く叫んでしまったが、隣のクォードがギムリィの肩にそっと手を乗せ静かに制すると、交代というように彼は冷たく凍った声でタイムにそこをどけと言い放った。

「確認いたしました。・・・・・・では、フラウ様」

 リリーはもう署名を終わらせたようで、牧師はそれを確認した後フラウへとペンを渡し署名を促した。

「リリーは魔女に操られているんだっ!!今すぐ宣言を中止しろっ!!」
「だから・・・そんなこと信じられる訳――」
「魔女はいる!この中でも魔女の存在を認知する者もいるだろうっ!?現に、君だって長い間病床に臥せっていたのを魔女の薬で全快したと君のお父上から聞いたぞ」

 リリーの署名は済んでしまい、後はフラウがその隣に自分の名を認めるだけ。事は一刻を争い、ギムリィたちもいよいよ余裕を繕う暇もなく切羽詰まった表情になった。ハレムが必死に叫ぶが馬鹿にしたようなタイムは取り合おうとはせず、周りも何をすべきかわからずただ視線を王子たちの方へと向けるだけだった。
 だがそんなとき、セイが群衆の中から人が一定の距離を開けているその中心に自ら入り、会場にいる全員に聞こえるほどの大声で周りに向かって呼びかけた。この中にも必ず魔女が実在することを知っている者はいる。そう確信していたのだ。

「フラウ様っ!!貴方もそれでよろしいんですかっっ!?そこまでして王族とホワイトローズ家の繋がりを阻止したいんですかっ!!?」

 今度はアランが牧師に渡されたペンを持つフラウに向かって呼びかける。側にいるフラウリーゼも怒りを含んだ顔で兄を睨み付ける。

「兄さんっっ!兄さん言っていたじゃない。私が幸せならそれで良いって・・・・・・。あれは、嘘だったの!?」
「嘘じゃないっ!!」
「じゃあ何故――っ?」

「俺は、リリーのことを心から愛している」
「兄さん!!」

 その目は本気だった。アランに引き留められながらも必死に身を乗り出し兄の元へと向かおうとするフラウリーゼに向けられたフラウの目は本気そのもので、唇も今まで見慣れていた歪んだものではなく、端がきつく結ばれており真面目な心を表しているようだった。

 
「ではフラウ様、ご署名を」
「「「フラウっ!!」」」
「フラウ様っ!!」
「兄さんっ!!」

 皆の目がフラウに集中し、普段人を信用せず大事な仕事を頼むこともないギムリィもやハレムも、思わず最後の頼みの綱であるように、その存在へ懇願するかのように叫んだ。
 だがフラウが重厚なペンを握り治し、それに皆がもう終わりだと絶望を浮かべる。

「俺は、リリーを愛している」

 フラウは名前を書く前にリリーの頬に自分の手を添えその可愛らしい顔をしばらく見つめると、口の端を今まで以上にきゅっと引き締め――
 

「愛しているから、俺は・・・・・・書かない」


 ――手に持ったペンをへし折った。



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