天使の声と魔女の呪い

狼蝶

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「会場の皆様、本日は学年の最後を彩る修学祝賀パーティーでございます。存分にお楽しみ下さい。またご来場の際にお受け取りになった薔薇は、王宮の庭園で三年に一度咲くと言われている大変珍しいもので、陛下からのご祝儀でございます。陛下に感謝を捧げましょう。そして、本日の企画、取り締まりをしてくださったのは、生徒会の皆様でございます。会場の皆様、大きな拍手をお願いいたします」

 割れんばかりの拍手の中、皆やりきったことに対しやや肩の力が抜けた生徒会メンバーたちが頭を下げる。演奏者たちが音楽を奏で始めると、皆は自然と自分たちの話に花を咲かせ始めていた。
 年に一度開かれる年度最後のパーティーは、生徒だけでなくその親も参加する大変大規模なものである。そのため企画には隅々まで気を遣う必要があり、準備も前もって抜かりなく行う必要があったのだ。それにも関わらず日々の仕事は減らないため、ここのところ生徒会のメンバーたちはあまり睡眠も取れていなかった。下級生たちが頭を下げ各々の場所へと散って行き、残されたのは主要メンバーである王子たちとギムリィだった。またこのパーティーに際して風紀委員の協力も必要だったため、ハレムも重労働者の一人だった。皆他の役員たちよりも疲労しており、会場全体に響き渡るざわざわとした話し声や笑い声などが脳内で響き、少しだけ気分が悪く顔色も悪い。その中でも特にギムリィ、ハレム、ゼノは生気のない顔をしていた。
 ギムリィとハレムは先日弟から言われた痛烈の一言があれからずっと頭の中を駆け巡っていて、ゼノに関しては又聞きした話にショックを受け、また後日ギムリィたちから残酷な現実を聞かされたことでもはや抜け殻状態となっていたのだ。

「やっと・・・・・・やっと終わりますね。僕たちの仕事が・・・・・・」
「ハレム、よく頑張ったな。ヨシヨシ」
「は・・・・・・!?」
 普段クールなジルが、目尻を下げてハレムの頭を撫で回している。婚約者の見たこともない態度にハレムは驚愕したが、自分の髪をかき混ぜるジルの優しい手と体温に、体内の熱が一気に上がり顔が茹で蛸のように真っ赤になっている。

「ジルも相当疲れてるようだな。壊れてるぞ・・・・・・」
「それは自分のやっていることを認識してから言ってくれないかっ・・・・・・?」
 溜息を吐き自分の弟に呆れたように言い放ったクォードの横で、ギムリィはじとりとした目線を向けつつ低い声でそう零した。
 なんとクォードは顔をハレムを撫でるジルに向けつつ、自分の手はギムリィの頭をそれはそれは激しく撫で回していたのだ。こちらも真っ赤な顔になってるギムリィは、クォードの手を払いのけ重い溜息をついた。その隣ではゼノが人を殺しそうな目である一点を睨んでいる。
 人の隙間の向こうで、リリーとフラウ、そしてタイムが楽しそうにしている様子が見えるのだ。そしてそこから少し離れた場所ではアランがセイとフラウリーゼと飲み物を片手に話しており、アランはゼノが向けている視線の鋭さに思わず飲んだものが気管に入りそうになってしまっていた。

 多数の生徒たちがチラチラと意外そうな視線を送る中、ホールの中心ではダンスが始まり、フラウはリリーの手を取りダンスに誘うがリリーが頬を染めブンブンと頭を振っている。口は変に声を出さないようにかもじもじとさせており、そのいじらしい様子を間近で見るのは自分の役割だったのに!とゼノは女子生徒たちの視線を注がれながら憤っていた。それでも手を引っ張るフラウに、リリーは慌てて彼の耳元に顔を寄せ、何やら文句を言っているらしい。それを聞いたフラウはリリーを愛おしそうな目で見つめ、ポンポンと頭を撫でている。誤魔化したような行為に再びリリーが抗議の意を表すと、フラウと側にいたタイムがクスクスと笑った。

 すごく、楽しそうである。

「お、おいゼノ。手を出すのはダメだぞ・・・・・・?」

 血管の浮き出ている手を強すぎるほど握りしめ、ぶるぶると震わせているゼノの手を見てクォードが懲りずにギムリィを撫でながら心配そうに弟の様子を窺う。ゼノは『大丈夫ですよ。そんなヘマはしません・・・・・・』とほの暗い目で答え、余計に兄たちの心配を煽った。

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