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しおりを挟む「リリーに呪いをかけた魔女だって!!?」
「ああ。確かに、“リリアナ”と」
「マジかよ・・・・・・」
「兄さん・・・・・・じゃあタイムは・・・・・・」
「彼女に操られている可能性が高いね。もしかしたらフラウも何か影響を受けているのかもしれない」
「そうですね。彼は何より妹君を大切にしていたはずです。それなのに、あの変わり様は異常だと」
タイム家を訪問した翌日、ギムリィ、ハレム、クォード、ジル、ゼヌ、そしてセイとアランは生徒会室で机を囲んで話し合っていた。
昨日アランたちが持ち帰った情報は、今部屋にいる王子たちとハレムを驚かせるのに十分な内容だった。まさか自分たちがロイドから聞いた話と直接的に関わっている魔女の名が現れるとは思ってもみなかったのだ。それにギムリィたちと同様で、今まで仮想世界の中の存在だという認識だったものが現実世界に存在したということに、心の置き方が変わってしまったのだった。
アランは今、昨日タイム氏から聞いたことを王子たちに話し、考えられるケースを話しあっているギムリィたちを眺め、改めて魔族の存在について考えていた。
一年生の男子生徒の中で交わされていた尾籠な話。それは誰かが言い出した、どんな病でも治すことができる治癒士の噂話が発端だった。確かな根拠はないらしいが、皆はきっかけとなったその話よりもそこから発展していった『洗脳』や『催眠術』などの話に夢中になり、あまりに盛り上がったため教師に叱責を受けていたのを、アランは少し離れていた場所から聞いていたのだ。
盗み聞きをするつもりはなかったが、自然と耳に入ってきてしまったその情報はアランに不純な想像を作らせた。『洗脳』・・・・・・それは相手を自分の意のままに操ることができる行為。もしあの気高く護る者の多いリリーを洗脳することができたら、あの甘い砂糖菓子のような声を自分だけにかけてもらうことはできるのだろうか・・・・・・。
アランはそこまで考え、ハッとした。自分はなんてことを考えているのだ、と。そして次の瞬間、そんな自分を軽蔑する気持ちと共に、魔族の存在に対する恐怖が湧いてきた。今自分が一瞬でも考えてしまったようなことが、魔族なら可能である。そして権力を持った貴族も彼らを雇えば叶ってしまうのだ。自分が考えたことならば、何十人という人間が同じことを考えていてもおかしくはないだろう。ということは、魔族が実際に存在していたら非常に恐ろしいことになるなと考えていたのだ。
そして、その時感じた恐怖を今、再び感じていた。あの時は恐怖を感じたものの、相手はお伽話の中の住人だと軽く思っていたのだ。しかし昨日実際に人の口からその存在を聞かされ、そしてその存在がリリーに呪いをかけさらに傷つけるようなことを企てていると知り、じわじわと手の平に汗が滲んできたのだった。
「もしかしたらリリーも今現在、何か魔法をかけられているかもしれないな・・・・・・」
「どういうことだ、ギムリィ」
会話が途切れた際、ギムリィが深刻な顔をしぽつりと零した言葉にアランを含めた皆が反応し、代表してクォードが今の言葉について問いかけた。すると途端にジルの隣にいたハレムの顔にも影がさし、いよいよこれは何か大変なことがあったと思われた。
「実は最近、リリーの様子が変なんだ」
「変って、どの様なところがですか・・・・・・?」
「まるで、フラウに恋をしているみたいなんだ」
バキッ
その瞬間、ゼヌの方からもの凄い音が聞こえ、アランは隣に座る彼に目を向けると『ヒェ』という声を出しそうになった。上質な木材で作られたソファの腕置き部分に、ヒビが入っていたのだ。血管の浮き出た手はぷるぷると小刻みに震えていて、力が込められていることがよくわかる。爪がめり込んでいて大変恐ろしい。
「あ~い~つ~!!!!!最近生徒会の仕事が忙しくてさらに最近頻繁に開かれる貴族間の会合の出席でリリーと会う時間が削られている俺たちを出し抜いてリリーを誑かしやがったのかぁ~?ハァ?巫山戯んなよあいつ。マジでうぜぇな――・・・・・・」
隣で顔を俯かせている彼からブツブツと不穏な空気と言葉が流れてくる。なんだか非常に物騒な言葉も登場してきており、隣に座っていることがひたすらに恐ろしい。
「俺、あいつを消してくるわ」
「落ち着けゼヌ」
「そうですよ。それにフラウは何かしているのではなく“リリーが”彼を望んでいるです。自覚をするのは大事ですよ」
兄二人から制止の声をかけられるが、ジルの言葉に怒りに染まった顔がしゅんっと沈んだ。打倒フラウ!!と思っていたのだが、そもそもジルの言う通りフラウが特に悪いことをしたということではない。
「ジル、それは今相応しくない言葉だと思うよ・・・・・・。確かにリリーは奴に恋してるみたいだと思う。でも、なんだかおかしいんだ。あんなに喋るリリーなんて・・・・・・奴の話になると、少し異常過ぎるほどお喋りになるんだよ」
「それは・・・・・・本当に恋をしているんじゃないのか?今までと違う素振り・・・・・・今まで見られなかった変化があるということは、本当の恋に落ちたとも考えられるな」
「兄上っっ!!兄上までそんなことをっ・・・・・・」
クォードがゼヌに対し申し訳なさそうに疑問を口に出すと、実の兄からも諦めの意が感じられさらに項垂れた。アランは彼から八つ当たりを受けそうで、ビクビクと身体を震わせている。
「だが、俺たちはリリーが話すのを黙って聞いているだけだった。もしかしたら、俺たちが反対したりもっと理性的になれと助言をすれば落ち着くのかもしれないな。なにしろ窮地に立たされた時に助けられたんだ。一時的に狂信的になることもあるだろう」
「そうだな。一度、試してみてくれ。俺の弟が拗ねてるからな」
「これは帰ったら彼ら、荒れますね・・・・・・」
ギムリィの提案に、クォードは拗ねて少し涙目になっている末弟の頭を軽く撫でながら応えた。
「だが逆に、お前が反対しても聞く耳を持たなかった場合はリリーもリリアナに操られている可能性が高いな。なんたってリリーはお前らのことが大好きだからな」
その言葉にギムリィとハレムは異論なく頷き、クォードが苦笑いを零す。
「本当にリリーが操られていたら、一体どうするんですか・・・・・・?」
「フラウと結婚する!とか言いだすかもな。それは絶対に認めないが」
今まで黙っていたセイが小さく不安げに問いかけると、ギムリィがやや冗談っぽく言ったがその後で真面目な顔になり殺気も漂わせた。
「っあ゛あ゛ーーーー!!!こうやっている間にもリリーとあいつの距離が縮まっていくのかぁーーーーー!!!兄上!俺しばらく生徒会休んでいいですか!!?」
「許可をしたいが・・・・・・来週に迫った修学パーティーは一年の内で一番と言って良い程学園にとって重要な行事だ。一年代表であるお前がいなくなると、他に仕事を任せられる生徒もいない。それに、準備は今でもぎりぎり間に合うかくらい日数が足りないんだ。皆すぐにでも対処したいのはわかる。しかし俺たちは生徒の代表であり、その責任を全うしなければならない。もうしばらく辛抱してくれないか。パーティーが終わったら、解決しよう」
「ちぇっ・・・・・・。今年のパーティーでの婚約宣言は見送りかー・・・・・・。兄上たちを倣いたかったのに・・・・・・」
「すみませんゼヌ。今の状態のリリーを説得するには、時間が足りなさそうです」
第一・第二王子が共に自分の婚約相手を発表した一学年の修学パーティー。そのパーティーに第三王子として出席するのは三人のうち誰かはまだ決まってはいなかったが、ゼヌは兄たちと同様そこで皆が見ている前でリリーとの婚約を宣言しようと思っていた。
その話をしたときの、頬を染めたリリーの姿を忘れはしない。あれは、自分たち三つ子の大切な記憶だ。最終的に三人のうち誰と結婚するのか決定はしていないが、リリーは自分たちを受け入れてくれたのだ。
それなのに最近リリーとは全く会えず、さらに彼の兄からの話によるとリリーは今フラウに恋心を抱いているのだとか。
ゼヌは腸が煮えくりかえるほどの怒りと、悔しさを感じていた。
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