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しおりを挟む『ここ一二日が山だ』と医者に言われ、妻と項垂れていたときに、その魔女は現れたという。
泣きはらし疲れた妻を労りながらキャスティアの部屋から出た直後、真夜中だと言うのに屋敷のチャイムが鳴り響いた。まだ起きていた執事長がドアを開けると、深く被った分厚いフードで顔の隠れた者が前に立っており、自分は魔女だと言い、また『キャスティア=タイムを救ってやろう』と言ったのだ。
不審に思い追い払おうとしたときに、その声を聞いていたタイム夫妻が泣いて縋ったところ、その女が医者でさえ匙を投げた彼の息子の病を一瞬にして治してしまったのらしい。土色だったキャスティアの顔色は見る見るうちに暖色系の健康的なものとなり、酷かった咳もピタリと止まった。
その変化に、まさに神だと思ったのだとか。
『どっ、どうお礼をして良いかっっ!!』
『礼はいいわ』
そういうわけには!!と言おうとしたが、その時彼女が今まで被っていたフードを取り去りさり、中から出てきた美貌に思わずその場にいた誰もが息を飲んだという。今さっき起こった奇跡を目にしたからこそ、彼女の存在も神がかって見えたのだろう。
『その代わり、このことは内緒に・・・・・・ね?』
そう皆が呆ける程魅力的な微笑みを作り、再びフードを被るとまるで煙のように消え去ったのだ。
「私もまさか現実に存在するとは思っておりませんでした。ですが実際に我が息子は彼女によって救われたのです」
「なるほど・・・・・・。それで、彼女の居場所などはお聞きになられましたか?」
「残念ながらはっきりとは・・・・・・。ですが、薬を取り出した際私たちがどこで採れたものなのかを訪ねたところ、東の外れにある深い森だと応えました。なので、そこにいる可能性が高いかと。それで・・・・・・、弟君は一体どの様な病に・・・・・・?」
息子が助かった経緯を言い終え今度はこちらの詮索を始めたタイムに、ギムリィはにこりと一つ笑みを作ってから『では』と腰を持ち上げた。
「貴重な情報、感謝します。そろそろ帰らねばならない時刻になりましたので」
『ですが・・・』と言いかけるタイムを尻目に、アランが前に出て『失礼します』と有無を言わさない態度で頭を下げると、彼はさすがに食い下がり作り笑顔で三人を見送った。きっとギムリィから確実な言葉を言われなかったことに対して焦りを感じているに違いない。だがギムリィは、もとよりタイムを下に置くつもりはなかった。あくまで相手が勝手に勘違いをし、勝手にペラペラと情報を口に出したのだ。
『これで、リリーに呪いを掛けた魔女――リリアナが今回の件にも関わっているという可能性が出てきたな』と、ギムリィは帰りの馬車の中、心の中で呟いた。
いや、高い確率で関わっているに違いない。三年生というちょうどリリーが入学する年にキャスティアを全快させ、フラウに近寄らせてリリーに危害を加えさせる。こう考えると辻褄が合うのだ。
『一体、彼女が望んでいることは何なのだろうか・・・・・・』
ギムリィはリリアナが何を企んでいるのかはわからないが、何も悪くないリリーが危険な目に遭うのは耐えられなかった。何故、どうしてリリーだけが辛い思いをしなければならないのか。どちらかというと彼女との問題で責任があるのは父親であるロイズの方だし、それにしても彼が悪いとも断言できない。
ギムリィは新たに手に入れた情報をすぐにでもクォードたちに知らせねば・・・・・・と拳を強く握りしめた。
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