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しおりを挟む夏の休暇が残り少ないある夜、リリーはまたもや悪夢にうなされて起きた。
シーツで汗を拭い、乾いて張り付いた喉を潤すために調理室へ行こうとそっと扉を開いて廊下へ出る。クッション性の高いスリッパのため音はあまり出ないが、リリーは他のみんなを起こさないために細心の注意を払い、廊下を歩み進めた。
長い廊下を歩いてると、ふと一つの扉から明かりが漏れていることに気づく。そこはギムリィの部屋だった。
なんとなくギムリィの顔が見たくなり、リリーは遠慮深げにノックをすると、いつもの彼の声で『どうぞ』と聞こえてきた。
「リリー!!どうしたんだ?眠れないのか?」
自分の存在に気づくと、破顔し歩み寄ってくれる。そして優しい声で心配げに顔を覗き、部屋へと招き入れてくれた。
「落ち着くだろう?」
「ぅん・・・・・・」
兄が入れてくれたお茶を一口飲みほぅっと息をつくと、揃いのティーカップをあおった兄が柔らかい笑みを浮かべる。二つのカップに入っている茶から出る湯気が、部屋をほわほわと温めた。そんな心を解きほぐすような空気の部屋に、リリーは心の底から安らぎを感じる。
冷えるからと包むように被せられた毛布もぽかぽかと温かく、その気遣いが嬉しかった。
「それで・・・、眠れないのか?」
問いただすような声色ではなく、何を言っても怒らないという安心感を持てる声。リリーは口をぎゅっと閉めてこくりと頷いた。
「じゃあ久々に・・・、一緒に寝るか」
そう言い、ギムリィは空のカップを下げさせるとベッドに乗り上がって毛布の中に入り、リリーが入るスペースを空けてくれた。咄嗟のことに頭が追いついていかず、さっと毛布を引き上げられそこにリリーが来るのを待っていてくれているギムリィをぽかんとした顔で見てしまう。
「どうした?身体が冷えるぞ」
さも当然というように、まるでリリーがおかしいかのような口調でそう言い、『ほら早く』と催促する。急かされて、おずおずと身体を滑り込ませると、毛布をかけられてぽん、ぽんと身体をリズム良く叩かれるが、すごく恥ずかしくて『やめて』と抗議をしてしまう。
「だいじょうぶ。だいじょうぶ。これからは、なにがあっても俺がお前を守るからな」
リリーを安心させるように、ゆっくりと身体をさすりながら温かい声で紡がれる言葉に、リリーは思わず涙ぐんでしまった。
「にぃたんはもぉ・・・・・・じゅぅぶんにぼくをまもってくえてるよ」
本当に、感謝しかないんだから、と面と向かって言うのが恥ずかしくてくるりとギムリィの方に向き直って彼の胸に顔を埋めてしまう。ギムリィに抱きつくと、安心するのだ。だから不安なときほど、こうしてしまう癖も直さなければならないなと思ってはいるのだが、身体が自然と反応してしまうのだから仕方がない。
そしてそのまま、リリーは絶対的な安心を抱きつつ、深く眠った。
兄によって与えられた安心感からか、あの悪夢ももう見なかった。
次の日からリリーは、少しずつだが以前と同じように生活できるようになった。一日の大半は変わらず部屋で読書などをしているが、時々兄たちに誘われてスポーツをしたり、庭園に出てティータイムを楽しんだりと、普段の優雅な時間を過ごすことができるようになったのだ。
そして休暇が終わり、後期の授業が始まろうとしていた。
兄たちはとても心配そうで、結局リリーのかけられた呪いを解除する術が見つけられなかったことに不甲斐なさを感じていたが、リリーはもう大丈夫と笑顔で告げるとなんとも言えない表情をしてぎゅっと抱きしめてくれたのだった。あれから二人は、諦めずに呪いを解く方法を探し続けていてくれている。そしてそれは王子たちもであった。
あの後雰囲気が悪くなってしまいしばらく尋ねては来なかったのだが、数日後にホワイトローズ家へ訪れ皆と茶を楽しみながら話に勤しんだ。彼らは以前のような穏やかな表情をしていたが、やはり秘密を知ってからなんとなく胸の中にひっかかるものがあるようだ。両親には問いただしてはいないが、同性から生まれた自分たちは十中八九魔族の力があったからこその産物なのだろう。だからといって、自分たちが生まれてきたのには変わりはなく、ただ自分たちも子を産むために魔族の力を借りなければならないということに一抹の暗い気持ちを抱えていたのだ。
そんな彼らにはギムリィとハレムが寄り添い、『それは二人で考えていこう』と優しく抱きしめた。
脳天気なゼヌが『まぁ魔法以外に同性でも子どもを産めるような方法もそのうち見つかるんじゃねぇか?』と両手を頭の後ろにやりながら言い、それにクォードがお気楽だなと言ったが、
『いやいや、俺だって本気だよ!!だってリリーとの子ども、欲しいもん!!』
と真面目な顔で言い放ち、リリーはこれ以上ないほど顔を赤面させた。ハレムは『ちょっ、気が早すぎ』と苦笑いしていたが、リリーは冗談じゃないっと必死にゼヌに説教をした。舌っ足らずな口調で。
結局皆を和ませて終わってしまったのだが。
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