天使の声と魔女の呪い

狼蝶

文字の大きさ
上 下
24 / 60

24

しおりを挟む


『りっ、リリアナっ!!』

『まーぁ、可愛い赤ん坊だこと。生まれたばかりだというのに、お目々はぱっちりだし、唇は美味な果実のように可愛らしい。これが貴方が私を裏切った証拠・・・・・・。こんなに可愛らしいのに・・・、溜まらなく憎いわ・・・・・・』

『な、何をする気だ!!リリーを離せっ!!』

 リリーを取り返そうと手を伸ばすがリリーを抱えたままひらりと交わされ、唇の箸をゆっくりと持ち上げるのが目に入る。

『実は私ね・・・、魔女なの。大昔に人間と争って人間界から追い出されたその一族の一人。だからね、呪いだって施すことができるのよ?』

『よせ・・・・・・やめろ・・・・・・』

『“貴方の愛し子は、永遠に成長しない。一生貴方の愛し子のままよ”』

『な・・・、なに、を・・・・・・?』

『うふふっ、これでこの子は一生赤ん坊のまま。可哀想に。成長しないこの子を見て、私への懺悔をを繰り返すといいわ』

 そう言って、彼女は闇に去って行った。廊下には彼女の笑い声が長い間こだまし、ロイズは腕の中のリリーを目に、崩れ落ちるしかなかった。


 こんなことを妻や周りの者に言えるはずもなく、ロイズは黙っていた。リリアナのことや、リリーにかけられた呪いのことを。いつかバレることをわかっていたがらも、言い出すことができなかった。
 ビクビクとしながら日々リリーの様子を見ていると、彼はすくすくと順調に育っていった。ロイズの心配を裏切るように。リリーの兄たちと変わらない成長に、張っていた緊張が一気に解けていく気がした。なんだ、あれは彼女のイタズラか、とほっとした。全て彼女の勘違いだが、きっと私への腹いせのためのイタズラだったのだろう、と。
 成長していくリリーは本当に可愛かった。ぷくぷくした手足で部屋を這い回る姿や、ふくふくとした頬を賢明に動かしものを食べたり喋ったりする。初めて『とーしゃ』と言われたときなどは、ギムリィとハレムのときもそうだったが身体から芯が抜けてでろでろになってしまった。一つ・二つ上の兄たちも、末っ子の存在にめろめろだった。
 だが、ギムリィもハレムも普通に話せるようになり、リリーもその年を迎えたというのに、一向に彼のしゃべり方は成長しなかった。彼も自覚があるようで、頭では普通に話せるのだが口から外に出すときに上手くいかないらしい。
 それを聞いて、ロイズはまさか・・・と背中に冷や汗をかいた。

 そしてその嫌な予感は的中したのだ。呪いが失敗したのか、“永遠の赤ん坊”は話し方に反映されているらしい。
 皆がその異常さに首を傾げ怪訝な顔をするのに、やはりロイズは言い明かすことができなかった。


 それから必死になってその呪いの解き方を探した。文献を漁っていくと、それらしい内容に行き当たる。
 お伽話の中の存在とされていた魔女は本当に実在していたのだ。魔法を使う彼ら魔族は邪な魔法で人々を操り陥れるとされ、人間は彼らをその地から追放し、彼らの名は人間の世界からは消えた――。だがぽつりぽつりとその存在は、様々な本の中で登場してくる。大半は彼らが人間への復讐として災害を起こしているのだという主張だったが、“呪い”という文字も所々に記してある。また、同姓の間に子ができるのも、魔族が関係しているという記述もあった。そして貴族たちも金で彼らを雇い、魔法の力で非現実的なことを実現させたりしているのだということが書かれていた。
 “呪い”という文字に食いつきその解き方を読み進めると、それは教会にいるある人物が解いたのだと書かれていた。その女は“聖女”と呼ばれる清い女性だったのだとか。
 ロイズはすぐさま馬車を走らせその教会へと向かったが、彼女はすでに亡くなっており、彼女のような“聖女”はなかなか世に出ないということも知った。

 まさに打つ手なしでどうしようかと思っていたところにギムリィやハレム、そして彼らはこの国の王子たちをも巻き込んでリリーの呪いについて調べていると聞いて、ロイズは慌てて今まで集めていた手がかりを自分の書庫へと隠した。
 相手の誤解であっても、自分の犯した失態を周りに知られることが怖かったからだ。だが、ここ最近ブロッサム家の長男――フラウの動きが活発だという話を耳にし、リリーの呪いについて知られるのは時間の問題だと思い今回息子と王子たちに秘密を話すことにしたのだという。

「の・・・ろい・・・って・・・・・・」

「父上、その呪いというやつは、聖女によってしか解けないものなのですか?」

「ああ・・・・・・、今のところ、そう言われている」


 部屋に再び沈黙が走る。解決策がないことに、リリーも気分が落ち込んだ。一生、この喋り方なのだ・・・・・・。そう思うと、先が真っ暗な気がしてきた。

 するとその時、ジルがぽつりと口を零した。

「私たちって・・・・・・魔族の魔法で生まれた存在ってことですよね・・・・・・」

 それはいつも堂々としたジルの声とは違い、暗い暗い声だった。両端に座っていたクォードもゼウも口をつぐむ。
 その部屋には、重く、暗い空気が漂っていた。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

前世が俺の友人で、いまだに俺のことが好きだって本当ですか

Bee
BL
半年前に別れた元恋人だった男の結婚式で、ユウジはそこではじめて二股をかけられていたことを知る。8年も一緒にいた相手に裏切られていたことを知り、ショックを受けたユウジは式場を飛び出してしまう。 無我夢中で車を走らせて、気がつくとユウジは見知らぬ場所にいることに気がつく。そこはまるで天国のようで、そばには7年前に死んだ友人の黒木が。黒木はユウジのことが好きだったと言い出して―― 最初は主人公が別れた男の結婚式に参加しているところから始まります。 死んだ友人との再会と、その友人の生まれ変わりと思われる青年との出会いへと話が続きます。 生まれ変わり(?)21歳大学生×きれいめな48歳おっさんの話です。 ※軽い性的表現あり 短編から長編に変更しています

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

【完結】僕はキミ専属の魔力付与能力者

みやこ嬢
BL
【2025/01/24 完結、ファンタジーBL】 リアンはウラガヌス伯爵家の養い子。魔力がないという理由で貴族教育を受けさせてもらえないまま18の成人を迎えた。伯爵家の兄妹に良いように使われてきたリアンにとって唯一安らげる場所は月に数度訪れる孤児院だけ。その孤児院でたまに会う友人『サイ』と一緒に子どもたちと遊んでいる間は嫌なことを全て忘れられた。 ある日、リアンに魔力付与能力があることが判明する。能力を見抜いた魔法省職員ドロテアがウラガヌス伯爵家にリアンの今後について話に行くが、何故か軟禁されてしまう。ウラガヌス伯爵はリアンの能力を利用して高位貴族に娘を嫁がせようと画策していた。 そして見合いの日、リアンは初めて孤児院以外の場所で友人『サイ』に出会う。彼はレイディエーレ侯爵家の跡取り息子サイラスだったのだ。明らかな身分の違いや彼を騙す片棒を担いだ負い目からサイラスを拒絶してしまうリアン。 「君とは対等な友人だと思っていた」 素直になれない魔力付与能力者リアンと、無自覚なままリアンをそばに置こうとするサイラス。両片想い状態の二人が様々な障害を乗り越えて幸せを掴むまでの物語です。 【独占欲強め侯爵家跡取り×ワケあり魔力付与能力者】 * * * 2024/11/15 一瞬ホトラン入ってました。感謝!

青少年病棟

BL
性に関する診察・治療を行う病院。 小学生から高校生まで、性に関する悩みを抱えた様々な青少年に対して、外来での診察・治療及び、入院での治療を行なっています。 ※性的描写あり。 ※患者・医師ともに全員男性です。 ※主人公の患者は中学一年生設定。 ※結末未定。できるだけリクエスト等には対応してい期待と考えているため、ぜひコメントお願いします。

マリオネットが、糸を断つ時。

せんぷう
BL
 異世界に転生したが、かなり不遇な第二の人生待ったなし。  オレの前世は地球は日本国、先進国の裕福な場所に産まれたおかげで何不自由なく育った。確かその終わりは何かの事故だった気がするが、よく覚えていない。若くして死んだはずが……気付けばそこはビックリ、異世界だった。  第二生は前世とは正反対。魔法というとんでもない歴史によって構築され、貧富の差がアホみたいに激しい世界。オレを産んだせいで母は体調を崩して亡くなったらしくその後は孤児院にいたが、あまりに酷い暮らしに嫌気がさして逃亡。スラムで前世では絶対やらなかったような悪さもしながら、なんとか生きていた。  そんな暮らしの終わりは、とある富裕層らしき連中の騒ぎに関わってしまったこと。不敬罪でとっ捕まらないために背を向けて逃げ出したオレに、彼はこう叫んだ。 『待て、そこの下民っ!! そうだ、そこの少し小綺麗な黒い容姿の、お前だお前!』  金髪縦ロールにド派手な紫色の服。装飾品をジャラジャラと身に付け、靴なんて全然汚れてないし擦り減ってもいない。まさにお貴族様……そう、貴族やら王族がこの世界にも存在した。 『貴様のような虫ケラ、本来なら僕に背を向けるなどと斬首ものだ。しかし、僕は寛大だ!!  許す。喜べ、貴様を今日から王族である僕の傍に置いてやろう!』  そいつはバカだった。しかし、なんと王族でもあった。  王族という権力を振り翳し、盾にするヤバい奴。嫌味ったらしい口調に人をすぐにバカにする。気に入らない奴は全員斬首。 『ぼ、僕に向かってなんたる失礼な態度っ……!! 今すぐ首をっ』 『殿下ったら大変です、向こうで殿下のお好きな竜種が飛んでいた気がします。すぐに外に出て見に行きませんとー』 『なにっ!? 本当か、タタラ! こうしては居られぬ、すぐに連れて行け!』  しかし、オレは彼に拾われた。  どんなに嫌な奴でも、どんなに周りに嫌われていっても、彼はどうしようもない恩人だった。だからせめて多少の恩を返してから逃げ出そうと思っていたのに、事態はどんどん最悪な展開を迎えて行く。  気に入らなければ即断罪。意中の騎士に全く好かれずよく暴走するバカ王子。果ては王都にまで及ぶ危険。命の危機など日常的に!  しかし、一緒にいればいるほど惹かれてしまう気持ちは……ただの忠誠心なのか?  スラム出身、第十一王子の守護魔導師。  これは運命によってもたらされた出会い。唯一の魔法を駆使しながら、タタラは今日も今日とてワガママ王子の手綱を引きながら平凡な生活に焦がれている。 ※BL作品 恋愛要素は前半皆無。戦闘描写等多数。健全すぎる、健全すぎて怪しいけどこれはBLです。 .

幸福からくる世界

林 業
BL
大陸唯一の魔導具師であり精霊使い、ルーンティル。 元兵士であり、街の英雄で、(ルーンティルには秘匿中)冒険者のサジタリス。 共に暮らし、時に子供たちを養う。 二人の長い人生の一時。

聖女の兄で、すみません!

たっぷりチョコ
BL
聖女として呼ばれた妹の代わりに異世界に召喚されてしまった、古河大矢(こがだいや)。 三ヶ月経たないと元の場所に還れないと言われ、素直に待つことに。 そんな暇してる大矢に興味を持った次期国王となる第一王子が話しかけてきて・・・。 BL。ラブコメ異世界ファンタジー。

スキルも魔力もないけど異世界転移しました

書鈴 夏(ショベルカー)
BL
なんとかなれ!!!!!!!!! 入社四日目の新卒である菅原悠斗は通勤途中、車に轢かれそうになる。 死を覚悟したその次の瞬間、目の前には草原が広がっていた。これが俗に言う異世界転移なのだ——そう悟った悠斗は絶望を感じながらも、これから待ち受けるチートやハーレムを期待に掲げ、近くの村へと辿り着く。 そこで知らされたのは、彼には魔力はおろかスキルも全く無い──物語の主人公には程遠い存在ということだった。 「異世界転生……いや、転移って言うんですっけ。よくあるチーレムってやつにはならなかったけど、良い友だちが沢山できたからほんっと恵まれてるんですよ、俺!」 「友人のわりに全員お前に向けてる目おかしくないか?」 チートは無いけどなんやかんや人柄とかで、知り合った異世界人からいい感じに重めの友情とか愛を向けられる主人公の話が書けたらと思っています。冒険よりは、心を繋いでいく話が書きたいです。 「何って……友だちになりたいだけだが?」な受けが好きです。 6/30 一度完結しました。続きが書け次第、番外編として更新していけたらと思います。

処理中です...