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しおりを挟む「兄さん!?何をやってるの」
クォードたち王族もぐっと言葉に詰まっていると、会場の入り口の方から高い声が飛んできた。その持ち主はフラウリーゼで、彼女はつかつかと早足で近づいてくると、今の状況を説明するように目で訴えかけた。
「それくらいならすぐに落ちるじゃない!そんなことでいちいち人に突っかからないで!!」
「うるさいっお前は口を挟むな!!大体ぶつかってきたのはこいつからで、それに対する謝罪もまだなんだぞ?いいか、貴族世界はルールが絶対だ。それに従えない者はそこから消えることになる」
「にいさ・・・・・・」
今までぶつけられたことのない怒声にフラウリーゼは怯え、初めて向けられる兄の温度のない目に悲しみがあふれ出した。兄は、変わってしまったのだと。
「フラウ様」
「今度は何だ!?」
彼女がショックによろけると、その肩を受け止め背後に立ったアランがいつもよりも低い声でフラウに声をかけた。アランが後ろから来たセイにフラウリーゼを預けると、フラウの眼前まで歩み出てフラウの目に自分の目を合わせて口を開いた。
「リリー様は今日、風邪を引いてるため声が出せないと先ほど耳にしました。ですので、謝罪は文面でもよろしいのではないでしょうか」
その言葉に周りで様子を窺っていた人たちがざわりとする。
「そんな相手に乱暴をし謝罪を要求するなど、そちらこそ失礼に値するのではないですか?」
フラウリーゼの肩を抱いていたセイも友に向けて出すような声ではなく、事務的な声で聞かせるようにアランに続いてゆっくりと述べた。
「はぁ!?でも実際服汚したのはそっちですよ?」
「あなたも、侯爵家の分際でその様な口を利くなど慎みが足りないと見えますが」
タイムの反論にセイが冷たく言い返す。それは異論を許さない重さを持っており、タイムは反論ができないようで、悔しそうに口を閉じた。
「ブロッサム家を裏切ったお前が、よくそんなことを口できるな」
「これは、貴族界の規則の話です。当然のことを言ったまでですよ、フラウ」
粗相をしでかしたのに謝罪をしない者を責める空気から一転し、会場はか弱いリリーを責めるフラウに嫌悪感を抱く空気に包まれていた。そんな状態でさらにリリーを責め立てることは諦め、フラウは心底憎らしげにホワイトローズ家の面々を睨み付けながら、『もう行こうよ』と言って腕を引くタイムに引っ張られ、会場を去って行った。
「大丈夫か・・・・・・と聞くまでもなく大丈夫じゃないな。リリー、立てるか?」
心配と怒りが混ざったような表情で身体を包むギムリィに、震えていたリリーはこくりと一つ頷いた。それを確認すると、ギムリィはリリーを抱き上げ周りの好奇の視線が注がれる中その視線を砕くように鋭い表情で出口へと向かっていった。
人の視線に晒される恐怖にリリーは兄の首に腕を回し、胸元に顔を埋め必死にしがみついた。
『これは、違う意味でも歴史に残りそうですね・・・・・・』とゼウは思いながらも、側にいると言いながらいざというときに横にいなかったことに深く後悔をした。
*****
王子を含めた皆が停車場へと到着すると、来るときにはなかった一層大きな馬車が止められており、その前に立っていた執事のような大柄な男がリリーを抱いているギムリィに近づき頭を下げた。
「主様に、皆様を本屋敷へとお迎えするよう遣わされました」
告げられた異様な指示に、皆は顔を見合わせた。
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