天使の声と魔女の呪い

狼蝶

文字の大きさ
上 下
21 / 60

21

しおりを挟む

「兄さん!?何をやってるの」

 クォードたち王族もぐっと言葉に詰まっていると、会場の入り口の方から高い声が飛んできた。その持ち主はフラウリーゼで、彼女はつかつかと早足で近づいてくると、今の状況を説明するように目で訴えかけた。
 
「それくらいならすぐに落ちるじゃない!そんなことでいちいち人に突っかからないで!!」
「うるさいっお前は口を挟むな!!大体ぶつかってきたのはこいつからで、それに対する謝罪もまだなんだぞ?いいか、貴族世界はルールが絶対だ。それに従えない者はそこから消えることになる」
「にいさ・・・・・・」

 今までぶつけられたことのない怒声にフラウリーゼは怯え、初めて向けられる兄の温度のない目に悲しみがあふれ出した。兄は、変わってしまったのだと。

「フラウ様」
「今度は何だ!?」

 彼女がショックによろけると、その肩を受け止め背後に立ったアランがいつもよりも低い声でフラウに声をかけた。アランが後ろから来たセイにフラウリーゼを預けると、フラウの眼前まで歩み出てフラウの目に自分の目を合わせて口を開いた。

「リリー様は今日、風邪を引いてるため声が出せないと先ほど耳にしました。ですので、謝罪は文面でもよろしいのではないでしょうか」

 その言葉に周りで様子を窺っていた人たちがざわりとする。

「そんな相手に乱暴をし謝罪を要求するなど、そちらこそ失礼に値するのではないですか?」

 フラウリーゼの肩を抱いていたセイも友に向けて出すような声ではなく、事務的な声で聞かせるようにアランに続いてゆっくりと述べた。

「はぁ!?でも実際服汚したのはそっちですよ?」

「あなたも、侯爵家の分際でその様な口を利くなど慎みが足りないと見えますが」

 タイムの反論にセイが冷たく言い返す。それは異論を許さない重さを持っており、タイムは反論ができないようで、悔しそうに口を閉じた。

「ブロッサム家を裏切ったお前が、よくそんなことを口できるな」

「これは、貴族界の規則の話です。当然のことを言ったまでですよ、フラウ」

 粗相をしでかしたのに謝罪をしない者を責める空気から一転し、会場はか弱いリリーを責めるフラウに嫌悪感を抱く空気に包まれていた。そんな状態でさらにリリーを責め立てることは諦め、フラウは心底憎らしげにホワイトローズ家の面々を睨み付けながら、『もう行こうよ』と言って腕を引くタイムに引っ張られ、会場を去って行った。


「大丈夫か・・・・・・と聞くまでもなく大丈夫じゃないな。リリー、立てるか?」

 心配と怒りが混ざったような表情で身体を包むギムリィに、震えていたリリーはこくりと一つ頷いた。それを確認すると、ギムリィはリリーを抱き上げ周りの好奇の視線が注がれる中その視線を砕くように鋭い表情で出口へと向かっていった。
 人の視線に晒される恐怖にリリーは兄の首に腕を回し、胸元に顔を埋め必死にしがみついた。

『これは、違う意味でも歴史に残りそうですね・・・・・・』とゼウは思いながらも、側にいると言いながらいざというときに横にいなかったことに深く後悔をした。


 *****

 王子を含めた皆が停車場へと到着すると、来るときにはなかった一層大きな馬車が止められており、その前に立っていた執事のような大柄な男がリリーを抱いているギムリィに近づき頭を下げた。

「主様に、皆様を本屋敷へとお迎えするよう遣わされました」


 告げられた異様な指示に、皆は顔を見合わせた。






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

前世が俺の友人で、いまだに俺のことが好きだって本当ですか

Bee
BL
半年前に別れた元恋人だった男の結婚式で、ユウジはそこではじめて二股をかけられていたことを知る。8年も一緒にいた相手に裏切られていたことを知り、ショックを受けたユウジは式場を飛び出してしまう。 無我夢中で車を走らせて、気がつくとユウジは見知らぬ場所にいることに気がつく。そこはまるで天国のようで、そばには7年前に死んだ友人の黒木が。黒木はユウジのことが好きだったと言い出して―― 最初は主人公が別れた男の結婚式に参加しているところから始まります。 死んだ友人との再会と、その友人の生まれ変わりと思われる青年との出会いへと話が続きます。 生まれ変わり(?)21歳大学生×きれいめな48歳おっさんの話です。 ※軽い性的表現あり 短編から長編に変更しています

【完結】浮薄な文官は嘘をつく

七咲陸
BL
『薄幸文官志望は嘘をつく』 続編。 イヴ=スタームは王立騎士団の経理部の文官であった。 父に「スターム家再興のため、カシミール=グランティーノに近づき、篭絡し、金を引き出せ」と命令を受ける。 イヴはスターム家特有の治癒の力を使って、頭痛に悩んでいたカシミールに近づくことに成功してしまう。 カシミールに、「どうして俺の治癒をするのか教えてくれ」と言われ、焦ったイヴは『カシミールを好きだから』と嘘をついてしまった。 そう、これは─── 浮薄で、浅はかな文官が、嘘をついたせいで全てを失った物語。 □『薄幸文官志望は嘘をつく』を読まなくても出来る限り大丈夫なようにしています。 □全17話

【完結】『ルカ』

瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。 倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。 クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。 そんなある日、クロを知る青年が現れ……? 貴族の青年×記憶喪失の青年です。 ※自サイトでも掲載しています。 2021年6月28日 本編完結

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

某国の皇子、冒険者となる

くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。 転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。 俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために…… 異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。 主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。 ※ BL要素は控えめです。 2020年1月30日(木)完結しました。

彼の至宝

まめ
BL
十五歳の誕生日を迎えた主人公が、突如として思い出した前世の記憶を、本当にこれって前世なの、どうなのとあれこれ悩みながら、自分の中で色々と折り合いをつけ、それぞれの幸せを見つける話。

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

処理中です...