天使の声と魔女の呪い

狼蝶

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「ったく、フラウの奴・・・・・・」

 授業後、フラウの教室を尋ねるともうすでに彼はおらず、タイムと出ていったという情報をクラスメイトから得る。文句を口に出しながらも先ほど面と向かって言われた棘が、胸でチクチクと追撃をしてくる。
『お前はもう、ブロッサム家の人間じゃない』。フラウとは何度も意見をぶつけ合うことがあったが、そんなことを言われたのは初めてだった。彼の口から放たれた言葉に強制力などなく、ああ言われたからと言って実際にセイがブロッサム家を破門にされることはないだろう。そう思えるのに、長い間共に成長をしてきた彼に言われたということが、セイの胸を締め上げた。

「はぁ・・・・・・」

「セイ=ブロッサム、少し話しをしたいのだが」

 溜息を吐きながら歩いているとギムリィが前から来るのが目に入り、浅く会釈をして通り過ぎようとした時、突然目の前で足を止めてそう言ってきた。咄嗟に断りの文句も浮かばず黙っていたセイに承諾と取ったのかギムリィが踵を返して歩き出した。付いて行かなければ後々面倒なことになりそうだと思い、セイは黙って彼の後を歩き、生徒会室の扉を潜った。

「うわぁ・・・・・・生徒会室ってこんな感じなんだ」
「フラウも君も、成績優秀なのに生徒会に入らなかったからな。知らなかっただろう、生徒会室の豪華さを」

 一歩入るとそこは他の教室と違い、品の良い調度品ばかりが揃っていた。床も壁も貴重な石が使われており、シャンデリアも小ぶりながら職人の趣向が凝らしてある。想像になかった豪華さに思わず部屋の中を見回すと、ギムリィが苦笑いしながら当たり前だと言ってきた。
 ギムリィとはこうして面と向かって話すのは初めてだが、パーティーなどで見る冷たそうな雰囲気はなく、非常に穏やかそうに見える。彼が微笑むと周りの空気もさらに和らぎ、その空気にこちらも口を緩めてしまいそうになるほどだ。

「まぁきっと?僕たちホワイトローズ家が生徒会に入っていたからでしょうけど。はい、どうぞ」
「ありがとう・・・・・・。ああ、そうだな。せっかくなら生徒会に入れば良いのに、あいつはあなたたちのことを毛嫌いしているから。本当に、損な奴だよ。俺もあいつも」
「あなたはいつもフラウさんの言いなりだからね。そんなこと言っても仕方ないんじゃないですか?」

 ツンとした態度で紅茶を出してきたハレムに礼を言うが手厳しいことを言われ、気まずくなって貰った紅茶を一口含む。ギムリィも気まずそうにハレムに『こらこら』と言うが、ハレムはふんっと鼻を鳴らしてギムリィの隣へ腰を下ろした。
 紅茶のカップを静かにテーブルへ戻し一息吐くと、目の前のギムリィが姿勢を正してセイの目を見る。

「セイ、先ほどは疑ってしまってすまなかった」

 そう言って、頭を深く下げてきた。物腰は柔らかくともプライドは高そうな彼のその行動を意外に思い頭が真っ白になったが、ハレムに『早く頭を上げさせろ』という視線を送られセイは謝罪を受け入れることにした。

「リリーを庇ってくれたと聞いた。君はブロッサム家の人間だというのに、すごいな」
「いいえ、人として当然のことです。それに俺は、もうフラウからは見放されているので」
「え・・・?」

 言うつもりのなかった言葉にセイは一瞬しまったと思い口を閉ざしたが、眉を潜めたギムリィと声を上げたハレムに怪訝な態度を取られたため、観念して自分がフラウに言われたことを話すことにした。そして話しているとふつふつとタイムに対する怒りがこみ上げてきて、セイはほぼ初対面である二人に向かって半ば愚痴のようなものを零していた。

「ふむ、タイム侯爵家の三男か・・・・・・。あまり目にしたことはないですね」
「ああ・・・。それで、彼がフラウの側に現れたときからあいつの態度がおかしくなったと・・・・・・?」
「ええ、考えてみるとそうなんです。それまではいくらあななたちを敵視していたとしても、今日のようなことは決してしなかったでしょうから」
「では彼についても調べて見た方がいいですかね?兄さん」
「ああそうだな。セイ、有益な情報をありがとう」
「いいえ。よければ俺も協力させてください。なんだか最近あいつ、危なっかしいんです。この後も何も起きなければ良いんですが」
「助かる。ではフラウとタイムの動向を探ってみてもらえるだろうか。ブロッサム家の人間に頼むことではないが」
「いいんです。俺はどうせ仲間はずれですから」

 セイは吹っ切れたような、だが少し寂しいようなそんな表情をして立ち上がり、それではと二人にお辞儀をして部屋から出ていった。

「最近タイムがフラウに近づいている・・・か・・・・・・」
「怪しいですね」

「もう行ったか」
「・・・・・・」

 ギムリィがセイから聞いた話について顎に手を添えて考え込んでいると、会議用机の椅子の影から二人の男が姿を現した。一人はギムリィの婚約者のクォードで、もう一人はハレムの婚約者であるジルである。
 クォードは、愛する婚約者が敵対する家の者と部屋で話をすると聞いて、ギムリィの制止も聞かずにずっと部屋で隠れていたのであった。どうしてそんなことをする必要があるのかと聞けば、『俺のギムリィに手を出すかもしれないからな。いざという時は俺が成敗してくれるわ!』と元気よく意味のわからない答えが返ってきたものだ。それに便乗したジルも居残ることになったが、自分の婚約者に呆れるギムリィとは違い、ハレムは耳まで真っ赤にして嬉しそうな様子を見せた。

「お前がいる必要、なかっただろ?」
「いいや!あいつ、お前に見惚れてたぞ!?ったく、油断も隙もねぇな。美人な嫁を持つとこれだ」

 無意識に出たであろうその言葉に、今度はギムリィが耳を朱に染めたがすぐに咳払いで誤魔化しその熱を霧散させた。

「それで・・・、タイム家の三男坊についても調べる必要がありそうだな」
「そうですね」

 生徒会室では新たに出てきた怪しい人物に、不穏な空気が漂っていた。







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