10 / 60
10
しおりを挟む*****
午後は日差しが強く暑い・・・・・・。日向になんかいたら焦げてしまいそうだ。
昔から家に居がちだったリリーは、過保護な兄たちにも『お前は極力日を浴びるな。綺麗な肌が傷ついてしまう』と、まるで妹にでも言っているようなことを言われてきた。最初から外に出る気もなかったが、彼らのおかげでリリーはインドア生活を謳歌できたのだ。
だから、あっちにいるまさにヒロインとその攻略対象者たちみたいなキラキラ軍団みたいに、日のばんばん当たるところで喋りながら食事をする気が知れないと思った。べ、別に楽しそうだとか羨ましいとか思っていない。
『というか自分の場合、口を開いたらもう最悪だから・・・・・・』
そうぼんやりと眺めていたら、こちらの視線に気づいたのかアランがこちらに目を向けてきた。急いで目を逸らすと、隣で一部始終を見ていたらしいゼヌが『何、彼らが羨ましいんですか?』と意地悪そうな笑みを浮かべながら俺に言った。
リリーは『違うし!』という意を込めてブンブンと首を横に振ったが、彼は耳に手を翳し『え、何?何て?』とさらに意地悪をしてくる。
子どものように『羨ましぃんだぁ。そうかぁ、じゃあ今度兄さんたちと一緒に領土の草原で昼食でも取りましょうか?』
「うややましくなんか、ないもん・・・・・・。れも、それは、ちたい(したい)」
「・・・・・・っそうか!じゃあ俺から兄貴たちに言っとくわ。あ゛あ゛ーー、かっわいっ!!」
あまりにしつこく言ってくるので羨ましくなんかないと言ったが、ゼヌの提案はすごく魅力的だったのでそれは是非やりたいと思った。口に出すといつも通り舌足らずな言葉になってしまい、恥ずかしさに途中から声が小さくなっていく。
いつもなら喋るとすぐに『かわいい!』と飛びついてくるゼヌだが、一人の人格“ゼノ”を演じているためそれは我慢したらしい。だが耐えた後に、本音が漏れたようにぼそりと本人の素が出てしまっていた。やはり学園に入学するまで長いこと素の彼らと接してきたからか、演じている彼らと話しているとすごく気持ちが悪いと感じてしまう。
彼らが外で演じているのは一人の第三王子、“ゼノ”。名前は音が良いからと末っ子のものだが、口調や動作は三つ子の中の長男、ゼウのものを基として作り上げられている。しかしあえて人格は固定したものを作ってはいないようだった。全く同じ姿の全く別の人間がそれぞれの考えで動くからこそ、“ゼノ”は捉えどころのない謎の人物となるのだ。
「やぁリリー、ご機嫌よう。少し弟を借りてもいいかな?」
「おっと、噂をすればだな・・・・・・」
なんだか周りがざわざわするなと思っていると、今話題に上がっていた彼の兄弟、第一王子でありこの学園の生徒会長様であるクォードライトが柔らかな笑みをたたえて姿を見せた。彼もリリーが普通に話せないことを知っている一人なので、こくりと頷くと言葉での返事はいらないというようにゼヌに目線を促した。ゼヌは素の言葉遣いでぼそりと言うと、一瞬でふんわりとした“ゼノ”の雰囲気を纏い、立ち上がってまさに王子様という顔でこちらを見た。
「リリー、私は少し席を外しますね。すぐに戻って来ますから」
そう言って優雅に兄の後ろに付いて行くゼヌの姿を、見えなくなるまで眺めていた。
建物内に入っていったのを見届けてから、また本に目を落とす。そう言えば、ここを読んでいるときにあの太陽みたいな人たちの姿に目を奪われたんだっけな・・・・・・と思いながら、一度読んだ部分にまた目を通していく。
今は主人公の女性が彼女を護るために嘘をついて別れようとする彼を追いかけている途中だ。ああ、どうなってしまうのだろうか・・・・・・!!
バシャッ
次は次はとドキドキしながら文を目で追っていると、いきなり上から水が振ってきた。突然のことで、心臓がぴしゃりと打たれたように驚き、本も水でベタベタになっており真っ白なページが茶色に染まっていた。それは水ではなく、紅茶だった。
「ああ、申し訳ない麗しのリリーくん。君の伸ばされた長い足に躓いてしまったようだ」
謝る気がないだろうと心が嫌な感じでざわつく、上っ面だけの謝罪の声に顔を上げると、カップを手にしたフラウが根性の悪い顔で歪んだ笑みを浮かべていた。
ずぶ濡れになったリリーを、遠巻きで鑑賞していた生徒たちが声を殺して笑っている。みんな、何を話しても返さないリリーのことを嫌っているのだ。今も、いい気味だと思っているのだろう。こんなことをされても何も言い返せない自分がもどかしい。文句が出そうになるのを、唇に力を入れて我慢した。
「おいフラウ!これはいくらなんでも酷いぞ。ああごめんな俺の従兄弟が・・・・・・」
そう言って申し訳なさそうに顔を顰めながらポケットから取り出したハンカチでリリーの頭を拭ってくれたのは、フラウリーゼの取り巻きの一人、セイだった。優しく顔を拭われ、少し気持ちよくて目を瞑る。
「おいっ、何やってるんだよセイ!そんなことを不要だ!!」
「お前こそ何を言っているんだ!正気か!?」
彼もブロッサム家の一員なのに、なんで――と思っていると、同じことを思ったのかフラウも顔がわかりやすく怒りに染まり、彼に向かって怒鳴り始める。するとセイも激怒し、信じられないという風にフラウに食ってかかった。そのためハンカチは離れていき、吹いてくる風に濡れた身体が冷え、寒い・・・!!早く拭くのを再開してくれ・・・・・・というリリーの思いは届かないまま。
「おい。そこで何をやっている」
二人が目の前で言い争っていると、突然第三者の声が聞こえてきた。その場を凍てつかせるほど冷たく、恐怖を覚えさせるほど低い声だったが、リリーにはそれが兄、ギムリィの声だとすぐわかった。
46
お気に入りに追加
228
あなたにおすすめの小説

前世が俺の友人で、いまだに俺のことが好きだって本当ですか
Bee
BL
半年前に別れた元恋人だった男の結婚式で、ユウジはそこではじめて二股をかけられていたことを知る。8年も一緒にいた相手に裏切られていたことを知り、ショックを受けたユウジは式場を飛び出してしまう。
無我夢中で車を走らせて、気がつくとユウジは見知らぬ場所にいることに気がつく。そこはまるで天国のようで、そばには7年前に死んだ友人の黒木が。黒木はユウジのことが好きだったと言い出して――
最初は主人公が別れた男の結婚式に参加しているところから始まります。
死んだ友人との再会と、その友人の生まれ変わりと思われる青年との出会いへと話が続きます。
生まれ変わり(?)21歳大学生×きれいめな48歳おっさんの話です。
※軽い性的表現あり
短編から長編に変更しています
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
【完結】僕はキミ専属の魔力付与能力者
みやこ嬢
BL
【2025/01/24 完結、ファンタジーBL】
リアンはウラガヌス伯爵家の養い子。魔力がないという理由で貴族教育を受けさせてもらえないまま18の成人を迎えた。伯爵家の兄妹に良いように使われてきたリアンにとって唯一安らげる場所は月に数度訪れる孤児院だけ。その孤児院でたまに会う友人『サイ』と一緒に子どもたちと遊んでいる間は嫌なことを全て忘れられた。
ある日、リアンに魔力付与能力があることが判明する。能力を見抜いた魔法省職員ドロテアがウラガヌス伯爵家にリアンの今後について話に行くが、何故か軟禁されてしまう。ウラガヌス伯爵はリアンの能力を利用して高位貴族に娘を嫁がせようと画策していた。
そして見合いの日、リアンは初めて孤児院以外の場所で友人『サイ』に出会う。彼はレイディエーレ侯爵家の跡取り息子サイラスだったのだ。明らかな身分の違いや彼を騙す片棒を担いだ負い目からサイラスを拒絶してしまうリアン。
「君とは対等な友人だと思っていた」
素直になれない魔力付与能力者リアンと、無自覚なままリアンをそばに置こうとするサイラス。両片想い状態の二人が様々な障害を乗り越えて幸せを掴むまでの物語です。
【独占欲強め侯爵家跡取り×ワケあり魔力付与能力者】
* * *
2024/11/15 一瞬ホトラン入ってました。感謝!

マリオネットが、糸を断つ時。
せんぷう
BL
異世界に転生したが、かなり不遇な第二の人生待ったなし。
オレの前世は地球は日本国、先進国の裕福な場所に産まれたおかげで何不自由なく育った。確かその終わりは何かの事故だった気がするが、よく覚えていない。若くして死んだはずが……気付けばそこはビックリ、異世界だった。
第二生は前世とは正反対。魔法というとんでもない歴史によって構築され、貧富の差がアホみたいに激しい世界。オレを産んだせいで母は体調を崩して亡くなったらしくその後は孤児院にいたが、あまりに酷い暮らしに嫌気がさして逃亡。スラムで前世では絶対やらなかったような悪さもしながら、なんとか生きていた。
そんな暮らしの終わりは、とある富裕層らしき連中の騒ぎに関わってしまったこと。不敬罪でとっ捕まらないために背を向けて逃げ出したオレに、彼はこう叫んだ。
『待て、そこの下民っ!! そうだ、そこの少し小綺麗な黒い容姿の、お前だお前!』
金髪縦ロールにド派手な紫色の服。装飾品をジャラジャラと身に付け、靴なんて全然汚れてないし擦り減ってもいない。まさにお貴族様……そう、貴族やら王族がこの世界にも存在した。
『貴様のような虫ケラ、本来なら僕に背を向けるなどと斬首ものだ。しかし、僕は寛大だ!!
許す。喜べ、貴様を今日から王族である僕の傍に置いてやろう!』
そいつはバカだった。しかし、なんと王族でもあった。
王族という権力を振り翳し、盾にするヤバい奴。嫌味ったらしい口調に人をすぐにバカにする。気に入らない奴は全員斬首。
『ぼ、僕に向かってなんたる失礼な態度っ……!! 今すぐ首をっ』
『殿下ったら大変です、向こうで殿下のお好きな竜種が飛んでいた気がします。すぐに外に出て見に行きませんとー』
『なにっ!? 本当か、タタラ! こうしては居られぬ、すぐに連れて行け!』
しかし、オレは彼に拾われた。
どんなに嫌な奴でも、どんなに周りに嫌われていっても、彼はどうしようもない恩人だった。だからせめて多少の恩を返してから逃げ出そうと思っていたのに、事態はどんどん最悪な展開を迎えて行く。
気に入らなければ即断罪。意中の騎士に全く好かれずよく暴走するバカ王子。果ては王都にまで及ぶ危険。命の危機など日常的に!
しかし、一緒にいればいるほど惹かれてしまう気持ちは……ただの忠誠心なのか?
スラム出身、第十一王子の守護魔導師。
これは運命によってもたらされた出会い。唯一の魔法を駆使しながら、タタラは今日も今日とてワガママ王子の手綱を引きながら平凡な生活に焦がれている。
※BL作品
恋愛要素は前半皆無。戦闘描写等多数。健全すぎる、健全すぎて怪しいけどこれはBLです。
.

幸福からくる世界
林 業
BL
大陸唯一の魔導具師であり精霊使い、ルーンティル。
元兵士であり、街の英雄で、(ルーンティルには秘匿中)冒険者のサジタリス。
共に暮らし、時に子供たちを養う。
二人の長い人生の一時。

聖女の兄で、すみません!
たっぷりチョコ
BL
聖女として呼ばれた妹の代わりに異世界に召喚されてしまった、古河大矢(こがだいや)。
三ヶ月経たないと元の場所に還れないと言われ、素直に待つことに。
そんな暇してる大矢に興味を持った次期国王となる第一王子が話しかけてきて・・・。
BL。ラブコメ異世界ファンタジー。

スキルも魔力もないけど異世界転移しました
書鈴 夏(ショベルカー)
BL
なんとかなれ!!!!!!!!!
入社四日目の新卒である菅原悠斗は通勤途中、車に轢かれそうになる。
死を覚悟したその次の瞬間、目の前には草原が広がっていた。これが俗に言う異世界転移なのだ——そう悟った悠斗は絶望を感じながらも、これから待ち受けるチートやハーレムを期待に掲げ、近くの村へと辿り着く。
そこで知らされたのは、彼には魔力はおろかスキルも全く無い──物語の主人公には程遠い存在ということだった。
「異世界転生……いや、転移って言うんですっけ。よくあるチーレムってやつにはならなかったけど、良い友だちが沢山できたからほんっと恵まれてるんですよ、俺!」
「友人のわりに全員お前に向けてる目おかしくないか?」
チートは無いけどなんやかんや人柄とかで、知り合った異世界人からいい感じに重めの友情とか愛を向けられる主人公の話が書けたらと思っています。冒険よりは、心を繋いでいく話が書きたいです。
「何って……友だちになりたいだけだが?」な受けが好きです。
6/30 一度完結しました。続きが書け次第、番外編として更新していけたらと思います。

あと一度だけでもいいから君に会いたい
藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。
いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。
もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。
※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる