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しおりを挟む「本当にどうしちゃったのかしら。なんだか最近、アランらしくないわ」
「どうせ授業について行けなくて、これから先の行く末を憂いているのだろう」
「ふはっ、フラウはアランに厳しいな。お、お~い、アラン?」
「はっ!何だっ!?」
「口の端にソースが付いているわよ。もう、ぼうっとし過ぎよ。気をつけて!」
「あ、ああ・・・ごめん」
「はぁ・・・お前は一体何を見ているんだ?」
アランの並々でない様子に違和感を抱いたフラウは、怪訝な顔でアランが見ていた方向に目を向ける。アランは慌てて止めようと『あっ、ちょっと・・・』と言い募ったが、上手くいかずアランの視線の下が割れてしまうとフラウの機嫌が一気に悪くなったのがわかった。
アランが皆との食事の最中に盗み見ていたのは、あちらの方の木陰で静かに昼を食べているリリーの姿だった。その隣には王子がいて満面の笑みでリリーに構い、リリーはそれを好きにさせていた。学園にいる、リリーがいると知ったらきっと来ているだろうその兄たちは、生徒会の仕事で忙しいのか今はいない。また王子がいるというので周りが騒いでも良いのだが、なにしろ“あの”リリーが隣にいるので皆遠巻きに見ていたのだ。通りでフラウリーゼやリリーを敵視するその兄たちが今まで彼らに気づかなかったわけである。だから何も言われず見つめ続けることができたのだが。
「チッ・・・、あいつまた王子の近くにいやがって・・・・・・。見せびらかしているつもりか」
「兄さん、きっとそんなつもりはないと思うわ」
「あの隣にはリーゼが相応しいのに・・・!!」
「まぁまぁ落ち着きなってフラウ。せっかくのフラウリーゼの手料理が台無しだぞ」
「それもそうだな・・・・・・というか、お前はどっちの味方なんだ!?」
「もちろんブロッサム家に決まっているじゃないか。でも俺はフラウリーゼが好きだから、王子と婚約するのは嫌だなぁ」
「セイ・・・・・・!!」
「ふふふっ、ほら兄さんも口元に付いてるわ。アランと同じね」
「リーゼ!」
指摘され恥ずかしそうに顔を赤くし眉を下げたフラウに、アランは内心ほっとした。フラウのリリーを見るその目が険しかったからだ。そんな目であの人を見て欲しくない、と数ヶ月前までは将来の義兄になってもらうつもりだったフラウに思ってしまう。ここはいわばフラウリーゼを王子の花嫁に推す側の人間であり、フラウリーゼの兄や従兄弟といったブロッサム家の人間の前ではとてもじゃないがリリーの賞賛する言葉なんて言えない。それを表す言葉を口から出した時点でフラウの冷たく恐ろしい視線とセイの笑っていない笑顔を向けられるのである。
それを想像したアランはぶるるっと一つ身震いをした。
「あっ・・・・・・」
そうしながらも再びリリーの方へ顔を向けると、ゼノの兄たちが彼らの下へ来ておりなにやら呼び出されたのか、リリーに謝りながらその場を離れていった。突然の第一・第二王子の登場に、周りの生徒達はわっと声援を上げ、令嬢たちは口には出さなくとも王子への憧れが目に表れていた。
ゼノを見送り手元にある本に目線を落としたリリーのその静かな美しさにほぅっと息をついたが、またフラウに咎められると思い慌てて顔を皆の方に向けると、さっきまでフラウリーゼに口元を拭われて顔を赤くしていたフラウが今度は良いことでも思いついたかのように意地の悪い笑みを浮かべたのを見た。
そして次の瞬間フラウはその場から立ち上がり、リリーの方へと歩いて行った。その手には紅茶が波々と入ったカップを持って。
「ちょっと兄さん、どこに行くの!?」
「おいフラウ!」
フラウリーゼは突然の兄の奇行に驚き声をかけるが全くの無視で、見かねたセイがナプキンを膝から取り払ってフラウを追って行った。
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