天使の声と魔女の呪い

狼蝶

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「うう・・・・・・ん」

「やっと目覚めたようだね」

「はっっ!!申し訳ございません・・・・・・ええと・・・・・・」

「私はゼウ、第三王子のゼウタールだ」
「俺はゼヌタール。ゼウが兄で俺が真ん中、そしてゼノが一番下な」
「僕たち、三つ子なんです」


 ゼノ以外の二人をどう呼ぶべきか逡巡しているアランに、二人が自己紹介をする。
 世間では知られていないが、実は第三王子は三人いるのだ。
 リリーも最初はアランのようにポカンとして、頭がその情報に追いつかなかったのを覚えている。二人の兄は昔から王子たちとの交流が深く、婚約も交わしており必然的に自分も小さな頃から彼らに連れられて王宮へと頻繁に出入りしていた。これをブロッサム家に知られたら『贔屓だ!』と糾弾されかねないので、これは秘密なのだが。だが実際、昔からホワイトローズ家と王家とは深い繋がりがあったし、裏の話をする機会も必要だったため、元々表には出せない関係性である。
 しかし、ギムリィとハレムの婚約はちゃんと本人たちの恋愛のもと結ばれた婚約なので、それは恋愛結婚も大いに認められるこの国では誰も反対できないことだろう。

 話が逸れたが、第三王子は三つ子で、だが世間には一人の人間だと思われている。兄と第一・第二王子と話す機会が多くなってきたある日、紹介したい人物がいると言われ今リリーたちがいる部屋、王宮の隠し扉を通った先の奥まった一番日当たりの悪い部屋に連れられた。そこで紹介されたのはまだ社交界デビューをされていなかったゼノ、そしてゼウとゼヌと会った。同じ顔が三人・・・・・・と驚いたが、接してみると口調も性格も全く違う人間で、返る頃には一瞬で見分けがつくほど親しくなっていた。このときはまだ、赤ちゃん言葉で話しても違和感のない年だった。
 この国の王族には多胎児が生まれたことはなく古い慣習から縁起の悪いものだとされており、三つ子で生まれた彼らは王家で秘密とされていた。王家は“第三王子が誕生した”ということを彼らが三つ子であることを伏せた上で公表し、成長と共に優秀な者を正式な第三王子として世に出そうとしたのである。その話を第一王子のクォードから聞いたときはなんとも言えない怒りを覚えたが、一方で何ともないという様な平気な様子を見せる当事者たちに、同情することは彼らにとって失礼なことだと恥じた。
 そうして彼らはどうなったのかというと、なんと皆優劣なく優秀で王も誰を立てるか決めかねたのだという。そして三人の王子は王と交渉し、正式な第三王子の名としては“ゼノ”を立てるが、他の二人も“ゼノ”を装い三人で一人という存在として第三王子となった。だから彼らは、一日ごとに“ゼノ”を演じている。

 リリーはどうしてそんなことをするのかと三人に問うと、ゼウはふわりと、ゼヌはからっと、ゼノはにこりと笑って言った。

『将来王とその近き役職に就く兄たちを影ながらお護りしたいのです』
『第三王子となると、王位継承権はないのも同然だからな。皆表面上兄が王になることに賛成はしても、水面下ではどんな動きがあるかわからない』
『僕たちは三人いるので、一人という形を取りながら様々な場所で情報を得ることができるでしょう?』
『なんなら、同時に行われる多数の派閥の会合へも参加できますしね』

『全くこんな感じなんですよ、私の弟たちは。でも、私も兄上が王に相応しいと思うので、私自身彼らの意見に賛成なのですがね。私が祭り上げられても困るし。それに、王家に黙って悪の組織と繋がる貴族も多いので・・・・・・、一人なのに三人分動ける彼らは重宝すると思います』

『っとに、うちの弟たちは困ったモンだ。まぁ、心強いけどな。それに、確かに心配だが代わりに俺がこいつらを護るだけだからな!』

 幼いながらも自分たちの役目を見据えている彼らと、その荒唐無稽な考えを利益として考える第二王子のジルにも舌を巻いてしまったし、そんな彼らを笑って護ると言う第一王子も人間としてすごい、と思った。


「ということは、第三王子はゼノ様、ゼウ様そしてゼヌ様の三人いらっしゃるということなのですね・・・?」

「うん。このことバラしたら消すから」

「そんときゃ俺に任せろ!」

 ゼウが笑顔で物騒な言葉を放ち、それにゼヌが生き生きと力こぶを見せてくる。アランはただただ乾いた口で笑うしかなく、この秘密は死守しようと心に誓った。実際自分のためにも死守しなければならない。あとリリーのしゃべり方についても。
 第三王子は三つ子であったという話が終わると、本題と言うようにリリーの兄、ギムリィが眉を寄せてリリーのことについて話し始めた。

「それで、リリーのことなんだが・・・・・・
 君もリリーのあの天使かと思うくらい甘くてこれ以上ないほど可愛くて溜まらない声を聞いたと耳にして、正直怒りで手が出そうなんだが・・・・・・、リリーは、リリーはぁっ

 何故か喋ると赤ちゃん言葉になってしまうのだ!!!」

「にいしゃっ!しょんなおおごえでいわなぃれって!!」

「ほら!!!」

 くぅ~可愛いっ!と嘆いているギムリィの言葉に、アランは信じられない中はぁと返事をしかけたのだが、兄の興奮でおかしくなった声量に抗議したリリーの声は、確かに尖った空気だった部屋を一瞬で和ませるほどの威力を持っていた。思わずアランも今自分が置かれている状況を忘れてとろけてしまうほどだ。
 ギムリィが言うとおり、彼の一言があれば争いも一瞬で霧散するだろう。その力を考えると、本当に天使の声なのかもしれない。

 また意図せず口を開き赤ちゃん言葉を炸裂させてしまったことで顔を真っ赤にさせてぴゃぁあ~となっているリリーに、一同がとろけた顔をする。だが同じようにしていたアランは、皆から冷たい顔を向けられ、しょぼんと目を逸らすことにした。

「で、君にはこれから秘密を共有するものとして、彼の秘密が学園でバレないようにすることと、何故彼がこのようにしか話せないのか調べる手伝いをしてもらうことにする」

「言っておくが、君に拒否権はない」

「精一杯努めさせていただきます」

 長年様々な書物をもって調べたり地域の民への聞き取り調査を行ったりしているものの、リリーが普通に話せないこれといった原因はまだ見つかっていない。
 彼のことを憎らしいと思っていたアランはこの日、リリーを護り、リリーを愛でる、いわば“ファーストリリー”会へと籍を入れたのであった。






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