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オレの幼馴染みたちが肉食系すぎてヤバい
しおりを挟む春が夏の準備をしている時期。暖かくもまだ春の香りを運ぶ風を窓から感じながら、高校一年生になったばかりの春咲茂は文字が消されていく黒板をぼんやりと見つめていた。
「お、今日も来てるぞー。お前の可愛い幼馴染みちゃんたち」
皆がせっせと教科書を鞄に詰めるなど帰り支度をしている中、前の席の西川が窓を覗いて茶化してきた。言われてそろりと窓の外を見ると、正門のところに俺たちとは違う制服を着た3人が立っていて、俺の視線を受けてそれぞれが手を振ったりしてくれる。
「っかーー、本当可愛いよなぁ~。しかも3人もとか。羨ましいぜ!」
心底羨ましいという目を向けてくる西川に対して、はははと適当に笑いを返す。
男女の性別以外にも3種類の性別、α、β、Ωが存在するこの世界での俺のバース性はαだが、俺の3人の幼馴染みは皆Ωだ。定期的に発情期が訪れることから、ΩにはΩだけが通う学校が国によって用意されており、3人はそこに通っている。
幼稚園からの幼馴染みである真虎十と、麻生、そして里央は高校に入学してから毎日毎日こうやって正門で俺の授業が終わるのを待っている。未だホームルームが始まらないことに『だから来るの早いっての』と思ってしまうのだが。
「悪い。待たせた」
「ううん、ぜーんぜん待ってないよ。今来たとこ!」
「いやさっき茂に手ぇ振ってただろ・・・・・・それより早く帰ろうぜ!」
「茂・・・・・・、帰ろ」
正門に近づくとまず腕に飛びついてきたのは、長い髪を一つに縛り女子と見紛うほどの可愛さを振りまく冬宮麻生。昔からかなりスキンシップが多く、年を追うごとにそれがエスカレートしていっている気がする。
麻生を俺の腕からベリッと剥がしながら呆れた声で話すのは夏木真虎十。薄いオレンジの短髪に大きなつり目で、中では一番男らしい奴だ。時々そのことを気にしているが、それ自体が可愛いから全然問題ないと思う。恥ずかしいから言えないけど。
そしてボソッと喋るのは秋宮里央。片目を隠すように流された黒髪は艶々としていて、いつ触ってもさらさらで手触りが良い。話すときはいつも小声で、すごく大人しく控えめな性格だ。
こうしてワイワイしているところを見ると普通なのだが・・・・・・
「ねぇ今日親いないから家でセックスしようよ」
「なっ、お前外でンなこと口に出すなっていつも言ってるだろ!!その汚ぇ口を閉じて黙ってろ。あと茂のチンコは俺のだから」
「僕だって茂とセッ・・・・・・したい。茂との赤ちゃんほしぃもん・・・・・・」
毎回こうも周りを気にせずにそういう言葉を発するのは止めて欲しいと思う。まぁ周りに人がいないってわかってて口に出しているんだけど。それでもそういうことは軽々しく言うもんじゃない。
「なぁ、いいかげん茂の童貞俺にちょうだい?」
スポーツ大好きな真虎十は筋肉質な腕を腰に回してきて、上目遣いで『なっ?』と問いかけてくる。上からのアングルは、鼻血が吹き出そうなほど可愛い。つり目で上目遣いって最高!!!
「あっ、ずるーい!じゃあ俺2番目でいいや。ああ早く茂に項噛んでほしーなー」
そう言って麻生は腕に腕を絡ませて頭を擦り付けてくる。頭をぐりぐりしてくるのが猫みたいで可愛いし、ふんわりと良い匂いが漂ってきて思わず抱きしめたくなるが、後が面倒くさいことになりそうだからぐっと我慢する。
その様子を見て目尻をキッと上げた真虎十が腕の力を強めた。
「茂の番になるのは俺!!」
「俺、別に俺以外に番がいてもいいよ~?」
腕にピトッと当てた頭を傾げ、よくわからないアピールをしてくる。
「絶対ヤダ。茂には俺だけがいい」
「僕だって・・・・・・!!」
ここで、今まで大人しかった里央も麻生の掴んでいる腕と反対側の袖をくいっと摘まみ、2人にキツめの目線を送る。
「ん~もぅっ!2人とも我儘だなぁ。俺はどっちと番になっても、それに俺も加えてくれればいいもんっ!何番でも番になれたらいいんだもんっ!!じゃあね、茂」
「じゃあまたな、麻生」
3人に引っ付かれながら朝来の家に着き、玄関の前で分かれる。
「ちゃんと戸締まりしてから寝ろよ。あと、夜に外出んな。危ないから」
「ん~茂だいしゅきっ!気をつける!」
投げキッスをしてくる麻生に真虎十と里央も声をかけ、ちゃんと家に入ったのを見届けてから歩き出す。
むむむ~となった真虎十と里央は、変わらず引っ付いたままだ。
「茂は俺のだもん・・・・・・」
「僕の!!」
「いつも思うんだけど、歩きにくくない?」
「「歩きにくくない!!」」
「だって高校に入ってからいっしょにいられる時間減ったんだもん!」
「もっと、くっつきたい・・・・・・学校も、いっしょのとこがよかった」
「馬鹿か里央。いっしょだったら茂と番になれねぇぞ!ま、茂は俺のだけど」
「僕の!!」
一番口数が多い麻生がいなくなっても会話はなくならない。少し歩くと真虎十の家に着いた。そこで渋々俺の腰から手を離し、ほっぺにキスをして名残惜しそうに家へと玄関へと向かっていった。
「真虎十も、夜とか外出んじゃねーぞ」
「おう!じゃあな、茂、里央。また明日」
「「また明日」」
真虎十を見送ると、今まで控えめに袖を摘まんでいた手が腕に回される。そして先ほど麻生がしていたように頭をすりすりと擦りつけてきた。里央のさらさらの髪が生地と擦れてボサボサになっていく。擦り付けるのを止めると、俺は指で梳いてわしゃわしゃになったところを元に戻す。それを気持ちよさそうにしているのがまるで猫みたいで、猫は猫でも、麻生と里央は全く違うなと思う。
あ~可愛いなぁ~と和みながら頭を撫でながら歩き里央の家の前まで来ると、ふと里央の足が止まった。それに合わせて俺も止まり、どした?と様子を窺うと腕にしがみつく力が強くなる。
「あのね、茂・・・・・・。僕、ほんとに、ほんとに茂との赤ちゃんほしいの」
2人きりになると、一気にはっきりと話すようになる里央。皆といるときは難しくても、こうやってちゃんと思いを伝えられるのは良いことだと思う。内容を除いては。
「うぉっ!」
里央の言葉に沈黙しているといきなり身体を押されて塀に押しつけられ、里央の身体が寄せられる。
「里央・・・・・・?」
顔は見えないがなんだか雰囲気が暗く、先ほどのようにわさわさと無言で頭を撫でる。
「僕、茂と番になりたいっ!僕だけが独り占めしたい。だけど、真虎十も麻生も好き。けど、けど・・・・・・やっぱり僕以外の番はやだ。いらない。
茂っ、好き。好き。僕を選んで」
布越しに伝わってくる心拍数が速くなってきていて少し興奮状態に陥っている。
「りーお。番の話はまだ早いって言ってるだろ?今はお互い将来に向けての勉強を頑張るときだ」
前髪をかき上げて額にちゅっと軽く口づけ、
「落ち着いたか?」
と尋ねると、真っ赤な顔をした里央がブンブンと首を縦に振る。
「ごめんねっ、その、興奮しちゃって・・・・・・」
「大丈夫だ。里央も戸締まりとか外出時とか気をつけろよ?じゃあまた明日」
「うん。また明日・・・・・・」
そう言って赤い顔のまま家に入っていく里央を見届け、もう少し先にある俺の家へと歩き出す。
俺は会った瞬間から3人のことが大好きだ。それぞれに恋をしている。
『他に何人いてもいい』と言っているが、本当は『麻生だけ』が好きな麻生。『一番』が好きな麻生。そんな、普段は明るいフリをして本音を隠しているあいつには、余計に喋りすぎる口を塞いでそっと抱きしめたい衝動に駆られる。
麻生や里央のように華奢でもなく大人しい性格でない自分を『可愛くない』と悩んでいる真虎十。でも俺は心の底から可愛いと思っているし、『可愛い、可愛い』と言うと照れながらもふにゃっと無防備に微笑む姿を見せる真虎十はとても愛おしい。
いつも元気な2人が目立ち、大人しく無口なため地味だと思われる里央。だが控えめながらも袖や裾を摘まんで意思表示する健気さに心が串刺しにされるし、よく見ると表情もすごく豊かで見ていて飽きない。基本控えめだが2人きりになった途端に俺への気持ちを飾らない言葉で伝えてくれることも、溢れる言葉をあっぷあっぷしながら、でも一生懸命に伝えてくれるところも愛らしい。
俺は、3人と番になりたい。まだ発情期が来ていない3人だが、近い将来それが訪れ、未来について考えなければならない時が来るだろう。俺は3人と共に毎日楽しく、笑顔で、皆が幸せと思えるような生活が送られるよう、今必死に未来に向けて頑張っている。
正直3人の積極性に驚くときもあるが、どんな形であれそれぞれが俺のことを考えてくれているのだと思うとそれだけで頑張るエネルギーになるのだ。
俺は明日からも3人の誘惑に耐えながら、彼らへの愛を糧に未来へ向かって歩き続ける。
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