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13.綺麗な声の持ち主
しおりを挟む「ろ、ろーしゅ・・・・・・」
「なんだよ、ルキ」
いつものように天気の良い喉かな午後。暖かい日差しが豊かな葉っぱの隙間から漏れ、地面に木漏れ日を作る。
キラキラと黄緑色が光る草原の中で、僕はいつも通り食後の散歩(お土産探し)をしていた。
ローシュ様と一緒に。
学校を開くという目標を抱いたローシュ様・・・・・・いや、ローシュはそれから勉強の時間が増えたらしいが、僕と過ごす時間は大事に取ってくれている。
そして呼び慣れない呼び捨て・・・・・・。なんとなく、恥ずかしい。
最初の『ろ』は言えるのだが、どうもその後に言い切るのが難しい!今まで『様』付けだったので慣れてたから。
そして僕が照れるのはわかるのだが、僕が呼び捨てでぎこちなく名前を呼ぶと、呼ばれたローシュも頬を染めて僕の名前を呼んでくるのだ。その様子に僕の方も照れてしまい、二人して『あ・・・う・・・・・・』となってしまっている。
周りにいる召使いの人たちの視線も痛いし恥ずかしい。
でも、幸せだな。
こうやって名前を呼び合っていると、僕もこの家の一員になったように感じる。
初めてローシュと会ったときに彼に言われた『家族じゃない』という言葉。あのときは本当にその言葉が胸に刺さった。いきなり家から引き離され、家族のように気心の知れた相手は皆無の場所で知らない人たち・・・しかも厳しくて僕のことを歓迎していない人たちに囲まれて過ごす日々は、精神的にも堪えるものだった。
毎日緊張の日々で、昼は気を張っていても夜にぽつんとベッドの上にいると、寂しさで目が潤んできたのを思い出す。
今ではメイドルさんやスイさんとも仲良くなった気がするし、食堂には気安く話し相手になってくれるミミさんとメメさんがいるし、ローシュと呼び捨てで呼び合ってもいる。なんか、みんなと家族になったみたいだ。
僕はそれが嬉しくて嬉しくて、毎日が楽しい!
そしていつか、セイラ様とも時間を一緒に過ごして、家族みたいに笑い合いたいな・・・・・・と思う。
ローシュと僕とセイラ様の三人で、午後の光り輝く草原で遊びたい。綺麗なものを一緒に見たい。
そんな日々が、待ち遠しいと思った。
ローシュは勉学が忙しくなり、セイラ様の部屋に毎日通うことはできなくなってしまったのだが、時間が取れた時には足繁く訪れているらしい。
行くのが難しい時は、自分が報告したいことや渡したい物を僕に託して自室へ戻っていくので、ローシュの近況は全部ハナさんに伝わっている。
今日は午後からのスケジュールが忙しいらしく、ローシュは庭師にもらった花を一本僕に渡してスイさんと自分の部屋に向かっていった。
*****
「ハナさん、今日もよろしくお願いします」
「まって」
「・・・・・・え」
僕からのお土産とローシュから受け取った花をハナさんに渡し、お辞儀をして部屋に帰ろうと踵を返した瞬間、後ろから透き通るような綺麗な声が聞こえた。
驚いて振り返ると、扉の前にいるハナさんも驚いた様な表情をしている。そこでやっと、その声の持ち主が『セイラ様』なのだとわかった。
「あなた、ルキよね・・・」
「はっはひっ!」
まるで静かに流れる小川のせせらぎのような・・・小さく囀る小鳥のような、可憐で繊細な声にしばし酔いしれていたら、変な返事になってしまった。初っぱなから、恥ずかしい。
セイラ様の婚約者なのに。セイラ様に格好悪い返事をしてしまった・・・・・・。
「・・・・・・どうして?」
しょぼんと項垂れていると、扉の向こうからくぐもった声でそう聞こえた。
いきなりのよくわからない質問に、思わず『え?』と聞き返すと、さらにセイラ様は続ける。
「どうして、この屋敷に来たの・・・・・・?」
「どうしてって・・・、セイラ様と婚約をしたから、です・・・・・・」
途中で自信がなくなってきた。
セイラ様の問いに対して、これが正解なのだろうか。
「なんで、こんな醜い私なんかとの婚約を受けたの?どうしていつも私に花を持ってきてくれるの?どうして私なんかに優しくしてくれるの?お金?メイゼン家のお金がほしいの?」
「違いますっ!」
まるで、最初に会った時のローシュだ。だがセイラ様の方が理性的で、静かな声で尋ねてくる。
「セイラ様はっ、醜くなんかありませんっ!」
「嘘よっ!!」
「嘘じゃありませんっ!僕は、セイラ様のお写真を見て一目惚れをしたんです。なんて、綺麗な人なんだと――
「嘘よっ!!!嘘よ嘘よ嘘よぉ!!こんな私なんか綺麗なわけないじゃないっっ!!」
「綺麗ですっ!あなたがなんと言おうとっ、――
『――僕はセイラ様を綺麗だと思ったんです!!その僕の気持ちを、否定しないでください・・・・・・』
そう言おうとしたが、途中で止めた。
大きな声を出してしまったと後悔していると、向こうにいるセイラ様が黙ってしまった。ハナさんは、見守っているようで扉の前に立ち続けている。
扉を挟んでの沈黙が続き、何か言おうと口を開いたところで、セイラ様が小さな声で呟いた。
「私、ここから外へは出られない・・・・・・」
扉を挟んでいることからくぐもっていて聞き取りにくかったが、僕にはちゃんと聞こえた。
ぽつんと、寂しげな声。
僕が、ここに来てから一人で過ごしていた夜に感じたみたいな、一人だけ取り残されているような感覚だろうか。ぽたん、と零れ落ちるドロップみたいな頼りない声に、僕はなんとか元気づけたいと思った。
「いつか、出られます。きっと・・・・・・。外へ出たいと思うときが来ます。そしたら、ローシュ様も僕も、セイラ様にお見せしたい物がたっくさんあるんですよ?その時は――
「外へなんか出られるわけないじゃないっ!!」
「え、」
「私の気持ちなんかわかんないくせにっ!私がっ、私たちがどれだけ傷ついたか、知らないくせにっ!!そんな軽々しく考えないでよっ!!・・・・・・所詮あなたは綺麗な側の人なのよ」
「セイラ様、セイラ様!?」
すぱんと、大きなハリセンで頭を叩かれたような衝撃を感じた。ハナさんが慌てて扉の中に消えていき、あちら側ではセイラ様を呼ぶ声が聞こえてくる。
失敗した・・・・・・。接し方を間違えた?
というか僕、偉そうだったかも。元気づけたいだなんて、一丁前に調子に乗って。僕が言ったことをきっかけにローシュが夢に向かって動き始めたことで、自分には人を元気づける力があるのだと勘違いをしたんだ。きっと。
セイラ様を傷つけてしまった。僕の言葉が。僕の、容姿のことで嫌な目になんか遭ったことない脳天気な、態度で。
そんな後悔の渦の中で、セイラ様の言葉が反芻される。
『私の気持ちなんかわかんないくせにっ!』『所詮あなたは綺麗な側の人なのよ!』
また、僕だけ独りぼっちという感覚に陥ってしまった。
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