転生したら美醜逆転世界だったので、人生イージーモードです

狼蝶

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12.祝!脱ぼっち飯!!

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「昨日は悪かったな、変なもの見せて」
「いえ・・・あの色、すごくお似合いだと思います。ローシュ様のお顔が見られないのは残念だけど」
「おまっ!そ、ういうことを平然と言うなよな・・・・・・」

 午後の穏やかな風が吹く中、噴水付近の縁に隣り合って座っていたが真っ赤な顔をして顔をぷいとあちら側に向けてしまったローシュ様が、可愛い。
 ここ数日間のうちに、僕は思ったことを素直に口に出して良いということがだんだんわかってきたと思う。最初の方は僕が何か本音を言う度にローシュ様が顔色を変えてその場から走って逃げてしまっていたため、何でも言わないでおこうと思ったのだが、それはローシュ様の照れ隠しなのだとわかってきたのだ。
 それからは、遠慮せずにこうして思ったことをそのまま口に出すようにしている。

 今日は逃げはしなかったが、赤い顔を必死に隠そうとしているローシュ様の様子に離れて見ているスイさんも含み笑いをしているのが見えた。隣に立つメイドルさんも、優しげな眼差しを向けてくる。


「あのさ、姉上・・・・・・、部屋から出てきてくれるかな・・・・・・?」
 ほのぼのとローシュ様の様子を窺っていたら、突然ぽつりと弱々しい声が零れ落ちた。小さくて、自信のなさそうな、窺うような声色。どちらかというと乱暴な口調の多いローシュ様にしたらすごく珍しい声だ。
 セイラ様を思う気持ちと、それに応えてくれない彼女への不安、折れそうな心が近くにいて伝わってくる。
 一体いつまで、自分たちはこうして彼女の部屋に通うのか。見通しが付かないままやり続けるのは心が辛い。それを今まで一人でしていたローシュ様は、すごく苦しかっただろう。

「出てきてくれるよ・・・。きっと、いつか。絶対に!」

『ねっ!?』と態とにこっと笑ってローシュ様の顔を覗く。僕がにひっとさらに笑うと、だんだんと顔に元気が戻っていき、『おぅっ!』と笑顔を向けられた。
 だって僕たちは一人じゃないもんね!?いっしょに頑張ろう!

 よしっ!これからもセイラ様の部屋に通い詰めるぞ!と言う気持ちを新たにしていると、庭園にゴーンと鐘の音が聞こえてきた。夕方の5時を知らせる鐘だが、メンゼル家ではこの鐘が鳴ったら屋敷の中に入ることになっている。所謂門限。はっやいなぁ・・・・・・。
 じゃあ、と言って別れようとするとローシュ様が小さく『あっ・・・』と声を零し、名残惜しそうな顔をしたのを目撃した。サッと顔を変えて僕の挨拶に応えようとしてたが、それより先に僕は彼の両手を自分ので包み込んだ。ぎゅっと握り込むとぎょっとし、ローシュ様の手に力が入るのがわかる。

「なっ、なんだ!?」
「あの、ローシュ様っ!夕食を、僕と一緒にた、食べませんか・・・・・・!?」

 僕だって、もっと一緒にローシュ様と共にいたい。ローシュ様も僕も勉強が忙しく、一緒に過ごせるのは午後の数時間だけだった。そんなちょっとの時間しか、彼との交流時間がないなんて寂しすぎる。
 僕が上目遣いにそう言うと、ローシュ様の口からは『ふぁっ』という可愛い声、そしてその背後からは二人分の『ン゛ン゛ッ!』という苦しそうなうめき声が聞こえてきた。

「し・・・しょうがねぇ・・・・・・一緒に食べてやるよ・・・・・・」

 その言葉に、僕は握った手を上に上げて喜んだ。


 スイさんが大急ぎで調理場へ行って、ローシュ様も食堂で食べる旨を伝えてもらい、そこから大急ぎで用意をしてもらう。
 そしてしばらくの間自分の部屋で待っていると、メイドルさんが食事の支度が出来たことを教えてくれたので、わくわくした気持ちを抑えられないまま食堂へ早足で向かって行った。

 胸がどっきどっきと音を立てる。楽しみ!の緊張だ。
 独りぼっちのご飯じゃない・・・!今日はローシュ様とのご飯だ!!

 ・・・・・・・これでやっと、脱ぼっち飯だ!!

 僕はスキップしたい気持ちを堪えて、廊下を歩く。
 そして食堂の扉が開かれると、そこにはローシュ様が落ち着かない様子で座っていた。『遅い』なんて頬を膨らませながら言われ、僕はちょこちょこと急いで席についた。急いではいたものの、ちゃんとマナーの先生に習ったように行儀良く座る。
 両手を膝の上に置いて背筋を伸ばし、料理が運ばれているのを静かに待つ。わくわくし過ぎて足をぶらぶらしたい衝動に駆られるが、隣に座るローシュ様もそわそわと落ち着きのない様子で、同じなんだと嬉しくなった。

 やっぱり、二人で食べる方が断然おいしい!!
 運ばれてきた料理を二人で静かに口にする。食事中に喋るのはマナー違反だからだ。でも、心は満タンのスープみたいに満たされている気がする。
 今まではだだっ広い食堂で大きなテーブルに一人だけぽつんと座り、僕だけのために運ばれてくる料理を誰とも分かち合うことなく静かに食していたのだ。自分の他にもう一人温かい存在を感じられるこの空間が、口に入れるものの温度を上げてくれているような気がした。
 ミミさんとメメさんの料理はすごく美味しい。でも、そんなことはないのだろうけど、温かい料理でも口に入れるときになんだか冷たいように感じていたのだ。今は、一口一口が心に染みる。

「俺さ、決めたんだ・・・・・・」

 料理を食べ終え、胃腸の調子を整えるために食後に運ばれてきた温かいお茶を飲んでいたとき、ローシュ様が口を開いた。
 食事中は禁止されている会話だが、この食後のティータイムでは解禁されている。やはり子どもなどは食事中であろうと喋りたい生き物なのだ。きっとこの時間は食事中お喋りを我慢できたご褒美のようなものなのだろう。この時間はテーブルに着きながらも口を開くことが許されていた。
 僕はカップを置いて、話し出したローシュ様の言葉に耳を傾ける。

「以前俺がペンダントを池に投げ捨てたとき、お前、池を見て『表面だけじゃない』って、言ったよな」

 突然過去の自分が言ったことについて言及され、自分の話が出てくるとは思っていなかったため内心でビクッと驚いた。一体何を言われるのだろうか。余計な世話だったという説教とか文句かもしれない・・・・・・と目を瞑りたい衝動に駆られながらも『はぃ・・・』と小さく返事をする。ちらりとローシュ様を盗み見ると、予想とは違い彼は清々しく頼もしい表情をしていた。

「そのとき、わかったんだ。お前が言った通り、『表面だけじゃない』ってことが。顔だけが全てじゃないんだ」

 ローシュ様はそこで一端言葉を切り、さらに続けた。

「俺は、顔だけが全てじゃないと姉上が籠もってしまったときから思っていた。それから俺は顔だけじゃないことを証明してやろうと勉強も剣術も何もかもがむしゃらにやってきたし、それだけ力が付いたと思う。でも、やっぱり世間では顔で評価されるんだ。顔が全てなんだ。俺は顔が良い奴らに恨みとか、怒りとかたくさん抱いていた。それまでは『顔だけが全てじゃない』と思い続けて努力を続けていたのに、いつの間にか俺自身が顔にこだわっていたんだ。そのことに、お前が言った言葉で気づくことができた」

 そう言うと、ローシュ様はこちらに身体を向け『ありがとう』と頭を下げてきた。僕は慌てて手を振り顔を上げてもらう。

「お前みたいに、世の中にはこんな顔の奴と話しても普通にしてられる奇特な奴もいる。俺は今まで小さくて狭い世界でしか生きてこなかったから視野が狭かったが、世界に出ればきっとそんな奴は結構いる気がしたんだ。でも、だからといって今のこの国は顔が良い奴が優遇されていて、俺らみたいな奴らは平民の場合、教育すら受けられない者も多い。俺は顔で評価されないそんな世界を作りたい。そのためにも俺は、俺みたいな奴らのための学校を、ちゃんと中身を評価する場所を作るって決めた」

 ん、奇特・・・・・・?と一瞬思ったが、ローシュ様の熱弁に心が熱くなってくる。未来を語るローシュ様の顔は勇ましく目はキラキラと光りに満ちていて、自信に満ちあふれていた。
 すごく、かっこいい。

「・・・・・・うん、ローシュ様なら、できます!」

 感動で、手が震える。目にじんわりと熱いものを感じた。
 僕は食事中なのに思わず大きな声を出してしまい、その後にきた沈黙に急に恥ずかしくなって今度は顔が熱くなってしまった。
 隣にいるローシュ様に吹き出されて笑われ、むむっとしながら彼の顔を見ると射貫くような瞳で見つめられる。

「見てろよ、ルキ」
「はわ・・・・・・」

 あまりにもイケメンな言い方に、変な声が漏れてしまった。
 その後、顔をやや赤くしたローシュ様が僕に『これからは“ローシュ”でいいから』と言うと、直後に逃走した。
 突然のことにポカンとしてしまったが、彼に本当に認められたのだという実感と共にじわじわと嬉しさが湧き上がってくる。嬉しい気持ちと彼の照れる可愛い姿に顔を緩ませニタニタと笑っていたら、メイドルさんに微妙な表情をされてしまったのだった。


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