転生したら美醜逆転世界だったので、人生イージーモードです

狼蝶

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5.結局は認められていない・・・?

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 チュチュ、チュチュチュ・・・

 穏やかな午後、温かく射す日光に照らされのどかな空気の中のんびりと日向ぼっこをする。ふいに確かめるように胸元に手をやったが、そこには不安なときでも心を落ち着かせてくれるペンダントはなく、そっか・・・と気を落とす。再びぼんやりと花に止まる蝶の動きを見つめていると、僕が腰掛けているその右隣にローシュ様が腰を下ろした。

「・・・おい、」

「・・・・・・?」

「ほら」

 やや威圧的な声で呼ばれたが微睡んでいたためとろんとした顔を向けると彼は赤い顔を強張らせ、こちらに向かって手を差し出してきた。何かくれるのだろうかと顔を傾げながらもその手の下に手の平を差し出すと、確かな重みのあるものが落とされる。

「え、これって・・・・・・」

 僕の手の平に乗せられていたのは、あのペンダントだった。
 池に落ちたというのに錆びてもいないし、なんなら以前よりも輝きが増しているような・・・・・・。
 びっくりして顔を上げると、恥ずかしそうに顔を赤くし、だが仏頂面のローシュ様。『取ってきてくれたんですか?』と聞けば、小さく頷く。
 耳まで赤くなっていて、かわいいっ!と思った。僕よりも一つだけ年上だそうだが(ちなみにセイラさんは僕の二つ上)、身長は僕と同じくらいだし、セイラ様と結婚したらローシュ様は僕の弟になるんだよなぁ。そう思うと、弟のロイを思い出してしまってなんだかしんみりしてしまう。

「ん」

「へ?」

 眉を下げた僕に、ローシュ様は再び手を差し出してきた。今度は何も握られていない。どういう意味かわからずその手に困惑していると、待ちくたびれたのか強引に僕の手を掴んできて、『来い』と一言言って走り出した。

 *****

 紅茶を飲み干し、一人で語ってしまったことに今更羞恥を感じいたたまれなくなってきた。何気持ちよく語っちゃってんの!?とローシュ様にも周りの人にも思われてそうで、恥ずかしくて顔を上げられない。
 
「ぼっ、僕、探してきますっ!!ペンダント!!この池の中にあるということは絶対なので!!」

「お、おい!待て!!」

 その場に居続けられない、逃げたいと思った僕は、カップを置いてズボンの裾を折り始めた。腕まくりもし、いざ!と池へ向かおうとするとローシュ様が慌てて腕を掴んで制止してくる。

「やめ、ろ。俺が投げ捨てたんだから、責任は俺がとる」

 『とにかく、池に入って探すのだけはやめろ』と言われ、気がかりだったがそのままにして数日過ごしたのだが、やはり首元にあの安心感がないと不安になるな・・・と思っていたところにローシュ様から手渡されたペンダント。
 彼に引っ張られて連れて行かれたのは、先日僕が彼に思いきり怒鳴られた池の近くだった。

「うわぁ・・・・・・きれい・・・・・・」

 どろどろの藻が蔓延っている状態だった池は、なんと底まで見渡せるほど綺麗に澄み渡っていたのだ。
 際が水色ともエメラルドとも言えない微妙で繊細な色で、ゆらゆらと風に揺られる度に光を反射しながらその深みを知らせてくれる。

「お前って、変な奴だよな」

「え!?」

 水面が揺蕩うのを二人で静かに見つめていると、ローシュ様が唐突にそう口にした。いきなり変だと言われてショックで彼の方に顔を向ける。きっと情けない顔をしていたのだろう、見るに堪えないという様に顔を顰められ『良い意味で、だよ』と励まされる。

「お前は変わってる。普通、どれだけ厳しい教育を受けていても、顔色一つ変えないでしかも俺らみたいな醜い奴の目を見て話をするなんてできないんだ。俺はそういう奴ばっか見てきたからな」

 諦めているような、でも少しだけ寂しいような表情でローシュ様はふぅ、と一つ息を吐く。

「時々俺たちのような者の顔を見て話せる奴もいるにはいるが、そいつらは大抵顔の近くに目線を向けているだけで、真正面から見てはいないんだ。あとは、俺らの背後にある金を見てひたすら顔を合わせるのを我慢しているだけだな。
 俺はそういう奴らだ大嫌いだった。そしてお前もそいつらの一人だと思った・・・・・・うちの金だけを見ている奴だと」

「そんなっ、僕は違いますっ!!」

「わかってるよ」

 ローシュ様の言葉に必死に食いつくと、手で制され今までと違った温かい声でそう言われる。ちゃんと、わかってくれている。僕の気持ちは伝わっているんだと、その一言でじんわりとわかった。なんだか、この場違いな場所にいる自分の存在をちゃんと認めてくれたみたいに感じて胸と頬が熱くなる。手渡されてそのままここに連れてこられたのでまだ手に握っていたペンダントをローシュ様が手に取り、『あっ』と声を零すと間もなく彼の手が僕の首に回された。

「俺はわかったんだ、お前がそんな奴じゃないってこと。これ・・・このペンダント、姉上が元気だったときに俺たち家族で選んだものなんだ。姉上が、『ここに私の写真を入れて、私の婚約者さんにずっと身につけて欲しいな』って、今じゃあり得ないくらいの笑顔で言っててな。
 俺が大事にしなきゃいけないはずなのに・・・・・・むしろ酷い扱いをしてしまった。だがお前は心からこのペンダントを大事にしてくれていた。・・・・・・やっぱり、似合うな」

 ローシュ様が僕から離れると同時に彼の太陽みたいな匂いもふわりと離れていき、僕の首に付けられたペンダントを手に取った彼はふっと優しげに微笑んだ。その瞬間、ぶわっと体温が上がったような気がして一気に顔が熱くなった。

「お前がこのペンダントを付けることは、認めてやる。早とちりしたし、お前を誤解してもいた。すまなかった」

 頭を下げてきたローシュ様に慌てて謝罪を受け取り、早く頭を上げてもらう。ローシュ様が僕なんかに頭を下げたから、それとなく周りで様子を見ていた召使いたちが皆ざわっと顔色を変えたのだ。なんだか僕が謝らせているみたいで悪い気持ちがしてきた。
 長い間頭を下げていたローシュ様はその顔を上げると、これまで見た彼の顔と比べなんだか爽やかな感じになった気がした。まるで掃除をされて透き通った池みたいに、さっぱりとした表情で彼は僕を見て笑ったのだ。

「お前のおかげで、澄んだ池の美しさを知ることができた。確かに俺は表面にこだわりすぎていたんだな・・・・・・。
 お前の考えを聞いて、この綺麗な池を見て、吹っ切れたんだ。それに、自分のやるべきこともわかった。ありがとう」

 美しい波紋を広げる水面の下には、この季節の水中花が美しく咲き誇っていた。それを見つめながら、でもどこか未来を見ているようなキラキラした瞳でそう語ると、ローシュ様は気恥ずかしそうに頬を人差し指で数回掻いた。
 心からのありがとうに、僕はとっても嬉しくなって素直に『はいっ!』と返事をする。

 なんだか今日は、ローシュ様と心が近くなった気がした日なのであった。









 ********

 「(・・・ッハ!そう言えばローシュ様に、僕がセイラ様の婚約者だと認めるとは言われてなくない!?)」

 と後で気づいた僕。

 ペンダントを付けることを認められ、自分の存在を認められたようで浮かれていた僕だったが、根本の問題はまだ解決していないことに肩を落とす。
 でも・・・・・・ローシュ様と少しでも仲が良くなれたことがすごく嬉しかった。

「(ローシュ様の笑顔は、不思議だ。このペンダントと同じで、笑いかけられると胸が温かくなるから)」

 じんわりとした胸の心地よさを、首元に戻ってきた宝物の心地よい重みと共に味わった午後なのであった。



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