2 / 14
2.結局ぼっち飯なんかい!!
しおりを挟む「今日からルキ様にはマナーを含めたお勉強をしていただきます。侯爵様方の御前にお馬鹿な子どもをお出しする訳にはいきませんので」
「ほぇえあ・・・・・・」
目の前のシュパーキッツさんに冷たく見下ろされながらそう言われ、思わずアホな声が出た。侯爵家に居候(?)して二日目、どうやら僕はマナーに勉強と色々シバかれそうです。
*****
朝起きたらベットの側に座っているメイドルさんにひゅっと喉が強ばる。目をこしこし擦りながらメイドルさんについて食堂まで行くと、テーブルには一人分のセットが置かれていた。歩いているときにも思ったが、全体的にこの屋敷の人気が少ない。
なんと僕が昨日入ったお屋敷は離れの一つで、本邸はもう一段階奥にあるのらしい。昨日は部屋の掃除や僕が来る準備などで大勢のメイドさんたちがいたのだが、今日は水を打ったように静かなのだ。今この屋敷にいるのは僕とメイドルさん、テリテルさん、そして他のメイドさんが三人くらいだそうだ。どうして僕だけが別邸で過ごしているのかというと、侯爵家のみんなに会う前にここで勉強とマナーを学ばなければならないかららしい。
毎日代わる代わる家庭教師がやって来て、学校で習うような勉強や楽器、食事マナーを教えてもらう。その家庭教師たちは全員揃って美形だった。『何これ!?嫌がらせ!!?』と思うほどに美形揃い。まぁ、この世界の人たちにしたらこの状況は嫌がらせなのかもしれないけれど。部屋にいるだけで先生の周りが光り輝いていて、マジでキツい。こんな風に美形に囲まれて生活していると、自分だけが醜い存在だと思えてきて精神的にもやられるものだ・・・・・・。
そして勉強の日々が始まり、今まで自分がどれだけ怠惰な生活をしていたのかが痛いほどわかった気がした。顔が良い、それだけで勉強もマナーも免除されていたのだ。毎日だら~と、それこそ脳みその蕩けるような生活を続け、好きなことしかしないお馬鹿な大着野郎だったという訳だ。
だが僕は前世の記憶持ち。この世界での子どものする勉強は前世のものとそう変わりはなく、基本的な読み書き・計算・暗記モノなどはすでにできていたので、家庭教師の皆さんは少しだけ驚いた顔をした。その顔を見てふふっと得意げに笑うと、皆決まって『う゛う゛っ』と苦しそうなうめき声を上げて下を向くので、そんなに変な顔だったか気になってしまう。
しかし、唯一食事マナーだけは注意されっぱなしだった。椅子への座り方、料理が運ばれるのを待つ姿、目の前に運ばれてから何秒待つか、何をするか、どう食べるか、などなど・・・・・・。家では好きなものしか食卓に出されず、すでにたくさんの皿が並べらえていて好きなものを好きなだけ口に入れて良いという感じだったため、ここでも口いっぱいに頬張っているとすぐにダメ出しされた。僕の食事マナーがクソ過ぎたのだ・・・・・・。
そしてやっぱりみんなの僕に対する態度が冷たい・・・。時々勉強の進み具合を見に来るシュパーキッツさんは、僕を見る度どこか見下したような、胡散臭い者を見るような目で見てくるし、挨拶も心がこもっていないのが丸わかり。メイドルさんとテリテルさんは比較的普通に接してくれるのだが、メイドルさんはいつも無表情で何を考えているのか全然わからないし、テリテルさんは優しいものの、一枚壁を隔てているのが感じられる。
僕はこんな四面楚歌状態(大袈裟かな・・・?)で毎日家庭教師たちにビシバシと教えられる日々・・・・・・。これは結構キツくないですか?
*****
そうして努力の日々が過ぎ、僕はとうとう本邸に移り住むことが決まった。そのことをメイドルさんから聞いた時と言ったらもう・・・嬉しさに顔がくにゃりとなりましたよ!!苛酷な日々に頬は痩け、へにゃへにゃになった・・・訳でもなく、食事がおいしいため非常に健康体な僕は『じゃあマナーとかは合格ってことですかっ!?』と聞くと、無言でコクリと頷かれそれに飛び上がって喜ぶ。その日は次の日が待ち遠しくて、なかなか寝られなかった。
朝、メイドルさんに起こされ目を擦りながら着替えを手伝ってもらう。一人悲しい食事を取り、本邸へと向かうために用意された馬車に乗り込んだ。数ヶ月前やって来た道をさらに進み、深い森へと入っていく。本当にこの先に屋敷があるのかと不安になっていると、木々に終わりが見え開けた場所に出た。目の前が黄緑色で一杯になる。吹く風に一斉に草が折れ、ザァアッという心地よい音が聞こえてきそうなほど見事な草原だ。所々に黄色の小さな花が咲いており、向こうの方に小さな家が見える。
近づいていくとその屋敷は離れよりも一層大きく、造りはどこか可愛らしくて、まるでお話に出てくるようなお屋敷だった。
扉の前で待っていた執事長が扉を開け、メイドルさんに促されて中へ入ると、今度こそズラリと並ぶ召使いさんたちが一斉に僕に向かって頭を下げてくる。僕はビックリして一瞬足を止めたが、前を歩く執事長さんに振り向かれ慌てて後を着いていった。
執事長は日の当たらなそうな奥まった部屋の前で足を止め、ゆっくり三回ノックをすると遅れて深みのある声が返ってくる。それに応え扉を開き中へと入ると、そこには壮年の男性が椅子に腰掛けてこちらを見ていた。
「やぁルキくん、こんにちは」
「こ、こんにちは・・・・・・」
「そう緊張しなくてもいいよ。ほら、肩の力を抜いて」
『は、はひっ!』とテンパって変な声を出してしまった。それを聞いた侯爵家当主、カルテン=メイゼン様は目を見開いたかと思えば口を大きく開けて大声で笑い出した。
「いやー、ゴメンね?」
そう言って目に溜まった涙を指ですくい取り、あーおもしろと言いながら頬を揉んで真面目な顔に戻そうとする。
まだ僕がこの屋敷に来る前、セイラ様との婚約が決まった直後に家の中の召使いたちが話していた当主様の噂。悪徳商法に手を出しているだの、闇取引に手を染めているだの、悪人に金銭的援助をしているだの、それはどれも当主様を悪く言うもので聞いていて気持ちの良くなるものではなかった。
だが実際目の前にした当主様は正直者という感じがして、偽りがあるようには見えず接してみても嫌な気持ちはしなかった。
「それにしてもルキくん。ずいぶん頑張ったんだねぇ・・・・・・。僕を見ても平然としていられるなんて、驚きだよ。他の貴族たちも少しは見習って欲しいものだ・・・って、ごめんね愚痴ってしまって」
「そんなことっ!僕は無理してる訳じゃないですっ!」
「ハハッ、やっぱり君は凄いな。メイドルから聞いていた通りだ。君になら、セイラを任せられる気がするよ」
当主様は関心してくれたが、僕は本心から彼を醜いと思っていないし、むしろダンディーなイケオジだなぁと思っているので全くの誤解である。なのに僕が場をわきまえていると勘違いしている彼は弁解しようとする僕をウンウンと優しい目で見て勝手に納得しちゃっている。
そして語り出した『セイラ』という言葉にわかりやすく僕は反応する。写真を見ただけで恋に落ちた相手。どこか前世の僕の姉を思い出させる様な優しげな雰囲気を持つ美幼女だ。
姉はいつも優しく、地味で大人しいため嫌なことを押しつけられる僕をいつも守ってくれていた。凹んだ時は甘えさせてくれたし抱きしめて慰めてくれもした。だから前世の僕の初恋の相手は、当然姉だった。だが当然姉弟では結ばれることはなく、いつまで経っても諦められない自分の異常な気持ちに他に好きな人を作ろうと躍起になっていた。
そして青年期、僕たちは実は血の繋がった姉弟ではなかったことが発覚しさらに姉から『大事な話がある・・・』と呼び出され、ドラマさながら結ばれるのかと期待した直後、まさかの僕の親友と付き合っていたことを報告された。
そんな辛い思い出だが、結局僕は姉が幸せならそれで良いと吹っ切れた。
そして今世、顔は全く似ていないが雰囲気がどことなく姉と似ているセイラ様に、僕は一瞬で一目惚れしたのだ。だが当主様の話によるとセイラ様は今、“ひきこもり状態”だという。自室から出ることはあまりなく、屋敷からはほぼ全く出ない。家庭教師は出入りしているが、その他は部屋で勉強をしており、食事も部屋で取るらしい。
「セイラはね・・・君も写真で見ただろう?優しい娘なんだがどうにも顔がね・・・・・・」
眉を下げそう言う当主様は、心底悲しそうな顔をしてセイラ様のことを話し出したのだ。奥さんを早くに亡くしたものの、昔はみんな仲良く支え合って生きていたらしい。だがセイラ様が街に行ったとき容姿のことで酷く言われ、それから部屋から出てこなくなってしまったのだという。それから姉を庇わない父に怒ったセイラ様の弟であるローシュ様は反抗的になってしまい、昔はみんなで食べていた食事も今では各自バラバラに取っているそうだ。だから、婚約者としてセイラを頼むと当主様に頭を下げられる。僕はいきなりのことに焦り慌てながら、しかし責任を持って『はい』と応えた。途端に安心したような表情になった当主様に、僕も笑顔を返す。
ということで、本邸に来ても結局一人飯は変わらない・・・・・・。
11
お気に入りに追加
218
あなたにおすすめの小説

私は女神じゃありません!!〜この世界の美的感覚はおかしい〜
朝比奈
恋愛
年齢=彼氏いない歴な平凡かつ地味顔な私はある日突然美的感覚がおかしい異世界にトリップしてしまったようでして・・・。
(この世界で私はめっちゃ美人ってどゆこと??)
これは主人公が美的感覚が違う世界で醜い男(私にとってイケメン)に恋に落ちる物語。
所々、意味が違うのに使っちゃってる言葉とかあれば教えて下さると幸いです。
暇つぶしにでも呼んでくれると嬉しいです。
※休載中
(4月5日前後から投稿再開予定です)

私が美女??美醜逆転世界に転移した私
鍋
恋愛
私の名前は如月美夕。
27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。
私は都内で独り暮らし。
風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。
転移した世界は美醜逆転??
こんな地味な丸顔が絶世の美女。
私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。
このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。
※ゆるゆるな設定です
※ご都合主義
※感想欄はほとんど公開してます。
異世界の美醜と私の認識について
佐藤 ちな
恋愛
ある日気づくと、美玲は異世界に落ちた。
そこまでならラノベなら良くある話だが、更にその世界は女性が少ない上に、美醜感覚が美玲とは激しく異なるという不思議な世界だった。
そんな世界で稀人として特別扱いされる醜女(この世界では超美人)の美玲と、咎人として忌み嫌われる醜男(美玲がいた世界では超美青年)のルークが出会う。
不遇の扱いを受けるルークを、幸せにしてあげたい!そして出来ることなら、私も幸せに!
美醜逆転・一妻多夫の異世界で、美玲の迷走が始まる。
* 話の展開に伴い、あらすじを変更させて頂きました。

異世界転生〜色いろあって世界最強!?〜
野の木
恋愛
気付いたら、見知らぬ場所に。
生まれ変わった?ここって異世界!?
しかも家族全員美男美女…なのになんで私だけ黒髪黒眼平凡顔の前世の姿のままなの!?
えっ、絶世の美女?黒は美人の証?
いやいや、この世界の人って目悪いの?
前世の記憶を持ったまま異世界転生した主人公。
しかもそこは、色により全てが決まる世界だった!?

美醜逆転世界でお姫様は超絶美形な従者に目を付ける
朝比奈
恋愛
ある世界に『ティーラン』と言う、まだ、歴史の浅い小さな王国がありました。『ティーラン王国』には、王子様とお姫様がいました。
お姫様の名前はアリス・ラメ・ティーラン
絶世の美女を母に持つ、母親にの美しいお姫様でした。彼女は小国の姫でありながら多くの国の王子様や貴族様から求婚を受けていました。けれども、彼女は20歳になった今、婚約者もいない。浮いた話一つ無い、お姫様でした。
「ねぇ、ルイ。 私と駆け落ちしましょう?」
「えっ!? ええぇぇえええ!!!」
この話はそんなお姫様と従者である─ ルイ・ブリースの恋のお話。

男女比1対99の世界で引き篭もります!
夢探しの旅人
恋愛
家族いない親戚いないというじゃあどうして俺がここに?となるがまぁいいかと思考放棄する主人公!
前世の夢だった引き篭もりが叶うことを知って大歓喜!!
偶に寂しさを和ますために配信をしたり深夜徘徊したり(変装)と主人公が楽しむ物語です!
もしかしてこの世界美醜逆転?………はっ、勝った!妹よ、そのブサメン第2王子は喜んで差し上げますわ!
結ノ葉
ファンタジー
目が冷めたらめ~っちゃくちゃ美少女!って言うわけではないけど色々ケアしまくってそこそこの美少女になった昨日と同じ顔の私が!(それどころか若返ってる分ほっぺ何て、ぷにっぷにだよぷにっぷに…)
でもちょっと小さい?ってことは…私の唯一自慢のわがままぼでぃーがない!
何てこと‼まぁ…成長を願いましょう…きっときっと大丈夫よ…………
……で何コレ……もしや転生?よっしゃこれテンプレで何回も見た、人生勝ち組!って思ってたら…何で周りの人たち布被ってんの!?宗教?宗教なの?え…親もお兄ちゃまも?この家で布被ってないのが私と妹だけ?
え?イケメンは?新聞見ても外に出てもブサメンばっか……イヤ無理無理無理外出たく無い…
え?何で俺イケメンだろみたいな顔して外歩いてんの?絶対にケア何もしてない…まじで無理清潔感皆無じゃん…清潔感…com…back…
ってん?あれは………うちのバカ(妹)と第2王子?
無理…清潔感皆無×清潔感皆無…うぇ…せめて布してよ、布!
って、こっち来ないでよ!マジで来ないで!恥ずかしいとかじゃないから!やだ!匂い移るじゃない!
イヤー!!!!!助けてお兄ー様!

二度目の勇者の美醜逆転世界ハーレムルート
猫丸
恋愛
全人類の悲願である魔王討伐を果たした地球の勇者。
彼を待っていたのは富でも名誉でもなく、ただ使い捨てられたという現実と別の次元への強制転移だった。
地球でもなく、勇者として召喚された世界でもない世界。
そこは美醜の価値観が逆転した歪な世界だった。
そうして少年と少女は出会い―――物語は始まる。
他のサイトでも投稿しているものに手を加えたものになります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる