転生したら美醜逆転世界だったので、人生イージーモードです

狼蝶

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2.結局ぼっち飯なんかい!!

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「今日からルキ様にはマナーを含めたお勉強をしていただきます。侯爵様方の御前にお馬鹿な子どもをお出しする訳にはいきませんので」

「ほぇえあ・・・・・・」

 目の前のシュパーキッツさんに冷たく見下ろされながらそう言われ、思わずアホな声が出た。侯爵家に居候(?)して二日目、どうやら僕はマナーに勉強と色々シバかれそうです。

 *****

 朝起きたらベットの側に座っているメイドルさんにひゅっと喉が強ばる。目をこしこし擦りながらメイドルさんについて食堂まで行くと、テーブルには一人分のセットが置かれていた。歩いているときにも思ったが、全体的にこの屋敷の人気が少ない。

 なんと僕が昨日入ったお屋敷は離れの一つで、本邸はもう一段階奥にあるのらしい。昨日は部屋の掃除や僕が来る準備などで大勢のメイドさんたちがいたのだが、今日は水を打ったように静かなのだ。今この屋敷にいるのは僕とメイドルさん、テリテルさん、そして他のメイドさんが三人くらいだそうだ。どうして僕だけが別邸で過ごしているのかというと、侯爵家のみんなに会う前にここで勉強とマナーを学ばなければならないかららしい。
 毎日代わる代わる家庭教師がやって来て、学校で習うような勉強や楽器、食事マナーを教えてもらう。その家庭教師たちは全員揃って美形だった。『何これ!?嫌がらせ!!?』と思うほどに美形揃い。まぁ、この世界の人たちにしたらこの状況は嫌がらせなのかもしれないけれど。部屋にいるだけで先生の周りが光り輝いていて、マジでキツい。こんな風に美形に囲まれて生活していると、自分だけが醜い存在だと思えてきて精神的にもやられるものだ・・・・・・。
 そして勉強の日々が始まり、今まで自分がどれだけ怠惰な生活をしていたのかが痛いほどわかった気がした。顔が良い、それだけで勉強もマナーも免除されていたのだ。毎日だら~と、それこそ脳みその蕩けるような生活を続け、好きなことしかしないお馬鹿な大着野郎だったという訳だ。
 だが僕は前世の記憶持ち。この世界での子どものする勉強は前世のものとそう変わりはなく、基本的な読み書き・計算・暗記モノなどはすでにできていたので、家庭教師の皆さんは少しだけ驚いた顔をした。その顔を見てふふっと得意げに笑うと、皆決まって『う゛う゛っ』と苦しそうなうめき声を上げて下を向くので、そんなに変な顔だったか気になってしまう。

 しかし、唯一食事マナーだけは注意されっぱなしだった。椅子への座り方、料理が運ばれるのを待つ姿、目の前に運ばれてから何秒待つか、何をするか、どう食べるか、などなど・・・・・・。家では好きなものしか食卓に出されず、すでにたくさんの皿が並べらえていて好きなものを好きなだけ口に入れて良いという感じだったため、ここでも口いっぱいに頬張っているとすぐにダメ出しされた。僕の食事マナーがクソ過ぎたのだ・・・・・・。

 そしてやっぱりみんなの僕に対する態度が冷たい・・・。時々勉強の進み具合を見に来るシュパーキッツさんは、僕を見る度どこか見下したような、胡散臭い者を見るような目で見てくるし、挨拶も心がこもっていないのが丸わかり。メイドルさんとテリテルさんは比較的普通に接してくれるのだが、メイドルさんはいつも無表情で何を考えているのか全然わからないし、テリテルさんは優しいものの、一枚壁を隔てているのが感じられる。
 僕はこんな四面楚歌状態(大袈裟かな・・・?)で毎日家庭教師たちにビシバシと教えられる日々・・・・・・。これは結構キツくないですか?


 *****

 そうして努力の日々が過ぎ、僕はとうとう本邸に移り住むことが決まった。そのことをメイドルさんから聞いた時と言ったらもう・・・嬉しさに顔がくにゃりとなりましたよ!!苛酷な日々に頬は痩け、へにゃへにゃになった・・・訳でもなく、食事がおいしいため非常に健康体な僕は『じゃあマナーとかは合格ってことですかっ!?』と聞くと、無言でコクリと頷かれそれに飛び上がって喜ぶ。その日は次の日が待ち遠しくて、なかなか寝られなかった。

 朝、メイドルさんに起こされ目を擦りながら着替えを手伝ってもらう。一人悲しい食事を取り、本邸へと向かうために用意された馬車に乗り込んだ。数ヶ月前やって来た道をさらに進み、深い森へと入っていく。本当にこの先に屋敷があるのかと不安になっていると、木々に終わりが見え開けた場所に出た。目の前が黄緑色で一杯になる。吹く風に一斉に草が折れ、ザァアッという心地よい音が聞こえてきそうなほど見事な草原だ。所々に黄色の小さな花が咲いており、向こうの方に小さな家が見える。
 近づいていくとその屋敷は離れよりも一層大きく、造りはどこか可愛らしくて、まるでお話に出てくるようなお屋敷だった。

 扉の前で待っていた執事長が扉を開け、メイドルさんに促されて中へ入ると、今度こそズラリと並ぶ召使いさんたちが一斉に僕に向かって頭を下げてくる。僕はビックリして一瞬足を止めたが、前を歩く執事長さんに振り向かれ慌てて後を着いていった。
 執事長は日の当たらなそうな奥まった部屋の前で足を止め、ゆっくり三回ノックをすると遅れて深みのある声が返ってくる。それに応え扉を開き中へと入ると、そこには壮年の男性が椅子に腰掛けてこちらを見ていた。

「やぁルキくん、こんにちは」

「こ、こんにちは・・・・・・」

「そう緊張しなくてもいいよ。ほら、肩の力を抜いて」

『は、はひっ!』とテンパって変な声を出してしまった。それを聞いた侯爵家当主、カルテン=メイゼン様は目を見開いたかと思えば口を大きく開けて大声で笑い出した。

「いやー、ゴメンね?」

 そう言って目に溜まった涙を指ですくい取り、あーおもしろと言いながら頬を揉んで真面目な顔に戻そうとする。
 まだ僕がこの屋敷に来る前、セイラ様との婚約が決まった直後に家の中の召使いたちが話していた当主様の噂。悪徳商法に手を出しているだの、闇取引に手を染めているだの、悪人に金銭的援助をしているだの、それはどれも当主様を悪く言うもので聞いていて気持ちの良くなるものではなかった。
だが実際目の前にした当主様は正直者という感じがして、偽りがあるようには見えず接してみても嫌な気持ちはしなかった。

「それにしてもルキくん。ずいぶん頑張ったんだねぇ・・・・・・。僕を見ても平然としていられるなんて、驚きだよ。他の貴族たちも少しは見習って欲しいものだ・・・って、ごめんね愚痴ってしまって」

「そんなことっ!僕は無理してる訳じゃないですっ!」

「ハハッ、やっぱり君は凄いな。メイドルから聞いていた通りだ。君になら、セイラを任せられる気がするよ」

 当主様は関心してくれたが、僕は本心から彼を醜いと思っていないし、むしろダンディーなイケオジだなぁと思っているので全くの誤解である。なのに僕が場をわきまえていると勘違いしている彼は弁解しようとする僕をウンウンと優しい目で見て勝手に納得しちゃっている。
 そして語り出した『セイラ』という言葉にわかりやすく僕は反応する。写真を見ただけで恋に落ちた相手。どこか前世の僕の姉を思い出させる様な優しげな雰囲気を持つ美幼女だ。
 姉はいつも優しく、地味で大人しいため嫌なことを押しつけられる僕をいつも守ってくれていた。凹んだ時は甘えさせてくれたし抱きしめて慰めてくれもした。だから前世の僕の初恋の相手は、当然姉だった。だが当然姉弟では結ばれることはなく、いつまで経っても諦められない自分の異常な気持ちに他に好きな人を作ろうと躍起になっていた。
 そして青年期、僕たちは実は血の繋がった姉弟ではなかったことが発覚しさらに姉から『大事な話がある・・・』と呼び出され、ドラマさながら結ばれるのかと期待した直後、まさかの僕の親友と付き合っていたことを報告された。
 そんな辛い思い出だが、結局僕は姉が幸せならそれで良いと吹っ切れた。

 そして今世、顔は全く似ていないが雰囲気がどことなく姉と似ているセイラ様に、僕は一瞬で一目惚れしたのだ。だが当主様の話によるとセイラ様は今、“ひきこもり状態”だという。自室から出ることはあまりなく、屋敷からはほぼ全く出ない。家庭教師は出入りしているが、その他は部屋で勉強をしており、食事も部屋で取るらしい。

「セイラはね・・・君も写真で見ただろう?優しい娘なんだがどうにも顔がね・・・・・・」

 眉を下げそう言う当主様は、心底悲しそうな顔をしてセイラ様のことを話し出したのだ。奥さんを早くに亡くしたものの、昔はみんな仲良く支え合って生きていたらしい。だがセイラ様が街に行ったとき容姿のことで酷く言われ、それから部屋から出てこなくなってしまったのだという。それから姉を庇わない父に怒ったセイラ様の弟であるローシュ様は反抗的になってしまい、昔はみんなで食べていた食事も今では各自バラバラに取っているそうだ。だから、婚約者としてセイラを頼むと当主様に頭を下げられる。僕はいきなりのことに焦り慌てながら、しかし責任を持って『はい』と応えた。途端に安心したような表情になった当主様に、僕も笑顔を返す。


 ということで、本邸に来ても結局一人飯は変わらない・・・・・・。






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