54 / 57
54
しおりを挟む***
「で?なんで『研治』とか嘘吐いたの?」
「そ、それは・・・・・・」
家に帰り一先ずテーブルに着いた。そして『よかった』と穏やかになりかけた空気を壊すようにテーブルを叩き、鈴音は二人に切り出した。
「俺が研にそうしてくれって頼んだんだ」
はい、と言って手を上げた裕が、言いにくそうに話し出す。どうやら、面食いの自分が研の素顔を見たら秒で惚れるから、それを阻止しようと他人のふりをしろと言ったらしい。
『裕兄ちゃん、策士だ・・・・・・』
実に巧妙に言い当てられている。今まで散々コケ脅してきたが、研が実はイケメンだったと知ったらきっと今までの態度を180度変えるだろう。
「研治さんのこと好きって言ってたのに、ずっと黙ってるなんて、裕兄ちゃんひどいっ!」
「ごめん・・・・・・」
「で?二人は、恋人同士なわけ?」
「「え!?どうして・・・・・・?」」
二人が声を揃えて驚愕を示す。鈴音は呆れの溜息を零すと半目状態で二人を見た。
「どうしてもなにも、見てればわかるよ。あーあ、気のせいかと思ってたけどやっぱそうなんだね。やっぱね。だって研、『研治』のときとか裕兄ちゃんのことずっっと見てたし、もろバレだし!!」
「そんなことっ」
照れるビン底眼鏡を叩きたい衝動に駆られる。それに一緒に照れる裕にも鈴音は頬を膨らませた。こんのリア充!!
「でもなんで研は僕とのやり取りを裕兄ちゃんに黙ってたのさ!」
「そっれは」
「本当だよね。何か裏切られた気分だった」
今度は裕も鈴音サイドで、二人で縮こまる研を見下ろす。二人の威圧感に、研は渋々といった風に理由を語り出した。
「ハアッ!?顔が醜いからぁ!!?」
研がしゅんとしながら語り出した理由は、目の良くない素顔のまま外に出ることで裕に余計な心配をかけたくなかったというものだった。どうしてそんな思考回路になっているのか、さっぱりわからない。検討もつかない。
「ねぇ裕兄、これ、本気で言ってるの?」
「ああ、そうなんだ・・・・・・」
小声で裕に聞いてみると、疲れた顔で小さく頷く。
『なにそれ、しんっじらんない!!!』
恐ろしいほどに顔が整っているというのに、本人は本気で自分が醜いと思い込んでいるらしい。
いくら視力が悪く自分の顔が見えないからといって、眼鏡をすれば見えるやんか!と思ったが、いつもビン底眼鏡をかけている研は、周りの様子は見えても自分の顔は今一わからないときた。思わず『なんてこったい!』と叫びそうになってしまう。
本当に、恐ろしいくらいの自己肯定感の低さといえる。だが研を独り占めしたい裕にしたら、好都合なのらしいが。
まぁ、それは頷けなくもない。と鈴音は思った。自分だけが知っているというのは、確かな優越感を得られる。
「兄さん、隠しててごめんなさい。鈴音も、ずっと欺しててごめん」
眉を垂れさせた研が、正座の姿勢から頭を深く下げた。
今の研は眼鏡も前髪もなく、いわば『研治』となっている。極上のイケメンが子犬のような目をして謝ってくるのに、裕と二人してドキュン!!とダメージを受けた。
「・・・いいよ。、まぁでも、僕が『研』を好きってことは、変わらないからねっ!」
「「鈴/鈴音っ!!?」」
ペロッと舌を出した僕に、裕の悲鳴と研の叫びが重なる。
「そう言われても、俺、兄さんのことが好きだから・・・・・・」
「知ってるし」
知っている。そんなことは知っている。二人の間に隙間なんかないことは百も承知だ。だが、諦める気は到底なかった。
正直今まで研には粗雑な態度を取ってきた。ダサい、どうでもよい存在だと思っていたのだ。
だが、180度変えられる。
イケメンを前にした鈴音には、もはやプライドなどなかった。これからいくらでも猫をかぶれる。むしろ、今まで乱雑にものを言い合っていた仲であることが、関係の発展へと繋がる予感がしてきた。
青い顔をしている兄弟を前に、鈴音はふふんと自信満々にこう述べた。
「でも好きだもん!!」
0
お気に入りに追加
69
あなたにおすすめの小説
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である



ある少年の体調不良について
雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。
BLもしくはブロマンス小説。
体調不良描写があります。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

なんか金髪超絶美形の御曹司を抱くことになったんだが
なずとず
BL
タイトル通りの軽いノリの話です
酔った勢いで知らないハーフと将来を約束してしまった勇気君視点のお話になります
攻
井之上 勇気
まだまだ若手のサラリーマン
元ヤンの過去を隠しているが、酒が入ると本性が出てしまうらしい
でも翌朝には完全に記憶がない
受
牧野・ハロルド・エリス
天才・イケメン・天然ボケなカタコトハーフの御曹司
金髪ロング、勇気より背が高い
勇気にベタ惚れの仔犬ちゃん
ユウキにオヨメサンにしてもらいたい
同作者作品の「一夜の関係」の登場人物も絡んできます

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!

見ぃつけた。
茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは…
他サイトにも公開しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる