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「さ、帰ろ」
「うん」
 裕の腕を借りて、力のない足で歩く。裕が未だ荒い呼吸をしていることから、必死になって探してくれていたことがわかり、心が痛くなった。
「心配かけて、ごめんなさい」
「うん。でも、無事でよかった」

「ねぇ君たち、かっわいいねー。ね、これあげるからどう?」
「っ!!」
 隣にいる裕に安心しきっていると、前からきた男性に道を塞がれ突然そう言われた。いきなりのことで、裕も鈴音も固まっている。
「うわっ、よく見るとほんと綺麗な顔!どっちもかわいいな。ほら、あっち行こうよ」
 完全に酔っ払っており、千鳥足になりかけている。
「ちょっとすいません。どいてください」
「君かっこいいね。いいねぇ、そそるよ」
「ちょっ、離してください!」
 鈴音を庇うように前に出た裕が、男に腕を掴まれ不快そうに声を出す。振り切ろうとしても意外に力が強いらしく、また相手もその様子を楽しんでいるようににやにやと笑ってみていた。
「兄ちゃんを、離せっ!」
「はははっ、こっちの子はほんんとに可愛い」
 裕から引き離そうと男の腕を掴んで力を入れたが、逆に反対の手で手首を掴まれた。
「離してっ、離せっ!!」
「いいじゃん。どうせそれ目的でここら辺歩いてたんでしょ?ほら、お金あげるからさ」
 すごい力で狭い道へと引っ張られそうになり、もう駄目だ――と目を瞑って『助けて!』と叫ぼうとしたとき、二人を掴んでいる男の腕を大きな手が掴んでいた。
「離せ」
 男よりも頭一つ大きな研が、伸びきった前髪で顔のわからないまま男の腕を掴んでいた。彼から発せられる声は、聞いたことのないほど低くてこわい。
「なっ、なんだお前はっ、そっちこそ離せ!グッ!?」
 男は狼狽えて研に向かって大声を出したが、その直後に顔を顰めてくぐもったうめき声をあげた。
「離せって言ってんだろ・・・・・・折るぞ?」
 掴んでいる腕からギシギシと骨の軋む音が聞こえてくる。前髪で見えない表情が、さらに恐ろしさを醸し出していた。
「ひっ、ヒィ!!離します離します!!!すいません!!」
 痛みに耐えきれなかった男が、悲鳴を上げて鈴音と裕から手を離し、そしてそのまま謝りながら逃げていった。
 暗がりの中で自分よりも大きな相手に凄まれたら、それは恐怖だろう。研はすごい殺気を纏っていて、鈴音はまだ体が竦んでいた。
「兄さん、鈴音、大丈夫?平気?」
 だが、纏っていた怖い雰囲気は一瞬で霧散しいつものダサい研に戻った。猫背で上半身を屈めてこちらの様子を窺ってくる。両手があわあわと挙げられており、あたふたする姿は先ほどの人物とは別人のようだ。
 しきりに大丈夫か聞いてくるので、鈴音は黙って小さく頷く。すると『はぁ~~』と大きな溜息を吐き、わかりやすく項垂れた。
「よかった~~二人とも無事で。本当に」
 安堵する様子に、心がじわりと温かくなる。目も、またまた湿ってきた。
 『やっぱり、好きだな・・・・・・。研なのに。ダサい、研なのに』
「研、ありがとう」
「うん・・・・・・」
 礼を述べる裕に、甘く答える研。研のことを好きだと自覚した。だがその二人を見ていると、やはり研は裕のことが大好きで、裕も同じで、二人の間には自分の入る隙間はないと感じられた。

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