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 ☀ ☀ ☀

 大嫌い、大嫌い、大っ嫌い・・・・・・!!!
 鈴音は家を飛び出してから、無我夢中で走っていた。今自分がどこを走っているかなど、どうでもいい。
 今はただ、走って走って、思考を止めたかったのだ。
 運命だと思った。前に助けられているし、二度目の出会い方も。接していく内に、どんどん好きになっていった。顔だけでなく、話しやすい雰囲気や、さりげない優しさに心が惹かれていった。
 こんな兄がいたらいいなとも思ったが、やっぱり恋人がいいと思い直しもした。これまで裕を含め、格好いいと思う人はたくさんいた。だが今回は本気で恋していることにも気づいたし、実際に鈴音の初恋だったのだ。
 『大事な初恋だったのに・・・・・・』
 研治の顔を思い浮かべると、とても切ない気持ちになってくる。ブンブンと首を振って、その顔を打ち消した。
 まさか、格好いい研治があのダサい陰気な研と同一人物なんて。鈴音は今でも信じられなかった。確かに、声やしゃべり方、背丈や体型など同じではある。しかし、やはり顔によって全くの別人だと思わされていた。
 だからか、と苦みを感じながらも納得する。恋しているはずなのに、やけに地を出すことが出来たのだ。猫を被りたくても、研治の纏う独特の気安い雰囲気に押され、素の自分で接してしまっていたのだ。不思議に思っていたが、その謎が解ける。
 それにしても、裕まで自分を欺していたなんて。裕だけは、見方かと思っていた。なのに・・・・・・。
 視界がみるみるうちに滲んでいく。夕日に照らされた街がぐちゃぐちゃになっていて、瞬きをするとぼたりと涙の大粒が落ちていった。雨でもないのに、地面を濡らすだろう。
「はぁ、はぁ、はぁ、・・・・・・」
 気がつけば、全くわからない場所に来ていた。ここに来るのも初めてだったし、基本的に天野家に籠っていたことから、当然だといえる。
 位置情報を調べようと思いポケットを探るが、ソファの上に置きっぱなしで来てしまったことを思いだした。
 『うっわ、最悪・・・・・・』
 涙は止まらず、手の甲で拭いても次から次へと溢れてくる。
 残酷だ。こんな、初恋の終わり方・・・・・・。
 もう歩く気も起こらず、鈴音はその場にしゃがみ込んだ。背中を支える電柱には地名が書いてあるが、それがどこかもわからない。
 電車の駅が近いのか、会社帰りらしき人々が数人、黒い鞄を持って通り過ぎていった。
 夏から秋へと確実に季節が移ってきており、7時頃まで明るかった街はもうすでに暗くなり始めている。
 このまま日が沈んでしまったら、どうしよう・・・・・・。考えなしに飛び出してきてしまったが、二人が迎えに来てくれたとしてもどんな顔をすればよいかわからない。それにまだ、二人に対して怒りを感じていた。
 段々と心細くなってきた鈴音は、とりあえず今来た道を戻ろうと踵を返した。歩幅は小さく、とぼとぼとしている。
 夢中で走ってここまで来たので、家への戻り方はもちろん、どれくらい離れているかもわからない。一体どの道を通ってきたのか、外観に見覚えがなくどこに進んだら良いのかわからなかった。
 両脇にある店の看板のネオンがカラフルに光っており、あまり知識のない鈴音にもここがどのような場所なのか思い知らされる。今歩いている道は、いわゆる夜の店が並ぶ通りだったのだ。
 頭から血の気が下がるのを感じながらも、勇気を出して歩き進める。あまり見ないように俯きながら早歩きをしていたが、体は恐怖に震えていた。心臓の動きが速く、指先まで脈拍を感じる。
「君、こんなところでどうしたの?大丈夫?」
「ひっ!」
 突然横から知らない男性に話しかけられ、驚きに心臓が跳ねる。見ると小太りの中年男性が口元に嫌な笑みを浮かべて自分のことを見ていた。
 ぞわぞわとした嫌悪感がつま先から駆け上り、一瞬足が竦んだものの、その男性が再び口を開こうとする前に鈴音は走り出した。
 『こわい、こわい、こわい!!!助けて!!』
「はぁー、はぁー、」
 後ろを振り返ると、あの男性の姿はない。鈴音はしばらく電柱にもたれ掛かって、息を整えた。足がガクガクと震えており、全力で走ったために肺が痛い。
 肩に触れられた感触に、吐き気がした。咄嗟に口を塞いで地面を向く。
 すると突然、自身の背中に手が当てられた。
「ヒィッ、やっ――」
「鈴っ、やっと、みつけた・・・・・・」
 思いきり叫ぼうとすると、聞き覚えのある声が聞こえる。振り向くと、そこには息を切らして肩を上下させている裕の姿があった。
 裕を見た瞬間、体の力が抜けていき思わず裕に凭れかかってしまう。
「よかった、見つかって」
「ゆ、にぃちゃ・・・・・・こわかっ、たよ・・・・・・こわかった・・・・・・」
 先ほど乾いた涙が、再び眼球を湿らす。一気にきた安心感に、全身が温かくなった。肩を抱いてくれる手が、安心感を与えてくれる。『よかった』と言って、温かい手の平で頭を撫でられると、もう涙が止まらなかった。

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