52 / 57
52
しおりを挟む☀ ☀ ☀
大嫌い、大嫌い、大っ嫌い・・・・・・!!!
鈴音は家を飛び出してから、無我夢中で走っていた。今自分がどこを走っているかなど、どうでもいい。
今はただ、走って走って、思考を止めたかったのだ。
運命だと思った。前に助けられているし、二度目の出会い方も。接していく内に、どんどん好きになっていった。顔だけでなく、話しやすい雰囲気や、さりげない優しさに心が惹かれていった。
こんな兄がいたらいいなとも思ったが、やっぱり恋人がいいと思い直しもした。これまで裕を含め、格好いいと思う人はたくさんいた。だが今回は本気で恋していることにも気づいたし、実際に鈴音の初恋だったのだ。
『大事な初恋だったのに・・・・・・』
研治の顔を思い浮かべると、とても切ない気持ちになってくる。ブンブンと首を振って、その顔を打ち消した。
まさか、格好いい研治があのダサい陰気な研と同一人物なんて。鈴音は今でも信じられなかった。確かに、声やしゃべり方、背丈や体型など同じではある。しかし、やはり顔によって全くの別人だと思わされていた。
だからか、と苦みを感じながらも納得する。恋しているはずなのに、やけに地を出すことが出来たのだ。猫を被りたくても、研治の纏う独特の気安い雰囲気に押され、素の自分で接してしまっていたのだ。不思議に思っていたが、その謎が解ける。
それにしても、裕まで自分を欺していたなんて。裕だけは、見方かと思っていた。なのに・・・・・・。
視界がみるみるうちに滲んでいく。夕日に照らされた街がぐちゃぐちゃになっていて、瞬きをするとぼたりと涙の大粒が落ちていった。雨でもないのに、地面を濡らすだろう。
「はぁ、はぁ、はぁ、・・・・・・」
気がつけば、全くわからない場所に来ていた。ここに来るのも初めてだったし、基本的に天野家に籠っていたことから、当然だといえる。
位置情報を調べようと思いポケットを探るが、ソファの上に置きっぱなしで来てしまったことを思いだした。
『うっわ、最悪・・・・・・』
涙は止まらず、手の甲で拭いても次から次へと溢れてくる。
残酷だ。こんな、初恋の終わり方・・・・・・。
もう歩く気も起こらず、鈴音はその場にしゃがみ込んだ。背中を支える電柱には地名が書いてあるが、それがどこかもわからない。
電車の駅が近いのか、会社帰りらしき人々が数人、黒い鞄を持って通り過ぎていった。
夏から秋へと確実に季節が移ってきており、7時頃まで明るかった街はもうすでに暗くなり始めている。
このまま日が沈んでしまったら、どうしよう・・・・・・。考えなしに飛び出してきてしまったが、二人が迎えに来てくれたとしてもどんな顔をすればよいかわからない。それにまだ、二人に対して怒りを感じていた。
段々と心細くなってきた鈴音は、とりあえず今来た道を戻ろうと踵を返した。歩幅は小さく、とぼとぼとしている。
夢中で走ってここまで来たので、家への戻り方はもちろん、どれくらい離れているかもわからない。一体どの道を通ってきたのか、外観に見覚えがなくどこに進んだら良いのかわからなかった。
両脇にある店の看板のネオンがカラフルに光っており、あまり知識のない鈴音にもここがどのような場所なのか思い知らされる。今歩いている道は、いわゆる夜の店が並ぶ通りだったのだ。
頭から血の気が下がるのを感じながらも、勇気を出して歩き進める。あまり見ないように俯きながら早歩きをしていたが、体は恐怖に震えていた。心臓の動きが速く、指先まで脈拍を感じる。
「君、こんなところでどうしたの?大丈夫?」
「ひっ!」
突然横から知らない男性に話しかけられ、驚きに心臓が跳ねる。見ると小太りの中年男性が口元に嫌な笑みを浮かべて自分のことを見ていた。
ぞわぞわとした嫌悪感がつま先から駆け上り、一瞬足が竦んだものの、その男性が再び口を開こうとする前に鈴音は走り出した。
『こわい、こわい、こわい!!!助けて!!』
「はぁー、はぁー、」
後ろを振り返ると、あの男性の姿はない。鈴音はしばらく電柱にもたれ掛かって、息を整えた。足がガクガクと震えており、全力で走ったために肺が痛い。
肩に触れられた感触に、吐き気がした。咄嗟に口を塞いで地面を向く。
すると突然、自身の背中に手が当てられた。
「ヒィッ、やっ――」
「鈴っ、やっと、みつけた・・・・・・」
思いきり叫ぼうとすると、聞き覚えのある声が聞こえる。振り向くと、そこには息を切らして肩を上下させている裕の姿があった。
裕を見た瞬間、体の力が抜けていき思わず裕に凭れかかってしまう。
「よかった、見つかって」
「ゆ、にぃちゃ・・・・・・こわかっ、たよ・・・・・・こわかった・・・・・・」
先ほど乾いた涙が、再び眼球を湿らす。一気にきた安心感に、全身が温かくなった。肩を抱いてくれる手が、安心感を与えてくれる。『よかった』と言って、温かい手の平で頭を撫でられると、もう涙が止まらなかった。
0
お気に入りに追加
69
あなたにおすすめの小説
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である



ある少年の体調不良について
雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。
BLもしくはブロマンス小説。
体調不良描写があります。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

なんか金髪超絶美形の御曹司を抱くことになったんだが
なずとず
BL
タイトル通りの軽いノリの話です
酔った勢いで知らないハーフと将来を約束してしまった勇気君視点のお話になります
攻
井之上 勇気
まだまだ若手のサラリーマン
元ヤンの過去を隠しているが、酒が入ると本性が出てしまうらしい
でも翌朝には完全に記憶がない
受
牧野・ハロルド・エリス
天才・イケメン・天然ボケなカタコトハーフの御曹司
金髪ロング、勇気より背が高い
勇気にベタ惚れの仔犬ちゃん
ユウキにオヨメサンにしてもらいたい
同作者作品の「一夜の関係」の登場人物も絡んできます

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!

見ぃつけた。
茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは…
他サイトにも公開しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる