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 『ヒント。省かれてるけど、2つ目と3つ目の式の間にこの式があると思う。この式、見覚えない?』
 どうやっても、解答を見ても理解できない問題に頭を悩ませること早20分。どう考えもわからないと思い裕に聞こうとしたが、彼は今受験勉強中だ。邪魔をしたくない。
 では飛ばして次の問題へいこうとページを捲ったが、なんだか頭の中でもやもやとしたものが残る。
 気持ち悪い・・・!!と思い、鈴音は携帯に手を伸ばすと研治に泣きつく内容のメールを送った。今の気持ちを上手く表した、涙の粒を飛ばしている羊のスタンプも共に送ると、すぐに見てくれたようで解き方のヒントを教えてくれた。
 文面を読み、再び解答に目を通すと、なるほど確かに示された式が入るようだ。そしてその式の形には、見覚えがあった。授業で習った公式の形を変形させたものだったのだ。
 『何これ、楽勝じゃん』
 突如自分のわかる範囲になり、いきなりやる気が湧いてくる。その勢いのまま時始めると、すらすらと式を繋げることができ、簡単に解を導くことができた。
 興奮冷めやらぬまま研に感謝を伝え満足を覚えていると、急ぎすぎたのか文章がすごい間違いを起こしていることに気づいた。慌てて修正しようとしたが、その前に研から返信が届く。
『あ゛あ゛~~絶対笑われてる~。恥ずかし~!!』
画面には『どういたしまして。また何かあったら聞いてね』と優しい文面の後ににこにこしたマークが表示されているが、その微笑みは完全に今の研治が浮かべているものだろう。
頬の熱が、問題を解けた興奮によるものから羞恥へと変わる。熱い頬に手を当て、恥ずかしい気持ちにうずうずしながら、鈴音は次の問題に向かっていった。

 あれから何度かわからない問題を聞いたりしていたが、その度に優しく丁寧に、かつ自分で解けるような力添えをしてくれる。研治は教え方が上手い、と心底思った。寄り添って教えてくれるそのやり方に、さらに恋心が加速してしまう。
 やり取りを重ねる中、鈴音は身近な何気ない出来事をメールで送ってみた。なんとなく、どうでも良いことなのだが研治と共有したい、と思ったのだ。
 プライベートなことまで、面倒くさいかなと思ったが、研治は問題の解き方を教えてくれるときと同じように、丁寧に言葉を返してくれた。
 それからわからない問題を聞くだけでなく、日常の会話のようなやり取りもするようになったのだが、それによって研治との距離が近くなったように感じられ、メールが来る度にわくわくするようになった。
 ある日は面白い自分の寝癖を、ある日は雲の形が面白かったためその話を、と会話がどんどん増えていく。
 同じものを見て同じ時間を共有できたらいいのにと思い雲の写真を送ったが、ふといくら何でもそれは面倒くさい奴だと思えてきた。こんな風に、夢中になる相手ができて初めて自分の手に負えなさを実感する。
 今すぐの返事は来ないだろうな、と思い学習アプリを開いてクイズに答えていると、着信音が鳴りメールの文面が表示された。
 まさかという思いと、淡い期待を胸にメールを開くと、『今見た。本当だ、面白い形だね』という文面。
 それを見た瞬間、鈴音は勢いよく立ち上がって窓の外を見上げた。そこには、先ほどとあまり変わらない位置にあるポップコーンに似た形の雲たち。
歓喜の気持ちが押し寄せてくる。今、自分は研治と同じものを見ているのだ。
 同じときに同じものを眺めている自分たち。その事実に、どうしようもなく嬉しくなる。
研治と一緒に行った映画館を思い出させる雲。鈴音は、たまらなく幸せを噛みしめた。

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