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最近、研と鈴音は頻繁にやり取りを行っているように思う。それは鈴音が目を腫らして帰ってきた日からだった。
始めはあまり気にならなかった。見かける度に、二人共がよく携帯を手にしているなと思う程度だったのだ。
だが鈴音の携帯画面を見る表情を垣間見ると、その相手は自ずとわかった。
研治以外に、鈴音があのような、恋い焦がれるような顔をする相手はいない。
一方研だが、部屋の前を通るときに扉の隙間から見た彼は、携帯の画面を見ながらそれはそれは優しい笑みを浮かべていた。
嫌な予感にもやもやとしていたが、ヒントに気がつくとそれは非常にわかりやすかった。研が自室に、鈴音が一階の和室にいる時にキッチンで何かしていると、上下からほぼ同時にメールの着信音が聞こえてくるのだ。鈴音はもちろん気づいていないし、研も鈴音が気づくという意識がないのだろう。
あんなにピコピコと音がなっているのに気にならない二人に、『二人の世界』という言葉が浮かび、急いで打ち消した。
頻繁に着信音が鳴り響く日々が積もる度に、裕の中の不満が膨れ上がっていく。自分に隠し事をしていること、画面に向き合う際の優しげな、愛おしげな目、表情・・・・・・。不安にならない要素がなかった。
もしかして、研も鈴音に惹かれているのではないか。そんな馬鹿な、と笑えもしないことが頭の中を支配する。
鼻歌を歌いながら機嫌良く携帯に何かを打ち込む鈴音の姿に、不穏な感情を抱いてしまう。研の、届いたメールを見る優しげな目も、自分の心を苦しめる。
やり取りの内容など二人の進展が気になって仕方なく、勉強にも身が入らない。当然解説も頭に入ってこないし、英語の学習用CDを聞いていても超特急で通過していってしまう。今まで躓かなかった箇所で間違いを重ね、苛立ちが募る。
苛立ちに赤ペンを持つ手に力が入り、紙にペン先を強く押しつけてしまった。慌てて手を離すと、くっきりと凹みができてしまっている。
『問題集に八つ当たりとか・・・・・・』
これはもう駄目だと思い、裕ははぁと重い溜息を吐いて椅子から立ち上がると、ベッドの上に寝転がった。
投げやりに放り込んだ身を優しく受け止めてくれるマットに心を慰められる。
しばらく天井をぼぅっと眺めていると、研の部屋からまた微かに着信音が聞こえてきて、やや上向きになった気分が再び沈んだ。
「はぁ-・・・・・・」
何も考えたくなくなった裕は、体の力を抜いて静かに目を閉じた。
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