天野兄弟のドキハラ!な日常生活

狼蝶

文字の大きさ
上 下
41 / 57

41

しおりを挟む
 
 ☾ ☾ ☾

 カチッ カチッ カチッ
 苛々する。落ち着かない。
 先ほどから時計の音が耳につき、勉強を中断して確認すると全く針が進んでいないことがわかりまた苛つく。
 異様に時計の進みが遅い。嫌な時間ほど長く感じるとはこのことか。
 これでは捗らないと思い、一度休憩を入れることにして湯を沸かしにリビングへと降りていった。
 カチリと取っ手を回すと火が灯る。コーヒーを炒れたばかりだったからか、やかんはすでに熱かったらしく、注ぎ口から緩く煙が上がる。それをぼんやりと眺めていると、胸の辺りがもやもやとし出した。
 今、あの二人は何をやっているのだろう。昼食はどこで食べたのだろうか。楽しそうに笑い合っているのだろうか。
 考えても仕方のないことばかりを考えてしまう。
 嫉妬以外の何でもなかった。
 沸いた湯をコップに注ぎ、スプーンで中身をかき混ぜる。言葉で言い表せない不安と焦燥がぐるぐると渦巻いて、気持ち悪いと思った。
 『嫌だなぁ・・・・・・』
 こんな汚いことを考える自分もであるし、何より鈴音が研を好きなことが。
 いっそのこと、バラしてしまいたいと思う。研治は鈴音の嫌う研であると。そうしたら、鈴音は研治への想いを諦めるのだろうか。
「はぁ・・・・・・」
 どんどん嫌な自分になっていく気がする。湯気の立つコーヒーを一口含み、背もたれへと凭れ上を見上げる。
 長時間同じ姿勢をし続けていたからか肩が凝っていて、首も痛い。目を瞑ると、このまま眠ってしまいそうだった。
 時計を見ると、一時過ぎ。二人はまだまだ帰ってこないだろう。
 裕は気怠いままコーヒーを飲み干し、コップを洗って二回へと戻った。自分の部屋に入る直前、扉にかかる手を止め、ふいと視線を横に移す。目に入るのは、研の部屋の扉。
 ふらりと足が向かい、扉を開ける。
 一歩踏み出すと、研の匂いに包まれた。立ったまま、目を瞑って深く息を吸い込むと、焦燥を感じていた心が落ち着きを取り戻してきた。安心感が満ちてくる。
 しばらく深呼吸を続けた後、机の横にあるベッドの上へとうつ伏せに倒れ込んだ。
 顔を枕に押しつけたまま、また深く息を吸う。
 染みついた、研の匂い。シーツも、タオルケットも、どこもかしこも研の匂い。この匂いは、自分を安心させてくれる。
 『大好き、研・・・・・・』
 段々と微睡んでいき、気がつけば眠りに入っていた。

「ただいまー」
「っ!」
 玄関の扉が開く音に続き、鈴音の声が聞こえる。ハッとして飛び起き、裕はしまったと思った。
 すぐにベッドを元通りにし、扉を閉め、さも自室から出て来たかのように一階へと降りていく。手洗いうがいを終わらせて戻って来た鈴音に夕食ができていないことを謝ろうと顔を向けると、こちらに向けられた顔に驚愕した。
「え、鈴音、どうしたの!?」
 鈴音の目元にはいくつもの涙腺があり、もう乾いているだろうが瞼が少しだけ腫れていた。きっとたくさん泣いたのだろう。
 もしかして、研が泣かせたのだろうか。
「何があったの?」
「これは大丈夫!何もないから!」
 そう言う鈴音の声色は明るく、本当に大丈夫なようである。一先ずは安堵しながらも、その涙が気になった。
 何も言わずじっと見つめていたからだろうか、鈴音が言いづらそうに話し出した。
「研治さんに、昔助けてもらったことを伝えて、お礼を言ったの・・・・・・。そしたら、本当に無事でよかったね、って頭撫でてくれて」
 嬉しくて、と頬を赤く染めながら報告してくる。
 一瞬、泣きたくなった。
 心が狭すぎる。ただ撫でられたというだけのことなのに、嫌という気持ちが大きくて、そしてそう思う自分の狭量さが情けない。
 辛うじて『よかったね』と言い、顔を俯かせたままエプロンを身につけ、夕食の準備に取り掛かった。
 下を向くと涙が零れそうだったが、我慢しながらまな板と向かい合う。もしも泣いてしまったら、そのときはタマネギのせいにしてしまおう。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

何故か正妻になった男の僕。

selen
BL
『側妻になった男の僕。』の続きです(⌒▽⌒) blさいこう✩.*˚主従らぶさいこう✩.*˚✩.*˚

弟、異世界転移する。

ツキコ
BL
兄依存の弟が突然異世界転移して可愛がられるお話。たぶん。 のんびり進行なゆるBL

ある少年の体調不良について

雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。 BLもしくはブロマンス小説。 体調不良描写があります。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

なんか金髪超絶美形の御曹司を抱くことになったんだが

なずとず
BL
タイトル通りの軽いノリの話です 酔った勢いで知らないハーフと将来を約束してしまった勇気君視点のお話になります 攻 井之上 勇気 まだまだ若手のサラリーマン 元ヤンの過去を隠しているが、酒が入ると本性が出てしまうらしい でも翌朝には完全に記憶がない 受 牧野・ハロルド・エリス 天才・イケメン・天然ボケなカタコトハーフの御曹司 金髪ロング、勇気より背が高い 勇気にベタ惚れの仔犬ちゃん ユウキにオヨメサンにしてもらいたい 同作者作品の「一夜の関係」の登場人物も絡んできます

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

処理中です...