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カチッ カチッ カチッ
苛々する。落ち着かない。
先ほどから時計の音が耳につき、勉強を中断して確認すると全く針が進んでいないことがわかりまた苛つく。
異様に時計の進みが遅い。嫌な時間ほど長く感じるとはこのことか。
これでは捗らないと思い、一度休憩を入れることにして湯を沸かしにリビングへと降りていった。
カチリと取っ手を回すと火が灯る。コーヒーを炒れたばかりだったからか、やかんはすでに熱かったらしく、注ぎ口から緩く煙が上がる。それをぼんやりと眺めていると、胸の辺りがもやもやとし出した。
今、あの二人は何をやっているのだろう。昼食はどこで食べたのだろうか。楽しそうに笑い合っているのだろうか。
考えても仕方のないことばかりを考えてしまう。
嫉妬以外の何でもなかった。
沸いた湯をコップに注ぎ、スプーンで中身をかき混ぜる。言葉で言い表せない不安と焦燥がぐるぐると渦巻いて、気持ち悪いと思った。
『嫌だなぁ・・・・・・』
こんな汚いことを考える自分もであるし、何より鈴音が研を好きなことが。
いっそのこと、バラしてしまいたいと思う。研治は鈴音の嫌う研であると。そうしたら、鈴音は研治への想いを諦めるのだろうか。
「はぁ・・・・・・」
どんどん嫌な自分になっていく気がする。湯気の立つコーヒーを一口含み、背もたれへと凭れ上を見上げる。
長時間同じ姿勢をし続けていたからか肩が凝っていて、首も痛い。目を瞑ると、このまま眠ってしまいそうだった。
時計を見ると、一時過ぎ。二人はまだまだ帰ってこないだろう。
裕は気怠いままコーヒーを飲み干し、コップを洗って二回へと戻った。自分の部屋に入る直前、扉にかかる手を止め、ふいと視線を横に移す。目に入るのは、研の部屋の扉。
ふらりと足が向かい、扉を開ける。
一歩踏み出すと、研の匂いに包まれた。立ったまま、目を瞑って深く息を吸い込むと、焦燥を感じていた心が落ち着きを取り戻してきた。安心感が満ちてくる。
しばらく深呼吸を続けた後、机の横にあるベッドの上へとうつ伏せに倒れ込んだ。
顔を枕に押しつけたまま、また深く息を吸う。
染みついた、研の匂い。シーツも、タオルケットも、どこもかしこも研の匂い。この匂いは、自分を安心させてくれる。
『大好き、研・・・・・・』
段々と微睡んでいき、気がつけば眠りに入っていた。
「ただいまー」
「っ!」
玄関の扉が開く音に続き、鈴音の声が聞こえる。ハッとして飛び起き、裕はしまったと思った。
すぐにベッドを元通りにし、扉を閉め、さも自室から出て来たかのように一階へと降りていく。手洗いうがいを終わらせて戻って来た鈴音に夕食ができていないことを謝ろうと顔を向けると、こちらに向けられた顔に驚愕した。
「え、鈴音、どうしたの!?」
鈴音の目元にはいくつもの涙腺があり、もう乾いているだろうが瞼が少しだけ腫れていた。きっとたくさん泣いたのだろう。
もしかして、研が泣かせたのだろうか。
「何があったの?」
「これは大丈夫!何もないから!」
そう言う鈴音の声色は明るく、本当に大丈夫なようである。一先ずは安堵しながらも、その涙が気になった。
何も言わずじっと見つめていたからだろうか、鈴音が言いづらそうに話し出した。
「研治さんに、昔助けてもらったことを伝えて、お礼を言ったの・・・・・・。そしたら、本当に無事でよかったね、って頭撫でてくれて」
嬉しくて、と頬を赤く染めながら報告してくる。
一瞬、泣きたくなった。
心が狭すぎる。ただ撫でられたというだけのことなのに、嫌という気持ちが大きくて、そしてそう思う自分の狭量さが情けない。
辛うじて『よかったね』と言い、顔を俯かせたままエプロンを身につけ、夕食の準備に取り掛かった。
下を向くと涙が零れそうだったが、我慢しながらまな板と向かい合う。もしも泣いてしまったら、そのときはタマネギのせいにしてしまおう。
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