34 / 57
34
しおりを挟む「中学生一枚と、高校生一枚お願いします」
「っ、承りました。お、お席はお決まりでしょうか?」
「ん、と・・・・・・、鈴音はどこがいい?」
「・・・・・・っぇ!?あ、ああ!!う~んとね、目線の高さくらいがいいな!」
「わかった。じゃあ――・・・・・・
斜め上にある尊い顔に見取れていると、その切れ長な瞳が自分を捉えているのにふと気づいた。状況を把握すると、座席をどこにするか尋ねてくれたらしい。
慌てて店員が指していた画面の真ん中らへんを適当に指差すと、快く頷いた研治が再び店員の女性に顔を向けた。
やって来たのは映画館。駅の近くの大きなショッピングモールに併設されていて、夏休みというイベントと重なったからか朝から大勢の人が賑わっているようだ。早朝から上映されている映画にも多くの人が訪れたためか、早くもややくたびれた顔をした店員に当たったが、彼女は研治の顔を見た瞬間に顔を真っ赤にして張りのある声で対応し始めた。
目の前の美丈夫に緊張しているのか言葉を噛みまくっおり、隣のブースの店員に苦笑いをされている。一見恥ずかしいと思ったが、端から見れば自分も同じようなものかと思うと痛いところがある。
顔を上げていられず俯いたまま、研治がチケットを受け取るのをやり過ごした。
「何か食べる?」
受付から離れる際、何となく上を見ることができずに研治の服の袖を指で摘まみ、研治について歩いて行く。
ざわざわとした人の波を縫い、そして立ち止まった衝撃で研治の背中に顔をぶつけそうになるのを慌てて回避すると、このフロア全体に漂っていた甘い匂いが一層濃厚になった気がした。
それもそのはずで、顔を上げるとそこはポップコーンなどの映画食が売られているカウンターの前だったのだ。そこから離れていく女性客の側では、5、6歳くらいの男の子が今公開中の子ども向け人気アニメとコラボしているポップコーンケースを手に持ってはしゃいでいた。
ああ、そういえば、親と映画を見に来たことなんてあったかな・・・・・・
そう思い、駆け出して母親に注意されている男の子のことを見つめていると、頭の上からクスクスと笑い声が聞こえてきた。
「アレがほしい?」
「・・・んぇ!?」
「いやっ、あの子を見る鈴音の顔が『いいな~羨ましいな~』って見えたから」
「ちがっ、ちがうよ!!」
目を細めて笑う研治に、かぁと顔が熱くなってくる。今彼の目は濃い青色のフレームに囲まれており、その目新しさに思わず視線が向かってしまった。
「あのはしゃいでた子がかわいいなって思ってただけ!」
「ははっ、鈴音もかわいいけどな」
「なっ!!」
別に特別な意味などないという風に言われた言葉。研治にとってはそうだったかもしれないが、その言葉に鈴音の顔は蒸気を噴くやかんの如く、発熱した。
『か、かわいい!?僕が、かわいい!!?』
頭を抱えたくなる。両手で顔を覆い、しゃがみ込んで喜びを噛みしめたい。
そんな心境の鈴音は、今度は先ほどの男児よりも派手にスキップをかましたい衝動に駆られた。
「じゃ、普通のポップコーンにするか。飲み物は?」
鈴音の中で吹き荒れる暴風雨にもお構いなしに、研治が爽やかな笑顔でメニューを指差してくる。この熱を冷ましてくれるならば何でも良い!と思い、鈴音はキンキンに冷えていそうなコーラを頼んだ。
『うう・・・、なんでこんなに振り回してくるんだっっ!こういう所は研に似ているかもしれないな・・・・・・』
と、折角のデート中にまで考えたくもない相手のことを頭に浮かべる。類は友を呼ぶって、こういうことかも・・・・・・と思いながら。
0
お気に入りに追加
69
あなたにおすすめの小説

ある少年の体調不良について
雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。
BLもしくはブロマンス小説。
体調不良描写があります。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

血のつながらない弟に誘惑されてしまいました。
まつも☆きらら
BL
突然できたかわいい弟。素直でおとなしくてすぐに仲良くなったけれど、むじゃきなその弟には実は人には言えない秘密があった。ある夜、俺のベッドに潜り込んできた弟は信じられない告白をする。

目覚ましに先輩の声を使ってたらバレた話
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
サッカー部の先輩・ハヤトの声が密かに大好きなミノル。
彼を誘い家に泊まってもらった翌朝、目覚ましが鳴った。
……あ。
音声アラームを先輩の声にしているのがバレた。
しかもボイスレコーダーでこっそり録音していたことも白状することに。
やばい、どうしよう。
ハンターがマッサージ?で堕とされちゃう話
あずき
BL
【登場人物】ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ハンター ライト(17)
???? アル(20)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
後半のキャラ崩壊は許してください;;

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。
しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。
基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。
一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。
それでも宜しければどうぞ。
白くて細い、項
真田晃
BL
「俺なら、我慢できねぇわ」
潤んだ大きな瞳。長い睫毛。
綺麗な鼻筋。白い肌に映える、血色のいい唇。華奢で狭い肩幅。
そして、少し長めの襟足から覗く──白くて細い項。
結城瑠風は、男でありながら女のように可愛い。……が、特段意識した事などなかった。
クラスメイトの山岡が、あんな一言を言うまでは。
そんなある日。
突然の雨に降られ、想いを寄せている美人の従兄弟と同居中だという、瑠風のアパートに上がる事になり──
※遡って修正する事があります。
ご了承ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる