天野兄弟のドキハラ!な日常生活

狼蝶

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「中学生一枚と、高校生一枚お願いします」
「っ、承りました。お、お席はお決まりでしょうか?」
「ん、と・・・・・・、鈴音はどこがいい?」
「・・・・・・っぇ!?あ、ああ!!う~んとね、目線の高さくらいがいいな!」
「わかった。じゃあ――・・・・・・
 斜め上にある尊い顔に見取れていると、その切れ長な瞳が自分を捉えているのにふと気づいた。状況を把握すると、座席をどこにするか尋ねてくれたらしい。
 慌てて店員が指していた画面の真ん中らへんを適当に指差すと、快く頷いた研治が再び店員の女性に顔を向けた。
 やって来たのは映画館。駅の近くの大きなショッピングモールに併設されていて、夏休みというイベントと重なったからか朝から大勢の人が賑わっているようだ。早朝から上映されている映画にも多くの人が訪れたためか、早くもややくたびれた顔をした店員に当たったが、彼女は研治の顔を見た瞬間に顔を真っ赤にして張りのある声で対応し始めた。
 目の前の美丈夫に緊張しているのか言葉を噛みまくっおり、隣のブースの店員に苦笑いをされている。一見恥ずかしいと思ったが、端から見れば自分も同じようなものかと思うと痛いところがある。
 顔を上げていられず俯いたまま、研治がチケットを受け取るのをやり過ごした。
「何か食べる?」
 受付から離れる際、何となく上を見ることができずに研治の服の袖を指で摘まみ、研治について歩いて行く。
 ざわざわとした人の波を縫い、そして立ち止まった衝撃で研治の背中に顔をぶつけそうになるのを慌てて回避すると、このフロア全体に漂っていた甘い匂いが一層濃厚になった気がした。
 それもそのはずで、顔を上げるとそこはポップコーンなどの映画食が売られているカウンターの前だったのだ。そこから離れていく女性客の側では、5、6歳くらいの男の子が今公開中の子ども向け人気アニメとコラボしているポップコーンケースを手に持ってはしゃいでいた。
 ああ、そういえば、親と映画を見に来たことなんてあったかな・・・・・・
 そう思い、駆け出して母親に注意されている男の子のことを見つめていると、頭の上からクスクスと笑い声が聞こえてきた。
「アレがほしい?」
「・・・んぇ!?」
「いやっ、あの子を見る鈴音の顔が『いいな~羨ましいな~』って見えたから」
「ちがっ、ちがうよ!!」
 目を細めて笑う研治に、かぁと顔が熱くなってくる。今彼の目は濃い青色のフレームに囲まれており、その目新しさに思わず視線が向かってしまった。
「あのはしゃいでた子がかわいいなって思ってただけ!」
「ははっ、鈴音もかわいいけどな」
「なっ!!」
 別に特別な意味などないという風に言われた言葉。研治にとってはそうだったかもしれないが、その言葉に鈴音の顔は蒸気を噴くやかんの如く、発熱した。
 『か、かわいい!?僕が、かわいい!!?』
 頭を抱えたくなる。両手で顔を覆い、しゃがみ込んで喜びを噛みしめたい。
 そんな心境の鈴音は、今度は先ほどの男児よりも派手にスキップをかましたい衝動に駆られた。
「じゃ、普通のポップコーンにするか。飲み物は?」
 鈴音の中で吹き荒れる暴風雨にもお構いなしに、研治が爽やかな笑顔でメニューを指差してくる。この熱を冷ましてくれるならば何でも良い!と思い、鈴音はキンキンに冷えていそうなコーラを頼んだ。
 『うう・・・、なんでこんなに振り回してくるんだっっ!こういう所は研に似ているかもしれないな・・・・・・』
 と、折角のデート中にまで考えたくもない相手のことを頭に浮かべる。類は友を呼ぶって、こういうことかも・・・・・・と思いながら。

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