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「わ~、コレも似合う!!あ、コレも掛けてみて!コレも!!」
携帯電話で調べた一番近い眼鏡屋に入り、気の進まない研治に無理矢理展示してある眼鏡を渡して掛けさせる。どのタイプのものも、やはり元が良いからか似合いすぎて溜まらない。丸眼鏡はモダンな男子を演出するが、その目尻の力強さとキリッとした眉でギャップが生じなんともいえないキュンが発生する。枠の狭いタイプは理知的なイメージを持たせるが、それがセクシーさを際立て格好いい×セクシーの両立が爆誕しておる。丸い縁は柔和なお兄さん感を醸し出してくるし、ザマスみたいな眼鏡は・・・・・・家庭教師とかやって間違った僕にお仕置きしてほしぃ・・・・・・とかなり危ない思考まで起こさせるほどのインパクトだ。
店員さんも研治のルックスの良さと目を引くオーラに一瞬で墜ち、客の対応そっちのけで研治を凝視している。客も客で、その目は研治一人に釘付けになっているのだが。
調子に乗って次々と眼鏡を渡していると、研治が眉を八の字にして手に持った眼鏡を鈴音に返してきた。
「いや、眼鏡はいいよ・・・・・・」
「どうして!?僕との映画、どうでもいいの!!?」
「そういう意味じゃなくて・・・、眼鏡を掛けていると、すぐ頭痛くなってきちゃうからさ」
「うう~~・・・・・・あ!じゃあコンタクト!!」
眼鏡は嫌だと言われ、似合っているだけに引き下がりたくなくなる。それに、視力が弱いことを知ってしまっただけに、このまま研治と映画になど行きたくはなかった。
他に方法は、と考えていると、ふと視界にコンタクトの広告が入ってきた。
「えっ、コンタクト・・・・・・?」
さらに八の字の斜面を急にして、研治がやや情けない声を出す。
「そ、コンタクト!」
元気よく頷くと、目の前の研治が少し泣きそうな、子犬みたいな目をした。
『な、何その顔・・・!!きゅ、きゅ、キュンッ!!』
「いいよ!やっぱ店出よう!コンタクトは絶対に嫌だ」
「なんで?なんでコンタクトはダメなんですか?だって眼鏡と違って締め付けもないだろうし」
「だって、こ、」
「こ?」
「こわいんだもん・・・・・・」
ひゅっ、
一瞬、鈴音の時間が止まった。それまで煩い鼓動を奏でていた心臓すらも沈黙したかもしれない。鈴音の全細胞が停止した。
『え、かわいすg・・・えっ、え、・・・・・・ギュン死にするやん・・・・・・』
もはや抜け殻のように呟く。
“男らしい”を体現した研治が、やや顔を赤らめ消え入りそうな声で『コンタクトがこわい』と告白する。
その光景に、『キュン』意外のものは存在しなかった。
これぞ、ギャップ萌え・・・鈴音は真理を悟った気がした。
「だって、クラスの奴とか目の中で見失ったとか言ってたし、ずっと付けてたら取れなくなったとか聞いたし、そもそも、眼球に直接物質を入れるなんてっっ、こわすぎるだろっ!?」
研治の熱弁に、その必死さに、ますます彼が可愛らしく思えてくる。
するとべそをかいている研治の側に、にこにことした店員がやって来た。緩みきった顔が彼女の心情を物語っている。
「大丈夫ですよ。適切に使用し清潔さを保てば目も傷つきませんし。それに、眼鏡では色々と不便な時がございますが、その点コンタクトは一度慣れればすごく楽だと聞きます。まぁ、眼鏡を売る者の言葉としてはどうかと思いますが」
そう言って、店員さんは苦笑いをした。
だがコンタクトを買うにしても、まず眼科を受診してからが良いだろうと言われ、それを聞いた鈴音は少しがっかりとした。今日の映画は、中止だろうか。
「や、っぱりコンタクトはまだ付けたくないんで・・・・・・鈴音、どれが一番俺に似合ってた?」
「・・・へっ?」
『どうされますか?』と問うた店員さんに研治は礼を言いつつもやはり嫌だという態度を表し、いきなり鈴音に話を振ってきた。
それはどの眼鏡が一番研治に似合っているか、だ。
「え、と・・・・・・これっ!これが一番似合ってた!!」
じわじわと心の底から、まるで温泉のように嬉しさが湧き上がってくる。研治が掘り当ててくれた。
先ほど無理矢理に行っていた眼鏡ファッションショーの中で一番似合っていたものを手に取り、それを受け取った研治が店員に手渡し視力検査に向かっていった。
「ではお釣りと領収書、それとこちら、保証書となります」
「あの、できればすぐに頂きたいのですが・・・・・・」
「承知いたしました。最短で30分程度ですので、お店の方でお待ちになりますか?近くに喫茶店もございます」
すごく丁寧な対応をしてくれる店員さんだな、とレジ横で店員と研治のやり取りをぼぅっと眺めている鈴音は思った。
「じゃあ、その喫茶店で待っています。では、よろしくお願いします」
研治が笑顔を作り、店員に感謝を述べる。超イケメンからの微笑みを正面から喰らった店員は笑顔のまま固まり、横から来た上司らしき人に肩を叩かれていた。
「鈴音、お待たせ。もう少しだけ、ごめんな」
「ううん!全然いいよ!どうせ今の時間帯のは混んでそうだし」
映画を待たせていることに負い目を感じているらしく、眉を下げて謝ってくる研治に、鈴音は両手を振って研治の非を否定した。
元はといえば、眼鏡屋に引きずり込んだのは鈴音なのだ。まぁ、視力の悪い裸眼のまま映画を観ようとしていた研治も研治なのだが。
少し複雑な気持ちになりつつも、客と店員双方からの視線を受けながら、鈴音は研治の後について扉をくぐった。
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