28 / 57
28
しおりを挟む***
日光が窓から直射し、プリントを燃やしてしまいそうなほど熱い窓際の席。
怠さに机に突っ伏した状態で、研は死んでいた。
『もう、アカン・・・・・・』
朝から気まずい思いをした。鈴音は先週から変わらずぼんやりとしながら朝食を食べており、今朝はそれに加えて裕も遠い目をしながら食事をしていた。すでに空になった茶碗から箸で空気を掴み、もくもくと凪いだ目をして咀嚼するのだ。
完全に昨日の出来事が原因である。
太陽が虐めてくる中、ふらふらと歩き学校には来たものの、当然やる気は起きない。昨日はあまり眠ることができなかったので、それも原因の一つとしてあるだろう。
今日は例の数学教師が担当のため、教室全体がたるい雰囲気に包まれていた。
音を出してゲームをやっている奴までいる。
「はぁ~・・・・・・」
剣で敵を薙ぎ払うような効果音に、いっそ自分も退治してくれと願いつつも、腕に凭れさせてた顔を窓側に向けた。雲の流れが速く、ちょうど大きな雲が太陽を隠している。
すると教室の内部にも巨大な敵が現れたように影が射し暗くなった。
明るい教室が突如陰る瞬間、研はそれが少しだけ苦手だった。慣れ親しんだ教室が、どこか異空間になってしまったかと思えてしまうからだ。
それは自分だけが阻害された世界。幼い頃から皆に遠目にされる経験が、ただの陰りを研にそう思わせるのかと思われた。
ブーッ
「っ!」
すると突然、机の中の携帯が音を立てて振動した。驚きに、腕一面に鳥肌が立つ。振動する音が空洞の机の中で響いてしまい、その音に教卓で寝痩けていた教師の体がピクリと反応した。
うっすらと目を開けた教師は、ポリポリと頬を掻くと再び眠たそうに目を閉じた。
『危なかった・・・・・・』
まだ心臓をバクバクさせながら、机の中の携帯を手に取りロック画面を開く。メールが届いたらしく、画面を開くと鈴音から『この週末、一緒に遊びに行きませんか?』というメッセージが届いていた。
なんだ鈴音からかという意味もなく息を吐き、次にメッセージの内容を理解する。と、同時に研は一体どう返事をしようかと頭を抱えた。
いつものように、研治になるときは今の状態から眼鏡を取って前髪を除ければいい。しかし、それをどこでするか、だ。平日ならば、こないだのように学校から彼の元へ向かう途中に変装?すればよいが、休日は当然家にいる。そして鈴音は今研と同じ家にいる。時差で家を出たとしても裕や鈴音にどう言い訳すればよいかわからないし、研が着ている服を研治も着ていたら、さすがの鈴音も変に思うだろう。その点でも、平日ならば学生服を着ているから自然に見える。
画面を開いてしまったため、返事をしないと不自然だろう。
『ok』と打ちかけたが、やはりよく考えてからにしようと思い、指先を消去ボタンへ向けた。その時前方から咳き込む声が聞こえ、顔をそこに向けるとなんと教師が辛そうに背もたれから起き上がっていた。
『あっ!』
堂々と机に携帯を置いて操作しているのを見られたら後で面倒なことになると思い焦って片付けようとしたら、急いだ勢いで送信ボタンを押してしまった。
『ヤッバ・・・・・・』
すぐに送信取り消しをしようとしたが、次の瞬間鈴音から『やったぁ!楽しみです!!』という文字と『感激!』と言っている動物のスタンプが送られてきた。
見ていても変わらない画面をじっと見つめ、研は固まる。教卓では痰の絡んだ咳を2,3度繰り返した教師が再び眠りの世界へと誘われている。
雲を抜け、太陽が爛々と教室にいる研たちを照らす。分厚い窓越しに、まだまだ元気な蝉の鳴き声が微かに聞こえてくる。
今年の夏は、長そうだ。
0
お気に入りに追加
67
あなたにおすすめの小説
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
なんか金髪超絶美形の御曹司を抱くことになったんだが
なずとず
BL
タイトル通りの軽いノリの話です
酔った勢いで知らないハーフと将来を約束してしまった勇気君視点のお話になります
攻
井之上 勇気
まだまだ若手のサラリーマン
元ヤンの過去を隠しているが、酒が入ると本性が出てしまうらしい
でも翌朝には完全に記憶がない
受
牧野・ハロルド・エリス
天才・イケメン・天然ボケなカタコトハーフの御曹司
金髪ロング、勇気より背が高い
勇気にベタ惚れの仔犬ちゃん
ユウキにオヨメサンにしてもらいたい
同作者作品の「一夜の関係」の登場人物も絡んできます
総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?
寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?
溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。
日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが
五右衛門
BL
月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。
しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──
家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
平凡ハイスペックのマイペース少年!〜王道学園風〜
ミクリ21
BL
竜城 梓という平凡な見た目のハイスペック高校生の話です。
王道学園物が元ネタで、とにかくコメディに走る物語を心掛けています!
※作者の遊び心を詰め込んだ作品になります。
※現在連載中止中で、途中までしかないです。
白くて細い、項
真田晃
BL
「俺なら、我慢できねぇわ」
潤んだ大きな瞳。長い睫毛。
綺麗な鼻筋。白い肌に映える、血色のいい唇。華奢で狭い肩幅。
そして、少し長めの襟足から覗く──白くて細い項。
結城瑠風は、男でありながら女のように可愛い。……が、特段意識した事などなかった。
クラスメイトの山岡が、あんな一言を言うまでは。
そんなある日。
突然の雨に降られ、想いを寄せている美人の従兄弟と同居中だという、瑠風のアパートに上がる事になり──
※遡って修正する事があります。
ご了承ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる