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 日光が窓から直射し、プリントを燃やしてしまいそうなほど熱い窓際の席。
 怠さに机に突っ伏した状態で、研は死んでいた。
『もう、アカン・・・・・・』
 朝から気まずい思いをした。鈴音は先週から変わらずぼんやりとしながら朝食を食べており、今朝はそれに加えて裕も遠い目をしながら食事をしていた。すでに空になった茶碗から箸で空気を掴み、もくもくと凪いだ目をして咀嚼するのだ。
 完全に昨日の出来事が原因である。
 太陽が虐めてくる中、ふらふらと歩き学校には来たものの、当然やる気は起きない。昨日はあまり眠ることができなかったので、それも原因の一つとしてあるだろう。
 今日は例の数学教師が担当のため、教室全体がたるい雰囲気に包まれていた。
 音を出してゲームをやっている奴までいる。
「はぁ~・・・・・・」
 剣で敵を薙ぎ払うような効果音に、いっそ自分も退治してくれと願いつつも、腕に凭れさせてた顔を窓側に向けた。雲の流れが速く、ちょうど大きな雲が太陽を隠している。
 すると教室の内部にも巨大な敵が現れたように影が射し暗くなった。
 明るい教室が突如陰る瞬間、研はそれが少しだけ苦手だった。慣れ親しんだ教室が、どこか異空間になってしまったかと思えてしまうからだ。
 それは自分だけが阻害された世界。幼い頃から皆に遠目にされる経験が、ただの陰りを研にそう思わせるのかと思われた。
 ブーッ
「っ!」
 すると突然、机の中の携帯が音を立てて振動した。驚きに、腕一面に鳥肌が立つ。振動する音が空洞の机の中で響いてしまい、その音に教卓で寝痩けていた教師の体がピクリと反応した。
 うっすらと目を開けた教師は、ポリポリと頬を掻くと再び眠たそうに目を閉じた。
『危なかった・・・・・・』
 まだ心臓をバクバクさせながら、机の中の携帯を手に取りロック画面を開く。メールが届いたらしく、画面を開くと鈴音から『この週末、一緒に遊びに行きませんか?』というメッセージが届いていた。
 なんだ鈴音からかという意味もなく息を吐き、次にメッセージの内容を理解する。と、同時に研は一体どう返事をしようかと頭を抱えた。
 いつものように、研治になるときは今の状態から眼鏡を取って前髪を除ければいい。しかし、それをどこでするか、だ。平日ならば、こないだのように学校から彼の元へ向かう途中に変装?すればよいが、休日は当然家にいる。そして鈴音は今研と同じ家にいる。時差で家を出たとしても裕や鈴音にどう言い訳すればよいかわからないし、研が着ている服を研治も着ていたら、さすがの鈴音も変に思うだろう。その点でも、平日ならば学生服を着ているから自然に見える。
 画面を開いてしまったため、返事をしないと不自然だろう。
 『ok』と打ちかけたが、やはりよく考えてからにしようと思い、指先を消去ボタンへ向けた。その時前方から咳き込む声が聞こえ、顔をそこに向けるとなんと教師が辛そうに背もたれから起き上がっていた。
 『あっ!』
 堂々と机に携帯を置いて操作しているのを見られたら後で面倒なことになると思い焦って片付けようとしたら、急いだ勢いで送信ボタンを押してしまった。
『ヤッバ・・・・・・』
 すぐに送信取り消しをしようとしたが、次の瞬間鈴音から『やったぁ!楽しみです!!』という文字と『感激!』と言っている動物のスタンプが送られてきた。
 見ていても変わらない画面をじっと見つめ、研は固まる。教卓では痰の絡んだ咳を2,3度繰り返した教師が再び眠りの世界へと誘われている。
 雲を抜け、太陽が爛々と教室にいる研たちを照らす。分厚い窓越しに、まだまだ元気な蝉の鳴き声が微かに聞こえてくる。
 今年の夏は、長そうだ。

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