27 / 57
27
しおりを挟む***
「先週の木曜の夜、俺、その・・・・・・アレをしてたんだけどさ」
「アレ・・・・・・?」
頭の中で本当のことを言おうかどうか逡巡したが、渋々白状することにした。さすがにあけすけには言えず、察してくれることを期待してぼやかしながら言うと、裕が純粋な目で『アレ』とは何かと問いかけてくる。
研は恥辱で消えてしまいたいと思った。恥ずかしくて堪らない。頭に熱が上り、顔の表面だけでなく内部までが熱い。恥ずかしい。どうしようもない恥ずかしさと、どうしてわかってくれないんだ!という苛立ちとがぐるぐると混ざり合って混乱する。だが最終的な責任は自分に帰結してしまい、研は口に出したくない恥ずかしい言葉を口にした。
「アレは・・・・・・その・・・・・・、お、オナニー・・・・・・」
そもそも、口に出したくないほど恥ずかしい行為を、人前でしてしまったかもしれない自分が悪いのだ。
「あ・・・・・・ごめん!その、わからなくて・・・・・・」
逃げたい気持ちに駆られながらも、太股に乗せている拳を強く握り自分が犯してしまった罪を懺悔するように裕に話す。
不思議なことに、恥ずかしくて逃げたいくらいだった気持ちが、疑惑を口にした瞬間スッと軽くなった気がした。今まで一人で悶々と悩んでいたが、やはり自分の外に出したからだろうか。気が楽になった心地がしたのだ。どんなときも優しく話を聞いてくれる裕に、救われた。
だが、自分が鈴音の態度を変にさせてしまった事実は変わらない。それについて、再び気持ちが下向きになってしまった。
「もうダメだ・・・・・・。絶対見られた。だってあいつ、俺を避けるし、なんか態度変だし・・・・・・」
自分でも情けないと思いながらも、弱音を吐いてしまう。
研の言葉に、裕も悲痛な表情を浮かべた。
一度弱音を吐いてしまうと、もうダメだった。鈴音が来てからずっと碌に裕に触れられず、下の熱が溜まって限界なのだということも、口を滑らせてしまった。
同じ空間にいるのに、近くにいるのに、遠い。触りたいのに、それができない。そのもどかしさに、最近苦しんでいる。その鬱憤が、口から溢れ出てしまったのだ。
「俺、もうダメだ・・・・・・。限界だよ、兄さん。こんなに近い距離にいるのに、触ることができないなんて・・・・・・生殺し過ぎる!!」
いきなり手を掴むと、裕は小さく声を出して後ずさった。追うようにして立ち上がり彼を見下ろすと、裕も目を潤ませてこちらを見つめ、乾いた唇を舐める。
その潤んだ瞳に、その濡れた唇に、最近燻っていた気持ちに火が着く。体の内側から獣のような抑えられない衝動が湧き出てきて、研の理性を攻撃する。
下には鈴音がいる。――わかっている。
体が言うことを聞かなかった。
「あっ、やっ――!」
逃げようとする裕の両腕を掴んで拘束し、覆い被さるようにしてキスをしようと顔を近づける。
あと少しで唇がくっつくという時、裕の背後で物がぶつかる音がした。
『だいじょうぶ~?』
次いで下から聞こえてきた、鈴音の寝ぼけているような声にハッとする。
現状に意識を向けると、自分が裕の両腕を掴んでいたことにぎょっとし、すぐにそれを離した。
「ごめん兄さん。俺・・・・・・ごめん。おやすみ」
今度こそ逃げるように顔を逸らし、狼狽えている裕に背を向ける。
「うん・・・・・・おやすみ」
背後からは小さくそう聞こえ、その後静かに扉が閉められる音がした。
『やって、しまった・・・・・・』
顔が熱いのを無視し、研は自分の震える両手を見つめる。ほぼ無意識の状態で裕にあんなことをしようとしていたことに、心底驚く。
「はぁ-・・・・・・」
先ほどまで座っていたため皺ができているベッドに腰を下ろし、組んだ両手を額に当て、大きく深い溜息を吐いた。
熱い部屋に、暗く熱を持った溜息がゆっくりと落ちていった。
0
お気に入りに追加
67
あなたにおすすめの小説
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
なんか金髪超絶美形の御曹司を抱くことになったんだが
なずとず
BL
タイトル通りの軽いノリの話です
酔った勢いで知らないハーフと将来を約束してしまった勇気君視点のお話になります
攻
井之上 勇気
まだまだ若手のサラリーマン
元ヤンの過去を隠しているが、酒が入ると本性が出てしまうらしい
でも翌朝には完全に記憶がない
受
牧野・ハロルド・エリス
天才・イケメン・天然ボケなカタコトハーフの御曹司
金髪ロング、勇気より背が高い
勇気にベタ惚れの仔犬ちゃん
ユウキにオヨメサンにしてもらいたい
同作者作品の「一夜の関係」の登場人物も絡んできます
総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?
寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?
溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。
日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが
五右衛門
BL
月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。
しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──
家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
平凡ハイスペックのマイペース少年!〜王道学園風〜
ミクリ21
BL
竜城 梓という平凡な見た目のハイスペック高校生の話です。
王道学園物が元ネタで、とにかくコメディに走る物語を心掛けています!
※作者の遊び心を詰め込んだ作品になります。
※現在連載中止中で、途中までしかないです。
執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる