天野兄弟のドキハラ!な日常生活

狼蝶

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「先週の木曜の夜、俺、その・・・・・・アレをしてたんだけどさ」
「アレ・・・・・・?」
 研は、真っ赤な顔をして言いにくそうに小声で話し始めた。『アレ』という言葉がわからず首を傾げて聞き返すと、研の顔の赤みがさらに増す。
「アレは・・・・・・その・・・・・・、お、オナニー・・・・・・」
「あ・・・・・・」
 可哀想なほどに赤面している研に、申し訳なさが襲う。現に研は泣きそうになっており、無神経にも聞き返した裕は罪悪感に胸が痛んだ。
「ごめん!その、わからなくて・・・・・・」
 咄嗟に研の自慰を想像してしまい、裕も顔に熱が溜まっていくのを感じた。
「それで、その・・・・・・終わった後に部屋の扉が開いていたのに気づいてさ・・・・・・・・・もしかして、見られちゃったんじゃないかなって・・・・・・鈴音に」
 おずおずと続けた研の言葉に、裕も思わず息を飲んでしまう。自分を置き換えてみると、非常に肝が冷える体験だからだ。
 もし鈴音に自分がその様なことをしている姿を見られていたらと思うと・・・・・・もの凄いいたたまれなさが襲ってくるだろう。
 それを今、研は感じているのだ。
「大丈夫だよ・・・・・・部屋の電気は消してあったんだろ?」
「携帯の明かりは付いてた・・・・・・」
 安心させようと口を開いたが、研はさらに肩を落として項垂れた。
 それにしても、研が何を見ながら自慰をしていたのかが気になる。携帯の明かりが付いていたと言うことは、それを見ながらしていたということで・・・・・・。一体その画面には何が映っていたのだろうか。
「もうダメだ・・・・・・。絶対見られた。だってあいつ、俺を避けるし、なんか態度変だし・・・・・・」
 思考が逸れていると、研がベッドの上で足を抱えて座ってしまい、顔を腕で覆ってしまった。
 そういえばと、研の発言で記憶を呼び起こす。
 確か先週の金曜日の朝食の時、鈴音の様子がおかしかったような気がする。それと研の言葉を照らし合わせると、もしかしたら鈴音は本当に研の自慰を目撃してしまったのかもしれない。
 そう考えると、鈴音の態度の違和感も辻褄が合う。
「俺、もうダメだ・・・・・・。限界だよ、兄さん。こんなに近い距離にいるのに、触ることができないなんて・・・・・・生殺し過ぎる!!」
「あっ!」
 顔を塞いでいた研に突然手を取られ、熱い手の平に包まれる。
 突如現れた研の“雄”の顔に、裕の体温も一気に上がった。まるで獲物を見定めているような鋭い眼差しに、ごくりと生唾を飲む。異様に唇が乾き舌で舐めると、座っていた研が立ち上がって裕に覆い被さってきた。
 大きな口を開き、まるで捕食するかのように思われ裕は思わず身を引いてしまう。が、両腕を掴まれ、唇に近づく研の口をただ見ることしかできない。
「あっ、やっ――!」
 ガタン、と後ろで音がした。後ずさった際に踵が棚にぶつかってしまい、それが音を立てたのだ。
 あまり大きい音ではなかったものの、下から『だいじょうぶ~?』と鈴音の寝ぼけた声が聞こえてきたため、二人は我に返った。
「ごめん兄さん。俺・・・・・・ごめん。おやすみ」
「うん・・・・・・おやすみ」
 目に謝罪の色を浮かべた研が裕の腕から手を離し、背中を向けた。
 裕は脈打つ心臓を抱えながら言葉を返すと、研の部屋を出て扉を閉めた。自分の部屋に入ると、夏だというのにカーペットがひんやりと冷たい。だがそれに比べ、自分の心臓は激しく脈打ち体内は大火事状態であった。
 思わず確かめるように胸に手を当てると、どきっ、どきっ、と大きく、早く鼓動が打たれている。
 ふらふらとベッドまで歩み寄り、裕はその上に座り込んだ。
 研のすぐ側まで来た熱い吐息。射貫かれるような激しい瞳。裕を請う、研の表情。
 裕だとて、性欲を抱いていないわけではない。その様なものも人並みにはあるつもりだ。やはり数日間研と触れ合っていないことで、性欲が溜まっている自覚はあるのだ。
 だが、それを発散させる場と時間がない。鈴音が来てから、いつ彼が部屋に入ってくるかわからない。どこで聞いているかわからない。第一、ひとときムラッときたところで純粋を字で書いたような鈴音の前では、そのような気持ちも薄まっていくのだ。
 でも、やっぱり触れ合いたい。
 『研に触れられない日々は、長くて辛いよ・・・・・・』
 裕は未だに激しい鼓動を感じたまま、暗闇に身を投じた。

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