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シュッ、シュッ、シュッ・・・・・・
赤ペンが、丸を描く。
あの日の決意は冷めることなく、鈴音は裕と研が自室に入ってからも勉強に精を出していた。やる気に満ちあふれているからか調子もよく、今開いているページには多くの丸印が咲いている。
正解ばかりだと、さらに気分はいい。それもこれも研治のおかげだ、と鈴音は閉じた口の端を思いきり引き上げ、彼の顔を思い出しつつ興奮に足をバタバタさせた。
彼のいる学校へ、行きたい。
毎日一緒に学校へ行って、お昼には一緒にご飯を食べて、お昼寝なんかもしちゃったりして・・・・・・
と、理想の学園生活を妄想する。
だが、研治と研は親しいらしく、研治と昼食を共にしたらおまけで研も付いてくるのではないかという疑問が浮かび、一瞬顔を顰める。鈴音が研を蔑ろにすれば、研治の中の鈴音の株は下がるに違いない。だが、折角なのだから、二人きりで過ごしたい。
裕との仲も邪魔をした研が、今度は鈴音の恋をも邪魔をする可能性があることに、非常に腹立たしいと思う。どれだけ邪魔すれば気が済むのだと、鈴音は二階にいる研を睨んだ。
静かに階段を上がって廊下から覗いてみると、裕の部屋は暗くなっておりもう寝ていることがわかる。しかし一方で研の部屋の扉からは淡い光が漏れており、まだ起きていることを示している。
もしかしからスタンドを消し忘れて寝てしまっているかもしれないが、鈴音は研を驚かせて先ほどの気を張らそうと名案を思いついた。
どんな間抜けな顔が見れるだろうか。
そう、意地の悪い思いを胸に、取っ手を静かに下ろしてゆっくりと音を立てないように扉を向こう側に押した。
薄暗い部屋の中を目を懲らして覗き込む。すると研はベッドに横たわって携帯の画面を見ていた。
画面から出される光だけで、他は何も照らす物はない。
キモっ・・・・・・
驚かした後にそう言って笑ってやろうと思い、部屋の中に足を踏み入れようとした瞬間、暗い部屋に『んっ、』という艶やかな声が響いた。
「っぅ、・・・・・・ん、ん・・・・・・」
よく見ると、研の右手はズボンの中に入れられており、その部分が小刻みに揺れているのがわかる。その動きに合わせ、色っぽい声が漏れていた。
それは自分もするためよくわかる行為。一気に顔に熱が溜まるのを感じる。
絶頂が近いのか早くなる手の動きに、思わず鈴音も見入ってしまっていた。そして訪れた絶頂、その後の余韻。
開けかけた扉もそのままに、思わず駆け出した。階段を駆け下り、ソファへと身体を投げ込んで用意されていたタオルケットを頭から被る。心臓が、ばっくばっくと震えていた。
い、今のって・・・アレ、だよね・・・・・・
今さっき自分が見た光景が、信じられないもののように感じられる。全く“男”として認識していなかった研が、アレをするところを見てしまったからだった。
あいつも、あんなことするんだ・・・・・・。
「っ!」
ギィイと扉の開く音の後に、階段を降りる足音が聞こえてくる。この足音は、研のだ。
もしかして、見ていたのバレた?と思いきり目を瞑って自分の身体を抱きしめじっとしていると、その足音は洗面所へと向かっていった。
朝、ぼぅっとしながら朝食を食べる。裕が用意してくれたのに、機械的に口に運び味もよくわからない。
昨日はあれから、全く眠ることができなかった。研のアレが衝撃的すぎて。
正直、ある意味研のことはナメていたのだと自覚した。どこか、『男』として落ち度があるような存在として。
だが、昨夜突然見せられた彼の『雄』の姿に、心臓が今までになく脈を打っている。
「おはよぅ、兄さん・・・・・・」
「おはよう、研」
「っぶ!!」
昨夜のことを思い返していると、眠れなかった元凶が寝ぼけた声を出して階段から降りてきた。裕が研の場所に皿を置き、朝の挨拶を返している。
鈴音は思わず飲んでいたジュースを吹き出してしまった。裕に心配され大丈夫大丈夫と言って零したジュースを拭い、食べかけの朝食を再開しようとしたとき、隣に座る研が鈴音に向かって身体を寄せてきたため、反射的に『近づかないでっ!!』と叫んでしまった。
「うわっ、・・・・・・って、何だよいきなり!!」
「っ!・・・・・・」
鈴音の態度に驚き身を引く研の、いつもと変わらない声。咄嗟に見てしまった研の、いつもと同じ顔に昨日の彼の雰囲気を重ねてしまい、顔を逸らした。
ヤバい・・・。なんで、こんなに顔が熱いの!?
鈴音は、その場から逃げるように自分に与えられた和室へと走って行った。
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