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 面倒くさい・・・・・・。
 今日も今日とて補習。教室の中は外が嘘みたいに冷房が効いていて涼しい。
 だが窓の外の、夏真っ盛りな空気も幻のように感じられた。本当だったら暑い中、裕と一緒にその暑さを楽しむべくアイスを食べに行ったり、ホラー映画を観て震えたりしていただろうに・・・。なんでこんな箱のような場所で課題に向かわなければならないのか。
 と考えては、結局成績の悪い自分に責任が帰結する。
 教室を歩き回る迷惑な教師が近くを通ったため、研はペンを持ち直し悩んでいるフリをした。通り過ぎたのを確認すると、再び窓の外へ顔を向ける。
 ガラス窓からは微かに蝉の鳴く音が聞こえてきていた。そして元気な野球部員たちのかけ声なんかも聞こえてくる。
 研はもう一度、教師に気づかれないように小さく溜息をつき、問題に向き直った。

 またあんなに課題を出しやがって・・・・・・。
 明後日までにやってこいと言って課された問題に、研はぐったりとしながら正門まで歩いていた。前方に目を向けると門付近に人の集団がいるのが目に入り、何だろうと眺めていると、何とその輪の中心は見覚えのある人物がいた。
「いや、だから――」
 もうすぐ高校生だとは信じられないほど高めの声。中心にいたのは鈴音だった。
 何やら生徒たちと揉めているらしい。いつも気が強く研に何かと文句を言ってくる堂々とした様子は、今の鈴音にはない。
 顔色も悪く、手が胸の前で握られている。目の前にいる生徒たちに、怯えているようだ。
「先輩たち、何をされているんですか?」
「はぁ?何――って、生徒会長の弟のダサ男くんじゃーん」
「あっは、マジだ。何何?格好つけ?」
「別にお前に関係ねーし」
 鈴音を囲んでいたのは二年生だったようで、彼らから一斉攻撃を受ける。彼らの隙間から、鈴音が心配そうに眉を下げてこちらを見ていた。その目が助けを求めているような気がして、研は引き下がることはせずに前に出る。
「先輩、そいつ俺の従兄弟なんですけど。何か用ですか?」
「・・・・・・っはぁ!?この子とお前が、従兄弟ぉ!?」
「えっ、うっそぉ・・・・・・」
「嘘じゃないし!僕、研を待ってただけだから!!研、早く行こっ」
「え、あっ、ああ・・・」
 意表を突かれたじろいでいる間に、彼らの隙間から飛び出した鈴音がまるでべっと舌を出すような態度で言葉を放ち、腕を取られて引っ張られる。
 後ろを振り向くと、彼らがポカンとした顔をしてこちらを見ていた。

「おいっ、おい鈴音!もういいだろっ」
 強引に腕を引っ張られ、学校からかなり離れたバス停のある場所で引かれる腕を引いた。鈴音は素直に足を止めて研の腕から手を離したものの、そのままの状態で固まってしまってビクとも動かない。
 声をかけるが、俯いていて表情も見えることができなかった。
 おそらく複数人の、しかも自分よりも背丈の高い男たちに囲まれて、怖かったのだろう。以前少しだけ裕から聞いたことがあるが、鈴音は幼少期に一度大人の男に連れて行かれそうになり危ない目に遭ったことがあるらしい。
 もしかしたら、さっきのでそれを思い出してしまったのかもしれない。
 落ち着くまでしばらくの間このままでいようと思い、鞄を背負い直して静かに待つ。すると鈴音は息を飲んだかと思うといきなり両手で顔を覆いだし、その突然の行動に研は無意識のうちに彼の前に回り込んでしまった。
「どうした?・・・・・・顔が、赤いぞ?」
 依然俯いたままで顔色を見ることができなかったので下から覗き込むようにして窺うと、鈴音は呆然としたような表情で真っ赤になっていたのだ。
 まるで顔を覚ますように添えられた両手は、熱が伝播したのかほんのり赤くなっている。
 もう一度、『どした?』と声をかけると、鈴音は両手を下げて研の目を見、少しにやっと笑ったかと思うと走って研の横を通り過ぎて行った。
「うっさい、変態!」
「はっ!?」
 一体何のことを言っているのかわからず、反射的に走る鈴音を追いかける。またヘンな言いがかりを付けやがって・・・と内心で溜息を吐きながらも、元気な姿を見て安心したのであった。

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