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「じゃあ研、おやすみ」
「うん、兄さんも。ゆっくり休んでね」
そう言って、研と裕は各自自分の部屋に入っていった。
鈴音は客間に布団を敷いて、すでに就寝している。
あの日から鈴音とのやり取りは続いており、“友達”になってからはさらに親密度が上がって今では気安く文字のやり取りをしている。時々わからない課題などの写真を送ってくるので、仕方ないなと思いながらも教えてやったりしていた。
研は扉を閉めると、はぁ~~と大きな溜息を吐いて項垂れた。しかし、鈴音がここに来てからというもの、全く裕と触れ合う機会がない。
下半身にも相当我慢を強いているが、何より心が渇ききっていた。
裕が、足りない。
今日出された課題でもやるか、と研は干からびた心で机に向かった。
「っぅ、・・・・・・ん、ん・・・・・・」
明かりを消し、真っ暗な部屋には携帯の画面が発する光だけ。その画面の中では、裕が無垢な笑顔で笑っている姿が映っている。
その光に照らされた研の顔は、悩ましそうに、切なそうに歪められていた。眉は八の字に、そして下唇は軽く食まれており、裕が見ればすぐさま自分の身体を差し出してしまうほどの色気が出ていた。
ズボンに差し込んだ手は絶えず動かされ、中から微かな水音が聞こえてくる。
研は快感に出そうになる声が漏れないように、唇を噛んで息を殺していた。その反動でか鼻息は荒くなり、呼吸の音がやけに大きく聞こえる。
濡れた下半身はぬるぬると滑りよく、もうすぐ訪れる絶頂に手の動きが速くなる。
「っつ、・・・・・・っぅ!」
たどり着いた頂に頭が真っ白になり、目の前には火花が散る。突如脱力感に襲われ、身体をだらりとベッドに伏せた。携帯も手から滑り落ち、ベッドの上に柔らかい音を立てて落ちる。
右手を、差し込んでいたズボンから抜き出し顔の前に翳すと、手の平は白い液で汚れていた。
気怠さに大きく息を吐き、手を拭ってもう寝ようと思い立ち上がってふと顔を上げると、なんと扉が少し開いているのが見えた。
ヤベッ!開いてた・・・・・・!!?
もしや聞こえてたりして・・・と不安と緊張が入り交じる中そっと扉を開けて様子を窺うと、裕の部屋も明かりは消されていて眠っていることがわかった。
一先ず安堵した研はそのまま静かに扉を開け、ベタつく手を洗いに階段を降りて洗面所へと向かっていった。
「おはよぅ、兄さん・・・・・・」
「おはよう、研」
「っぶ!!」
朝、珍しいことにすっきりとした頭で覚醒した研が、朝ご飯の匂いが漂うリビングに降りてすでに朝食を取っていた二人に挨拶をすると、爽やかに微笑んでくれる裕に対し鈴音が飲んでいたフルーツジュースを吹いた。
「ぅおっ何だよ鈴音、びっくりした」
「鈴、大丈夫?」
「だ、大丈夫大丈夫!気にしないで」
心配そうにティッシュを渡す裕に、鈴音は誤魔化すように笑って言った。いつもは何かと絡んでくる鈴音だが、なぜだか今日は大人しい。研のことを見ようともしてこない。
その違和感に首を傾げながらも、研はサラダにかけるために鈴音の横にあるソルトの入った瓶に手を伸ばした。
「近づかないでっ!!」
「うわっ、・・・・・・って、何だよいきなり!!」
「っ!・・・・・・」
するといきなり叫ばれて身体を避けられ、驚きにこちらも大声を出してしまう。鈴音は目を泳がせており、赤くなった顔を隠すように横を向いたかと思うと何も言わずに席を立ってしまった。
鈴音を追うように席を立った裕が、『鈴、どうしたの?具合悪い?』と言いながら後を追って行く。二人の足音が遠ざかる中、研は憤りを残しながら手に取ったソルトの瓶を傾けサラダに振りかけた。
一体、何だったんだあれは。メールでは甘えてくるというのに。
『研治』と研との差をまざまざと見せつけられたようで、研はいつも以上に腹が立った。
朝から嫌なことが起きたことに対する苛立ちを抱きつつ、研は今日も補習のためサラダを口に放り込んだ。
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