天野兄弟のドキハラ!な日常生活

狼蝶

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 ☾ ☾ ☾

「鈴―、お茶、入ったよー・・・・・・って、寝てる・・・・・・」
 あれから裕は、二人に混ざってゲームに勤しんだ。裕は機械的なものの操作が壊滅的であり、そのためゲームが苦手な研にもボロ負けする。
 絶対さっきの問題集の方が簡単だ・・・・・・そう思っているのは裕だけなのだが。
 ゲームが一通り終わるとテーブルに異動し、飲み物と菓子を携えて会話に没頭した。裕が高校に入学してから、実家には夏期休暇や年末年始などの長期休みしか帰っておらず、当然鈴音ともしばらく会えていなかった。そのため、鈴音は今までの学校でのことなどを裕に聞いて欲しくて溜め込んでいたのだった。
 そして度々話題を振られる研は、『研治』として適当に返答をしており、裕はいつバレるか気が気ではなく冷や汗が止まらなかった。
 たくさん話したから疲れたのか、鈴音の話すスピードが遅くなっていき、徐々に瞼が降りていくのを必死に開いてはまたうとうと・・・・・・というのを繰り返す。
 そろそろ冷めてきたお茶を入れ直そうと、裕が湯を沸かして紅茶を入れてリビングに戻ると、鈴音はテーブルに突っ伏して寝ていた。実家からここまでかなりの距離があり、おそらく今朝早くに家を出て来たのだろう。疲れが溜まっていたに違いない。
 さて、寝かせておくべきか起こすべきか・・・・・・と考えるが、その場にいない研がどこに行ったのか目線を動かして探していると、足音が階段から聞こえてきた。
「ふ~・・・・・・やっぱ兄さん以外の前であの姿でいるのは、なんか居心地悪いわ」
 『やっと着替えられたー』と言って降りてきたのは普段のダサい研。その姿を見てほっとしたのは、これで他の人が研に好意を抱かなくなると確信したとき以来だ。
 目を覚ました鈴音は、寝ている間に研治が帰ってしまったことに酷くがっかりするだろう。そう思いながら、夕日の差し込む窓にカーテンを引いた。

 ***

「えーー!!?帰っちゃったのぉ」
「うん。鈴が起きてからにしようと思ってたらしいんだけど、なかなか起きないから」
「起こしてくれればよかったのに-・・・・・・って、研帰ってたんだ」
「んだよその嬉しくなさそうな顔」
「だって嬉しくないもーーん。あーあ、研の代わりに研治さんがいればいいのに」
「んなこと言ったら、あいつが困るだろ」
 研は元の人と接する時用の姿に戻ったからか、先ほどよりもちゃんと言いたいことを話せている。鈴音のことは苦手なのらしいが、裕には使わない乱暴な言葉も使っているため、そのように関われる鈴音が昔から羨ましい。
 小さい頃は声も小さくおどおどしていて、今でも学校では目立たないようにそうしているのを見かけるが、『嫌い!』を前面に表してくる鈴音の前だとそれに反抗するように研も荒々しく喋るので、それが新鮮に感じられるのだ。学校でもこんな風に臆せず話せばよいのに。そうすればナメられずに済むのに、と思うが、そうしたらきっと強気なメガネ男子を好む女子などの好みの範囲に入ってしまうので、やはり学校ではそのままが良いと判断する。
「あっ、僕さっき研治さんとメルアド交換したもんねー」
「あっそ、良かったな」
「研とはしてやんなーい」
「あっそ、良かったな」
「てきとーに返すなー!」
 本当に、端から見れば仲が良い。鈴音は本気で研のことが嫌いなわけではないのだろう。おそらく、裕と取られて悔しいという一種の反抗で。
 とても子どもっぽい鈴音を研が適当に相手をし、テレビの画面に視線を注いでいた。裕には絶対にしない素っ気ない態度。それに優越感を抱きつつも、心のどこかでは羨ましく思う。そんな面倒くさい心境になり、裕は頭を振って夕飯作りに集中した。

「ん、おいしーー!!やっぱり裕兄ちゃんのご飯、めちゃくちゃおいしい!!」
「よかった。いっぱい食べろよ」
「っあ!お前俺のとこから取んじゃねぇ!!」
「研はいつも裕兄ちゃんの料理食べてるんだろ!?っていうか、研には裕兄ちゃんのご飯はもったいないでーす」
「んだとこのクソガキ!」
「一つしか年、違いませんけどー?」
「まぁまぁ二人とも、たくさんあるからケンカしないで」
 これがこれからしばらく続くと考えるだけで、頭が痛い・・・・・・。それに、鈴音がいる間は研とのエッチもできない。過剰なスキンシップだってバレるだろうし、そもそも鈴音の前では甘えてきてはくれないのだ。
「そうだ、急だったから来客用の布団、押し入れの中なんだけど・・・・・・」
「だったら今日は裕兄ちゃんと一緒に寝る!」
「はぁ!?ソファで寝ろよ」
「うるさいダサ男!研は関係ないでしょ」
「じゃあ、俺がソファで寝るから鈴が俺のベッド使って」
「だったら兄さんが俺のベッド使えよ。俺がソファで寝る」
「なんでそうなるの!?裕兄ちゃん、僕のこと嫌いになった・・・・・・?」
「そうじゃないよ。ただ、鈴ももう中学三年生だろ?二人じゃあ狭くて寝られないと思うよ」
 『狭くてもいいもん・・・・・・』と、むむぅと膨れる鈴を宥め、風呂が沸いたからと先に勧める。
「ったく、中三にもなって一人で寝れねぇのかよ」
「うるさい!!ドダくて鈍くさい底辺男のくせに!!」
鈴が持ってきた荷物の中からパジャマを取り出し脱衣所へと向かう途中、研が頬杖をつきながら最期の追い打ちをかけるように言うと、鈴は大きな声で研を罵倒してリビングから出ていった。
『こわっ』と身震いする研。普段言わないようなことを鈴音には言うのが少しだけ妬ましいと黒い感情を抱いてしまったが、おそらく妬いてくれたのだろうと思うとじわじわと嬉しさがこみ上げてくる。
しかも温かい目で研を見ると目が合った研が顔を染めて俯いたので、さらに胸が嬉しさにきゅんと鳴いた。

 風呂場の扉が閉められた音を確認すると、研が顔を近づけてくる。口に手を添える様子は、何か小声で話したいのだろう。
「俺のベッドで、いっしょに寝よう?」
「っ!!」
 近づけた耳元に小声でそう言われ、一気に身体の熱が上がった気がした。
 研は裕よりも身体が大きく、こちらに引っ越してくる際に大きめのベッドを購入したので、研のでは二人で寝ることができるのだ。今のベッドを選んだ理由は、研の身体の大きさ以外にも二人で寝られるようにという想いがあったのだが。
 きっと二人でベッドの上に上がったら、ただ寝るだけでは終わらないと裕は思う。頬を赤くしている研も、同じことを思っているはずだ。可愛いよりも格好良い弟の恥じらった上目遣いと共に『ダメ?』とか細く聞かれ理性を落としかけたが、裕はにこりと無理矢理に笑って冷静さを取り戻そうとした。オレンジ色の明かりが漏れる風呂場からは、水の流れる音と鈴音の鼻歌が聞こえる。
「久しぶりに会ったんだし、少しは鈴の我儘を聞いてあげることにするよ。狭いと思うけどね」
 長い間放置され水位を知らせる線の入ったカップを盆に乗せ、裕はそれらをシンクの中に静かに置いた。研はちぇっと小さく舌打ちを零し、先ほどの鈴音のようにむくれた顔をしたが、裕はそれを見てまた胸にじわじわとした喜びを感じた。

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