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昼食後すぐ、『研治さん、連絡先交換しよ』と鈴音に半強制的に連絡先の交換をさせられ、その後ソファに座って共にゲームをした。
当たり前だが鈴音は研とは連絡先の交換をしておらず、だからこそバレなかったともいえる。表情はわからなかったものの、連絡先を登録した後の『よかった、ありがと!』という喜色の滲んだ声に、なんとなく罪悪感が積もる。
ゲームも、普段ゲームなどしない研にとっては苦手な分野だったが、鈴音のはしゃぐ姿に断る勇気が出なかったのだ。
裕はすごく冷たい顔をして『じゃあ、俺は上で勉強しているから』と自室に行ってしまった。絶対に怒っている。
もしかしたら、鈴音ともっと話したかったのかもしれない。鈴音と会うのは久しぶりなのだ、きっとそうだと心がズキリと痛んだ。
裕と鈴音の再会を、この新参者が邪魔をしている形になっている。研は裕に対しても申し訳なさが積もっていった。
それにしても、鈴音はよく喋る。あまりにもずっと喋るものだから、飲み物もよく飲み、今はレストルームに行っている。
悪い言い方をするが・・・・・・今がチャンスだ。
研は急いで音を立てずに裕の部屋に飛び込み、机に向かっている裕に向かって突進した。
「兄さんっ、ごめんっ!」
自分でも眉が下がっているのがよくわかる。
裕はポカンとした顔をしており、研はさらに『俺の誤魔化しが下手だったから、こんなんなっちゃって・・・・・・。せっかく久々に鈴音に会えたのに、もっと話したかったよね。兄さんと鈴音の時間、奪っちゃってごめん・・・・・・』と謝った。
すると裕はふふっと笑ったかと思うと、研の頭をふわりと撫でてきた。
「なんだそのことか。全然気にしてないよ」
「ほんとに?」
「だって、鈴は今日からここに泊まるんだよ?時間はたくさんあるじゃないか」
本当に怒っていないのか確認すると、ふにゃりと柔い顔で髪を撫でられ、ほっと安心する。
と同時に、ある問題が浮上した。
「兄さん、俺、どうしよう。俺はいつどうやって『研』に戻ればいいの・・・?」
「うっ・・・・・・どうしようか。今、鈴は?」
「トイレ・・・・・・めっちゃ喋るからジュースがぶ飲みしてて」
「その間に研になってしまえば良かったんじゃないのか?研治は帰ったことにして」
「ハッ!!そうじゃん!!どうしよっ、もう出てきちゃうっっ・・・・・・。兄さんっ、なんか睡眠薬とかない!?」
「ダメだよ鈴に睡眠薬とか!第一この家にそんな薬はないよ」
「えっ、どうしよう!?」
「研、落ち着け」
パニック状態になっていると頬に裕の温かい手が当てられ、優しく撫でられたため意識がそちらへ向く。その触り方は、二人の甘い時間だけのもの。
「に、兄さん・・・・・・?」
裕の、誘うような色っぽい目に吸い込まれそうになり、思わずその唇を吸いたい衝動に駆られる。
無意識のうちに顔を寄せてしまい、あと少しで裕の唇に触れる。その時――
「あれ、ここにいたんだ。何してるの?」
背後から掛けられた鈴音の無垢な言葉に背筋が凍った。
目の前の裕も、目を泳がせており落ち着きがない。
「ん?ああ・・・・・・、『研治』が何やってるの?って来たから、今やっている問題を見せていたんだよ。なっ、『研治』?」
「へっ、あ、ああ!にっ、裕はこんな難しいのやってて、凄いなぁ~・・・・・・」
まん丸な汚れのない瞳で見つめてくる鈴音に、裕が柔らかい笑顔でさらっと嘘を吐く。目配せされ、研も下手ながら裕の話に乗った。すると『へぇ~、裕兄ちゃんどんなのやってるの~?』と近づいてきた鈴音に裕がいつもと変わらない様子で手元の問題集を見せる。
「うぇっ、全然わかんない」
「ははっ、それが普通だよ。やることは一通り終わったから、俺もゲーム混ざっていい?」
裕がそう訪ねると、頬を染めた鈴音が嬉しそうに『うん!』と頷き、『早く行こー』と階段を降りていった。
やっぱり、鈴音は裕のことが好きなんだ。幸福感に満ちた鈴音の顔を見て、研はそう思った。
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