5 / 57
5
しおりを挟む☆ ☆ ☆
急がないと・・・・・・急がないと麺が不味くなる・・・・・・っ!
研は袋に入れられたつゆを手に持ち、家に向かって急いでいた。あのまだ遠くに見える角を曲がったらあとは家だ・・・・・・というところでポケットから振動が伝わってくる。
速度を落し、歩きながらポケットから携帯を取り出すと、それは裕からだった。何か追加で買うものがあるのかな・・・と思いメールを開くと、なんとここに鈴音が来ているらしい。
「マジか・・・・・・」
鈴音というと、嫌な記憶が蘇る。
鈴音と研は従兄弟同士だが、厳密に言うと研とは赤の他人だ。裕との従兄弟であり、自分とは何の繋がりもない。
鈴音を苦手だと感じる理由はそれだけではなく、何故か初対面時から睨まれ裕を独り占めされることもその原因だった。研と二人きりのときは牙を剥いたように毒舌のオンパレードのくせに、裕がいるときはわかりやすく猫を被って裕にかまってもらうのだ。
鈴音は裕のことが好きだ。それは態度を見ればわかる。
研にとって鈴音が驚異なのは、彼には研にはない『可愛さ』があることだった。鈴音は小さな頃から女の子と見違うほど顔立ちが可愛らしく、それは成長した今でも健在である。そんな可愛さで裕に迫られたら・・・・・・研には一溜まりもないだろう。裕と恋人となった今、その座は死守しなければならない。せっかく誰にも邪魔されずに裕と過ごせるように二人暮らしになったのに、また邪魔をしてくるなんて・・・と、研はメールを読みながら眉根にしわを寄せた。
それに裕からのメールに『他人のフリを』と描かれていることも、混乱を呼んだ。
普段は瓶底メガネに前髪を下ろしている状態だが、今はそれらはなく顔を隠しているものは何もない。ド近眼なことからどれだけ鏡に顔を近づけても、自分の顔はぼんやりとしか掴めず一体自分はどんな顔をしているのかよくわからなかった。
だが、おそらく自分は醜いのだな、と研は思っていた。
研は、昔から人との付き合いができない。今でもよく覚えているのは幼稚園でのこと。自分の周りには人は寄りつかず、声をかけようとしても避けられていた。
自分の根暗にさらに拍車がかかったのは小学校に入学してすぐのことだった。好きになった女の子に声をかけようとしたところ、その子がきゃっ!と悲鳴を上げて逃げて行ってしまったのだ。そのショックは大きかった。
それから人の目が怖くなり、前髪を伸ばしていたら目が悪くなっていって、今ではメガネも顔を隠す一役を買っている。
そうか・・・・・・。研は裕の言わんとしていることがなんなのか、わかったような気がした。
おそらく、今の何も隠していない自分と研が同一人物ということが鈴に知られたら、醜さにさらに研が嫌われてしまうことを心配しているのではないか。
きっとそうだと考えていると、角を曲がった瞬間あちら側から走ってきた人物と思いきりぶつかってしまった。
「わっ!」
「大丈夫ですか?」
手から袋が落ち中身も出てしまったが、先に尻餅をついてしまった相手に手を伸ばし大丈夫か尋ねる。すると、どこか聞いたことがあるような声が聞こえた。
「だいじょうぶで――って、・・・・・・へっ!!?」
あれ・・・・・・その声は鈴音・・・・・・って危なっ!思わず名前呼んじゃうところだった・・・・・・そう思いながら、研の手を借りて起き上がった鈴音が無事だとわかり、ほっと胸をなで下ろす。
無事に立ち上がったので手を離そうと引いたが、何故か力を込められこちらからは離せない。
「・・・・・・ん?」
「あっ・・・・・・!いや、すみません!お兄さん、イケメンですね!!」
「へっ!?」
メガネを掛けていないためどんな顔をしてるのかわからないが、鈴音が突拍子もないことを言い出したので思わず変な声が出てしまった。
「あっ!お兄さんの買ったものが・・・・・・すいませんっ!・・・・・・あれ?だしつゆ・・・・・・」
パッと手を離されたかと思うと手を離したときに転がったのだろう、買ったつゆのボトルを拾ってくれたのか背後でしゃがみ込んでいる鈴音を振り返りお礼を言おうとすると、袋から投げ出されていたつゆを元通りにして手渡してきた鈴音がそのままガシィ!と手を掴んできた。
「僕、これからつゆを買いに行こうと思ってたんです。これ、お兄さんの落としてしまったの僕のせいだから、これは僕が貰います。その代わり、今からお兄さんの分買いに行きましょう!僕が払います!!」
矢継ぎ早に言われ、そのまま手を引っ張られて歩き出す。
話を全然聞かない!鈴音はいつもそうなのだ。行動一つ一つが素早く、だが人の話を全く聞かない。鈴音の行動からして、おそらく彼が買おうとしているのは天野家へのつゆだ。だとしたらもうそれは研が買っているので、さらに買ったら二本になってしまう。そうするとまた賞味期限以内に使うことができず無駄に・・・・・・強引に引っ張られ歩きながらぐるぐると頭の中で考え、もうどうすれば良いかわからなくなり、研は一先ず鈴音を引き留めた。
「どうしたんですか・・・・・・?」
「え、と・・・・・・これ、すぐそこの天野ン家に持っていくやつで、その・・・急がないといけないんだ」
わっ、しまった!と思ったが、もう遅い。テンパって“天野”というワードを言ってしまった。だがまだ自分が研だとバラした訳でもないので、セーフだろう。
このまま掴まれている手を抜いてフェードアウトしよう・・・・・・と思っていると、研を掴む手にさらに力が込められた。
「お兄さん、裕兄ちゃんの友達!?僕、今日からそこに泊まるんだ!」
はぁ!!?と思わず裏返った声が出そうになる。
泊まるだってぇ!?ただでさえ苦手な鈴音が来ただけでもしんどいのに、これからあの二人の愛の巣に宿泊するなんて・・・・・・期間もよくわからないし・・・・・・。最悪だ、と研はげっそりしながら、またもや『じゃあ一緒に行こ!』と行動の早い鈴音に腕を取られ引きずられるのだった。
0
お気に入りに追加
67
あなたにおすすめの小説
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。
白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。
最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。
(同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!)
(勘違いだよな? そうに決まってる!)
気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。
幼馴染は何故か俺の顔を隠したがる
れおん
恋愛
世間一般に陰キャと呼ばれる主人公、齋藤晴翔こと高校2年生。幼馴染の西城香織とは十数年来の付き合いである。
そんな幼馴染は、昔から俺の顔をやたらと隠したがる。髪の毛は基本伸ばしたままにされ、四六時中一緒に居るせいで、友達もろくに居なかった。
一夫多妻が許されるこの世界で、徐々に晴翔の魅力に気づき始める周囲と、なんとか隠し通そうとする幼馴染の攻防が続いていく。
塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
なんか金髪超絶美形の御曹司を抱くことになったんだが
なずとず
BL
タイトル通りの軽いノリの話です
酔った勢いで知らないハーフと将来を約束してしまった勇気君視点のお話になります
攻
井之上 勇気
まだまだ若手のサラリーマン
元ヤンの過去を隠しているが、酒が入ると本性が出てしまうらしい
でも翌朝には完全に記憶がない
受
牧野・ハロルド・エリス
天才・イケメン・天然ボケなカタコトハーフの御曹司
金髪ロング、勇気より背が高い
勇気にベタ惚れの仔犬ちゃん
ユウキにオヨメサンにしてもらいたい
同作者作品の「一夜の関係」の登場人物も絡んできます
愛され末っ子
西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。
リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。
(お知らせは本編で行います。)
********
上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます!
上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、
上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。
上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的
上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン
上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。
てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。
(特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。
琉架の従者
遼(はる)琉架の10歳上
理斗の従者
蘭(らん)理斗の10歳上
その他の従者は後々出します。
虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。
前半、BL要素少なめです。
この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。
できないな、と悟ったらこの文は消します。
※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。
皆様にとって最高の作品になりますように。
※作者の近況状況欄は要チェックです!
西条ネア
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる