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 ガシャンッ
「ヒッ!」

 兵士を三人侍らせジュリタリアが俺のいる檻に近づいてくる。顎で指図された兵士の一人が前に出て檻の鍵を開け、上半身を折って中へと身体を滑り込ませてきた。
 もう俺は怯えきった子羊状態だ。

「さぁ、イキましょう?」

 首を傾けにこりと可愛らしい笑顔でジュリタリアはそう言うが、近づいてきた兵士に無理矢理立たされまた引きずられるようにして檻の中を出た。
 あれっ?なんだかさっきから俺、しおらしくない?って思うでしょ。モブ族に襲われても反撃したし、モブたちが追ってきても逃げ切って戦ったし、俺ってばやればできる子なのだが・・・、如何せん、近衛兵全員は多すぎるでしょ・・・・・・。それに、ここの国の王族を敵に回すのも、不味い気がするし・・・・・・。俺の王子という立場としてね。
 あとは、単純にモブ族をどこへ連れて行って王族が何をしているのか知りたかったから!だから僕ちゃんは大人しくしているのです!内心めっちゃビビってるけど。

 あんあんいってる中を通過し、先ほどジュリタリアが出ていた扉に向かって歩いていく。いよいよその扉の前まで来たとき、俺は緊張のため自分の足が震えていることがわかった。
 そして、目の前で毒々しい真っ赤な扉が開けられた。

「う、うぎゃぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」

「うがぁあ゛あ゛あ゛あ゛!!!」


「いったい、あなたは・・・なにを・・・・・・」

 地面から浮き出ている大きな魔法陣の上にモブだろうか、人が横たえられ、その回りを複数の怪しい服装をした人間が囲んで何やらブツブツと唱えている。その魔法陣からは眩しいほどの光が吹き出しており、その上にいるモブは喉の筋を剥き出しにして泣き叫んで苦しんでいる。
 そして苦しんでいるモブの隣には、同じような状況の人間が苦しみの叫びを上げていた。
 とてもじゃないが、直視できない。こいつらはこの部屋で一体何をやっているんだ。

「悪魔をねぇ、取り出せないか、実験しているの」

 俺の問いに、何てことないというようにジュリタリアが応えた。

 その後に彼女の口から出てきた話を、俺はどこか違う世界のことを聞いているような心地で聞いていた。
 ジュリタリアは、すんごく・・・・・・エッチが好きらしい。それは自分で言っていた。(なんか独りでに話し始めたよ)
 人一倍精欲が強いのに、常に清廉潔白でいなければならない名門貴族の令嬢として育ち、至極窮屈な生き方をしてきた。それが報われ王妃に迎えられたのだが、当然年上の王との性交だけでは満足できない。裏で愛人を作りまくり、ひっきりなしに交わっていたりもしたが、なかなか自分好みの美青年でなおかつ精欲も強い男はいなかったのだとか。そこで思いついたのはモブ族に宿った悪魔。それをどうにかしてモブ族の個体から取り出し、自分のお気に入りに移せないかと常軌を逸した実験が始まったのだった。
 何度も何度も失敗し、その度に無理矢理悪魔を引きずり出されそうになったモブ族や魔法に耐えられなかった者の亡骸が増えていく。それ以外にも、大量に検挙されているモブ族たちの行く末としては彼らは快感に従順なため、美味く調教してその方面での金持ちな物好きたちに言い値で売って私腹を肥やしていたのだという。何て奴だ、セオドアの母さんよ!!

 最近モブ族から悪魔を引き離す魔法が成功したようだが、その一方で今度は欲望に忠実になっている成長しきった悪魔を宿らせる魔法には健康で強靱、なおかつ魔力量も多い人物が必要なのだという。しかし、その条件を満たしさらにジュリタリア好みである美丈夫は、もう既に行った儀式で使い物にならなくなってしまったそうである。
 途方に暮れていたところ、目を付けられたのが俺、なのだそうだ。

 モブ族だった体育教師に代わって就任した新任の教師であるサドイ。先に受けた検査では光の魔力保持者でありその魔力量も文句なしに高い。最初は眼鏡をかけたダサい男かと思ったが、街で会った際に眼鏡なしの顔を見てそれが王妃のドストライクの範囲内だったというわけだ。王妃様、趣味悪いね。
 ってか、あの時もうすでに俺の素性を知っていたのか(王子だということは知らなかったみたいだけどね)

「貴方が王族でラッキーだったわ・・・王族の持つ光の魔力って強大ですものね。きっと悪魔に耐えられるはずだわ。それに、この顔もすっっごく好みだし」

『う、ウエェ・・・・・・』ねちっこく顎を撫でられて思わず内心で吐く真似をしてしまう。ジュリタリアさん、自分で言ってたけど、相当ビッチなんだろうな・・・・・・。王様とのエッチで満足できないって・・・王様も可哀想だな。毎回搾り取られてそう・・・・・・。つーか、セオドアが会ったときにもうエロかったのは、この人のせいなんじゃねーのか?エッチな遺伝子、的な。

「さぁ、始めるわよ」

 そう言って、いつの間にか苦しみの声を上げていたモブたちは運ばれていったようで、少し焦げ目のある地面に向かって促される。俺から離れていったジュリタリアが怪しい服装の人間に近づき、その男からなにか布を受け取った。

 そっそれは・・・・・・!!モブ族が悪魔を召喚する際に使う魔法陣が書かれた布だっ!
 どうしてこんなところに?

 俺の向ける視線に気がついたのだろう、ジュリタリアが『そういえば貴方、モブ族の長だったそうね』とヒラヒラと布を見せつけるようにしてこちら側に広げた。

「何故これがここにあるのか、知りたい?」
 彼女の意地の悪い笑みに、睨みを利かせつつ頷くと、彼女の笑みがより一層深みを増した。

「ニニック・・・・・・とか言ったかしら、貴方の後に長になったらしいモブなんだけど。あの男がなんだかお目当ての子がいるらしいっていう情報が耳に入ってね。王都の包囲網を緩める代わりに私の欲しかったこの魔術布をもらったのよ。ふふふ・・・・・・、良い取引だったわ。
 それにしても、貴方一応この儀式を受けたことあるのに、あいつらみたいにならなかったのが不思議よね。きっと失敗だったのだわ・・・、今度はちゃんと悪魔を召喚してあげますから」

 よくこんなにもペラペラと喋れるもんだな。モロバレしちゃってんじゃん。
 ってかマジかー。モブ族と取引って、怖いわこの女!しかも!シャムルちゃんがよく狙われたのも、王都の人たちが大勢被害に遭ったのも、全部お前のせいか!!最悪な奴だな。許せん。
 お前なんかっ、お前なんかモブ族たちに『ピーーー』なことされればいいんだっ!!

 と憤怒している間にも、『さ、こんなことはどうでも良いのよ。早く始めましょ』とか言っちゃって、俺は魔法陣が浮き出ていた場所に横たえられ、拘束具で手足を拘束されてしまう。
 ちょっ、待って!?これ無理なんですけど。逃げられないんですけどっ!!?

「次に目覚めたら、貴方は私の性奴隷よ」

 語尾に音符を乗せる勢いで最高の笑みを向け、その場から離れていく王妃様。
 ちょっと待ってください!!俺、俺っ、女なんて無理だし奴隷とかヤダよーーー!!!つーか、俺悪魔来てもまたデコピンでぶっ倒すよ?うん、そうじゃん。俺悪魔よりも強いじゃん。

 じゃあ大丈夫だよね――って、

「ぐぁあ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!」

 喉が切れてしまいそうなほどの叫びが口から出てきてしまう。胸が焼けるように痛い。
 これが・・・、悪魔召喚の儀式・・・・・・。俺が儀式を受けたのは、俺が誘拐されてすぐのこと。俺という意識が浮上したのは悪魔がこの身体に宿った後だった。前世の世界で死んでここで目覚めたときは俺の精神世界で、そこで初めてアカに会ったのだから。

 ということは、俺はもしかしたら『俺』の意識でこの儀式を受けるのは始めてということか!?
 耐えられるか?これ――・・・・・・と、考えている頭はもはやない。苦しい、苦しい、という感情しか湧かない。
 横目で端にいるジュリタリアを見ると、彼女は恍惚とした表情で俺の苦しむ様子を見ているのがわかった。
 唇の隙間から、涎が垂れているのが目に入る。

 オイィイイイイイ!!!人が苦しんでるのに何だよそのエロい顔はぁああああああああ!!!?
 ふっざけんなよぉおおおおおお!!!

 と叫ぶこともできず、ひたすら身体全体に走る電撃のような痛みになんとか耐える。脳が焼き切れそうで、目の前にチカチカと火花が散り、そろそろ意識も保たなくなってきた・・・・・・。
 そういえば、アカ・・・・・・、お前、どこ行っちゃったんだよ・・・・・・
 走馬灯のように、アカやみんなとの楽しい思い出を頭に思い描く。

 あ、死ぬかも・・・・・・。

 そう思ったとき、入ってきた鉄の扉が弾かれたようにふっ飛び、中から誰かが飛び込んできた。

「青毛はオレのぺろぺろきゃんでぃーなんじゃぁあああああああい!!!!!」

 微かに見えるのは、赤い何か。


 お前は、だれ、だ――――?

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