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 ん~~・・・・・・見えん・・・・・・


 休日の街中、大勢の人が賑わう街道を裸目で見渡す。何もかもがぼやけていて、前から来る人たちも後ろから通り過ぎていく人たちも顔の肌色と衣服のカラフルな色が見えるだけで、まるで自分が知らない世界に来てしまったかのような不安な気持ちになる。

 それに時々馬車が通り非常に危ない。
 よく避けられるなと思うほど皆、運動神経が良いのだ。それに比べて馬に蹴られる直前に慌てて避ける、現体育教師の俺よ・・・・・・(笑泣)



 週の半ばに眼鏡が壊れ、今日まで裸眼で数日間頑張って過ごした。レンズを粉々にした(ボールの威力恐すぎる)生徒はもちろんだが、普段に比べて格段に世界が見えない俺をクラスの皆は驚くほど手助けしてくれた。シャムルちゃんとか腕にぺったりとくっついて俺がどこかで頭をぶつけないように気をつけてくれたし、セオドアもヴェータもわかりにくいが少しだけ気を遣ってくれていたのを感じた。


 眼鏡を壊して皆の優しさを知るとは・・・・・・と少し悲しく思いながらも心がほわりと温かくなる。

 数日間裸眼で過ごすとか、替えの眼鏡ねぇの?って思うだろうが、俺は基本普段使うものしか眼鏡を所有していない。この世界の眼鏡は非常に高いのだ!!給料は良いが貯金に回したりしていると高い眼鏡をポンとは買えないのでございます・・・・・・。


 今日は眼鏡の専門店に行き、つい先日割れてしまった眼鏡の修理を頼んできた。
 なぜ新しいのものを買わなかったのかというと、あの眼鏡は俺が教師になることが決まったときに両親が祝いに買ってくれたものだったからだ。せっかく買ってくれたものだったため、どうしてもフレームはそのままで直してもらえないかと尋ねてみたら、意外にも直せると言われた。本当によかった・・・・・・!レンズが割れているのと、フレームにも少し傷がついていたのでそれを直してくれるそうだ。

 フレームを変えずに割れたレンズをどうやって直すのか聞いてみたら、『企業秘密』だと悪戯っぽく言われてしまった。あの店員さん、かわいかったなぁー・・・・・・。

「うわっ!」
「きゃっ」


 笑うとひょこりと見える歯が印象的だったな~とぼけっとしていたら後ろを歩いていた人とぶつかってしまい、背後から少し高い女性の声が聞こえた。
 振り返ると鮮やかな赤紫色の髪が目に入る。ばさりという音を立てて靡いた髪の隙間から顔が見え、相手もこちらを向いているのか目が合った気がした。

「まぁっ、すいません!」
「っ、こちらこそ、申し訳ございません。ぼうっと立っていて・・・・・・」


 どんな顔をしているのだろうと思ってじっと見ていると鼓膜に響くような艶のある声で謝られてしまい、急いでこちらも頭を下げて謝罪をする。

 声を聞く限り、彼女はまだ若そうだがすでに大人ではあるような気がする。
 だが『私もあまり街中を歩かなくて慣れていないものですからっ、それにお店がいっぱいあって目移りしちゃいますよね!?それにそれにっ、人が歩く速度が速くて速くてっ、慣れないと馬車が来るときも危ないし・・・・・・』とはしゃぎながら話すのを聞いていると、まだ幼いのかなとも思えてくる。
 子どものように夢中になっているのが可愛らしくて、口周りの筋肉が緩む。
 思わずクスッと笑ってしまうと彼女は恐縮してしまい、今度は恥ずかしそうにもじもじとしてしまった。『いや、お話しされている様子が可愛らしいなと思ったので――』と笑ってしまったことについて弁明しようと顔を上げると、彼女の背後の人の波の中に一瞬知スレイ先生らしき人がいた気がした。


「やだっ!そんな可愛らしいだなんてっ。そうだ、もしお時間があれば――

「申し訳ありません、用事があるのでここで失礼を」


 ちらと見たシルエットが気に掛かってしまい、女性との話を切り上げて小走りに人並みの中へと入っていく。しかしそこには思っていた人らしき人は見当たらず、あっちからもこっちからも来る人に揉まれて思うようにも進めない。
 下手に動くと人の足を踏んだりぶつかったりしてしまいそうで、大人しく人の流れに身を任せて流れていくことにする。



 先ほどの女性との話を切り上げてしまったのは失礼だったと思うが、正直言うと俺はあまり女性と話すことが得意ではない。
 まぁ、察してくれ。俺だからな・・・・・・。
 それに、休日にスレイ先生と会えるとかもはやラッキースケベだったから焦って切り上げてしまったのだ(スレイ先生=歩くスケベ←失礼)。

 会いたかったなー・・・・・・。



 道の端まで追いやられ、そこから学校の敷地へと向かってゆっくり歩くことにする。見えないということは不安だ。しかし、どうしてだかそれが心地よく感じられてきた。
 ざわざわと賑やかな人々の声や物音を聞きながら、輪郭がぼやけた自分だけの世界を誰に急かされることもなくのんびりと歩く。

 何気に初めて歩く街にアカも喜ぶのではないかと思ったのだが、頭の中ではすぅすぅと可愛い寝息が聞こえてきたので、そっとしておこうと思う。
 きっと目をピカピカさせて頬を染めてはしゃぐだろうな・・・・・・また今度の休みに来るとしよう。

 と思っていると、またもや人とぶつかってしまう。店々を見ながら歩いて居たので今度は前にいた人に顔面をぶつけてしまった。

 躊躇なくぶつかったので一瞬痛い!と思ったが、当たった対象はむちっとしていて弾力があり、どこも痛くないことに頭を傾げる。
 っと、その前に謝らなきゃ!ほんと眼鏡ないと全っ然見えなくて危ないな-・・・・・・。シャムルちゃんとか『僕も一緒に行きたい!』って言ってきたけど、一緒に来て貰えばよかったかなぁ・・・・・・って、プライベートで教師と生徒が一緒に出歩くのはさすがにダメだろ・・・・・・。

「ぶつかってしまってすみません・・・・・・

「あれ、サドイ先生じゃないですか?」


「ふっゴホッ!スレイ先生!!」

 ふぁっ!!!す、スレイ先生ぃい・・・・・・!!!
 嬉しさが沸点を突っ切って思わず『ふぁっ』と口をついて出そうになったが、指で思いきり唇を絞り全力で止めた。


 マジで、ラッキースケベだぁああああああああ!!



 俺がぶつかったのは、なんとスレイ先生のお胸だったのだ!はっきりとは見えないが、スレイ先生は休日からか胸元が大胆に開いた黒色のシャツをえっちな身体に張り付かせて身につけている。
 下はこれまたむっちむちなパンツ。
 なんとかスケベなスレイ先生のえっちな姿をはっきり見ようと目に最大限力を入れてかっ開く。たぶん今の俺はめちゃくちゃ目が血走っていて非常に恐ろしい形相になっているだろう。これ、視力向上に役立つんじゃねぇか?!

「サドイ先生、今日は眼鏡をかけておられないのですね」

 ぐるぐると頭の中でスレイ先生の完全なくっきり画像を思い描いていると、思ったよりも近いところに本人の顔があり、ビクリとする。眼鏡がなくともわかる、アカとは違ったかんわいいお顔・・・・・・童顔だけどだからこそえっちなこを考えると背徳感を抱かせる罪作りな容貌。優しそうな雰囲気を作る眉は下げられていて、彼の瞳はまるで売り物のガラス細工のように綺麗で――・・・・・・って、せせ先生っ!?顔、近くありませんかっっ!!?
 スレイ先生は先ほどから数センチという距離まで顔を俺の顔に近づけ、じっと凝視してくる。やっぱ俺ってそんなに変な顔なのっ?だったら泣く!泣くけど!!今は緊張して顔の筋肉一ミリも動かせないー!!

 とパニックになっていても目は彼に釘付けになっていると、スレイ先生はマジでサクランボみたいにちょこんとしてぷるっとしたいかにも美味そうな唇を開いた。


「サドイ先生の目って、すっごくお綺麗ですね・・・・・・それに、普段眼鏡で見れないけど、お顔もとても・・・格好いいです・・・・・・」

 顔がパッと離れたかと思うと、先生がすこし恥じらうように笑ってそう言った。

 緊張から一気に解き放たれ、拍動がゆっくりになると共にどこかで滞ってた血流が解き放たれて全身へ回る。
 顔を近づけてくるところからの一連の動作が不意打ち過ぎて、笑顔の可愛らしさと恥ずかしさも加わり俺はふにゃふにゃとしゃがんで顔を腕に埋めて唸る。


 ふにゃ~~かわいすぎだろぉ~~・・・・・・

 その後スレイ先生に心配げに『大丈夫ですかっ?』と言われたので直後復活して何事もなかったかのように無表情を作る。彼も用事を済ませたらしく、共に学校へと帰ることになった。
 無表情を装っても口が勝手ににやけてきてしまう。困ったものだな・・・・・・と自分に呆れながらも素直に嬉しさを感じながらスレイ先生の隣に並んで話しながら歩く。
 思いがけずラッキーな休日だったと噛みしめながら。



 その後ろを、離れた場所で馬車の中から除く人物が一人。
 大人しい装飾だが確実に品の良い馬車の中、鮮やかな赤紫色の髪を持つ者が静かに口の端を上げべろりと舌なめずりを一つした。


 そんなことを露知らず、俺はスレイ先生に鼻の下を伸ばしながら呑気に歩いていたのだった。




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