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しおりを挟む「・・・ぃ、オイ!起きろ青毛」
「うぅん・・・うるさい」 バシッ!
「うわっとあぶね~~!!!このっ、起きろクソ野郎!!!」
ゴツッ
「ってぇ-・・・って、ああ。またここに来たのか」
寝ぼけて目覚まし時計を止めるように声のする場所を叩きつけたのだが、ちょうどその場所にいたデコピンは見事に避けたらしい。
それに怒ったデコピンに蹴り飛ばされて起きたら、お馴染みの『我が精神世界』に来ていた。
今日一度来たような気がするんだが・・・・・・。
というか俺はどういう原理でここに来られるのだろうか。
「なぁ、俺ってここにどうやって来てんだ?」
さっき来たときは何もない真っ白な空間だったのだが、今はどこかの一室みたいに家具が並んでいる。座り心地が良さそうなソファにどっかと座ったデコピンを見上げながら聞いた。
「ヒマだから呼んだ」
デコピンが偉そうに足を組んで、肘置きに腕を乗せてふんぞり返りながら答える。
「呼んだ?お前勝手に俺のことをここに呼べるのか?」
「悪魔だからな!!よくわかんねぇけど!!」
自信満々に答えたが、こいつがアホの子であることはわかった。
よく仕組みはわかっていないらしい。だが頻繁に呼び出すのは勘弁してほしいと思う。さっきので、ここでの長時間でも現実世界では短時間であることはわかったが。
しかし俺は布団に入って睡眠を取りたかったわけで、ここで起きている分疲れは取れない。
ここにいても疲れは感じるのでさっさと寝たいのだが、デコピンは俺を呼んでおいて何がしたいのかわからないが部屋にある戸棚からフルーツを出しソファに寄りかかりながら食べている。
「てかこの家具なんだよ」
そう問うと、待ってましたとばかりに顔を輝かせて身を乗り出してきた。
「オレが作った!!すごいだろ!?」
ここではイメージした物を具現化することができるようで、そのことにも驚いたが、小さい子どものように『えっへん』とする態度が微笑ましく思える。
まるで『褒めて褒めて』と言っているようで、デコピンにそっと手を置きしゃわしゃわと優しく撫でた。
やっぱり小さいし可愛いな・・・・・・。
「な、何やってんだよバーカ!!!」
しばらく『は?』みたいな顔をしていたが見る見るうちに顔が赤くなり、手をはたき落とされてさらに腹にグーパンを食らった。プライドが無駄に高いのが玉に瑕・・・。
特に用事もなくただただ家具を自慢されて終わった。物の具現化には正確なイメージ力が重要で、上手くできなかった俺は散々奴に馬鹿にされたが、手をデコピンをする時の形にすると、顔を青ざめさせて謝ってきた。
そして『デコピン』という名前は嫌だとゴネたので、安直に特徴を表した『アカ』と呼ぶことにすると満更でもない様子でやはり可愛かったのでまた撫でた。
朝、俺が教師という立場になる日。
小窓から注ぐ太陽のエネルギーを浴びて身体を伸ばす。いつも家族にバレないようせっせと染めている俺の黒髪も太陽の光でつやつやに輝いている。
「んんー・・・・・・」
アカとの会話で疲れたものの、睡眠はしっかり取れていて頭もしっかりしている。
さて、今日から俺は教師になり人を教える立場の人間になる。今までもやることはきっちりやっていたが、それ以上にしっかりとしなければ。
下からバターの良い香りが上ってきて、寝起きだというのに腹が空腹を訴えてきた。
長期の休みには帰ってくるつもりではあるが、それまでは食べられない母の作る朝食がなんだかいつも以上に貴重に感じられる。
汚すといけないので着替えるのは後にし、洗面所で洗顔と歯磨きを終えテーブルについた。
カリッカリに焼け表面にバターが染み込んでいるトーストにベーコンエッグ。鶏肉をだしにとったまろやかな野菜たっぷりのスープとサラダ。
母独特の味付けがしばらく食べられないと思うと残念な気持ちになるが、今は味わって食べることにした。父は最近大きな仕事が入ってきたらしく、昨日は早めに帰ってきてくれたが今日はもうすでに家を出ていた。
昨晩男同士の抱擁を交わし、きちんと言葉も交わしたから寂しくはない。
子どもの誘拐という経験をしたからか、父も母も他の家よりも過保護で俺に対する心配が断たなかったが、俺ももう大人として社会へと出る身であることは二人とも認めてくれている。
前世ではできなかった社会に出るという経験を前にし、俺の心はワクワクとドキドキが占めていた。
「じゃあ母さん。元気でね」
「うん・・・・・・!!サドイもね。冬は暖かくして風邪引かないようにするんだよ」
「うん。いってきます」
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