「天才」と書いて、「偽善者」と読む ~この世にないもの~

高桐AyuMe

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宿泊研修と共に……

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「おはよう、真条君」
「あ、ああ。おはよう、一」
 翌日。登校して朝一番に一にそう挨拶される。俺は簡単に返すと、直ぐに前を向く。
 周りからは、「一さんがあんな陰キャに挨拶を……⁉」だの「ど、どういう風の吹き回しだ⁉」などのヤジが聞こえてくる。
 やれ、俺がどれだけこのクラスで嫌われているかが浮き彫りになったな。
 こうも注目されると、なんかやりづらい。
 朝早くから居心地の悪さを感じていると、直ぐに担任、川寄が教室に入ってきた。
「あ~、全員揃っているな」
 一通り教室の中を見渡したのち、川寄はプリントを配る。
 回されてきたプリントを見て、俺は思わず顔をしかめた。
「……うげ……」
 そこにはでかでかと「宿泊研修について」と書かれてあった。
「突然のことで驚いている生徒も多いと思うが、二週間後に宿泊研修が決まった。これは秋ごろに行く林間学校とは違う。参加は自由だが、参加しない場合、通常通り学校に登校してもらうことになる。判断は自己に任せる。参加するか否かはプリント下の申込用紙を俺に出してくれればいい。質問は個人的に受け付けるが、何か大切なことがあったら、その都度連絡を入れる。それじゃあ、朝のホームルームを始める」
 これはまためんどくさいイベントが来てしまった。
 ただ、参加が自由というのならば、答えは一つしかないか……。

 時は流れ、放課後。俺は屋上にて川寄と二人でいた。
「野郎二人で屋上はちと絵が汚いから、早く要件を言ってくんないかな……」
「ああ、俺もそうするつもりだ。今回聞きたいのは、お前が宿泊研修に行くか否かだ」
「あ? 決まってんだろ。行かねえよ。興味ない」
 俺はきっぱりと断る。できれば平穏に過ごしていきたい。思い出作りなど不要だ。
「まあそうだろうな。予想はしていた。だが、俺はお前に参加してほしいと思っている」
「その根拠は?」
「この宿泊研修を考えたのは理事長だ。理事長は今回の宿泊研修でお前の出方を伺っている」
 なるほど。それなら急に決まった事に説明がつく。だが、
「だったら尚更いかないほうがいいんじゃないか? 生徒による監視なら何とか対処は出来るが、流石に理事長とかいう教師側からの妨害には対応しきれないぞ」
 いくら何でも俺を過大評価しすぎだ。俺にも限度がある。立場上の権利を使われれば、この学校の生徒として従わざるを得ない。詰みだ。
「ああ、だからこそだ。お前が宿泊研修に参加し、平穏に過ごす。お前が不審な動きをしない限り、理事長は気にも留めないだろう」
「その手は考えたが、少し無理があるんじゃないか?」
 平穏に、と簡単に言ってくれるが、実際問題難しい話だ。あいつらがこんな行事で黙っているとは考えられない。何か仕掛けてくると仮定ではなく、断定できる。
「それに関しては俺が個人的にサポートしよう。あいつらの行動からは目を離さないようにするし、お前が必要とするならば動くこともできる」
「いや、サポートだけでいい。動くのは白葉にやらせる」
「そうだったな。協力者になったのか……」
「そういうことだ。まあ、そこまで考えているのなら俺も参加の移行に移ることにする」
「ああ、そうしてくれると助かる。一時的にだが理事長からの監視からは逃れられるだろう。ああ、あと一も協力には動けるそうだ」
「一? どういう風の吹き回しだ」
「この間の一件であいつも認めるところがあったというわけだ」
「取り敢えず視野には入れとく」
「最後に、宿泊研修は二泊三日。このうち、二日目はグループ行動になる。そこまでは俺の目も届かないから、一と白葉に頼むといい」
「それ、恨まれないか?」
 クラスの奴から翌日とかにぶん殴られそうだ。無言で……。
「まあ、そういうことだ。あとはご自由に」
「おい、そんなの投げやりな……」
 言い終わる前に、川寄は去っていった。俺は頭を搔きながら、沈んでいく夕陽を眺めた。
「もうこれ以上は期待しないでくれ。俺は天才なんかじゃないっての……」
 ぼそりと呟いた声は、響くことなく、夕陽とともに沈んでいった。

 家に帰った俺は、スマホを眺めながら、ボーっとしていた。
 最近は色々と頭を使うことが増えた。そのためか、かなり疲労はたまっていた。
 気を抜けば、このまま寝落ちしそうだ。だが、ソファで寝るわけにはいかない。流石に風邪をひく。俺はほぼ機能していない脳で溜まったメールに目を通していく。
「あ~? なんだ、姉さんか……。二日後に帰ってくるってか。はいはい」
 瞬間、一気に頭が機能し始め、そのまま飛び起きる。
 震える手を必死に抑えながら、もう一度メール文に目を通すが、先程口に出した内容と全く変わってはいなかった。
「じょ、冗談だろ……」
 俺は顔が青ざめていく感じを味わった。
 冗談じゃない。姉が帰ってくるなど、たまったものじゃない。
「何で……来るんだよ……」
 ハッキリ言って、最近の中で最悪の知らせだ。
「はあ……、掃除でもしておくか……」
 だが、帰ってくるという予定は消えることはない。
 そこまで考えた俺は、もう考えることをやめた……。
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