「天才」と書いて、「偽善者」と読む ~この世にないもの~

高桐AyuMe

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作戦変更

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 翌日。
 俺はいつも通り教室へと入ったのだが、踏み入れた瞬間、一斉にクラスメイト全員の視線が俺へと向いた。
 心当たりがない俺は不思議に思いつつも自分の席に着く。すると、
「おうおうおう、まさかあんなことしておいてそんな堂々と登校してくるとはなあ」
 青梅参が突っかかってきた。
 それよりもあんなこととは一体……?
「お前、昨日、白葉に告ったらしいじゃねえか」
 まさかもう情報が出回っているとは……、予想外だ。早すぎる。一体どうなっているんだ?
「そんで断れたらお前、白葉に暴力降ったらしいなあ!」
 そういうことか。
 見れば、白葉は一と赤樫がそばに寄り添っている中、泣いていた。演劇部のエース並みの演技である。
その言葉が放たれたと同時に周りの視線が一層厳しくなる。むず痒いな。陰キャだって言ってるだろ。
 だが、まずいな。俺の考えていたプランニングが崩れた。立て直すためにも、少し探りを入れてみるか。
「ほう。まさかこんな早く情報が出回っているなんて、予想外だね」
 俺はここでわざと肯定の意を示し、探りを入れる。
「何だ? 案外あっさり認めるんだな。予想ではすっとぼけると思っていたが……」
「まさか、本人が言っちゃってるんじゃすっとぼけるも何もないでしょう」
「まあ、顔とか肩とかにも痣ついているからな」
 なるほど。見えてきたぞ。
 多分だが、白葉は俺が告白したのをたまたまかわざとかは知らないが、グループに言ったのだろう。それを聞いた青梅やらはグループへの加入を条件として付け、白葉に俺が告白と同時に暴力を振るった、という無茶苦茶な噓をでっち上げたのだ。
 グループにはこの間宣戦布告をし、俺は充分に恨みを買われているし、白葉は一間に近付けるチャンスに俺を使ったと考えれば合点がいく。
 タイミングが悪いんじゃ。少し急ぎすぎたのかもしれない。
 だったら作戦変更。ここで決着をつけることにしよう。
「まあ、いいけどさ。俺からも一つ、いいかな?」
「何だよ。今ここで土下座で謝りでもするのか?」
「まさか、」
 俺はニヤリと嘲笑するような笑みを浮かべて言った。
「俺がただで黙っているだけだと思っているのか?」
 青梅、いや、白葉も含めた今いるクラスメイト全員に抜けて言葉を放った。
「は?」
 そんな青梅から零れた疑問符もシカトし、俺はおもむろにスマホを取り出した。
「さて、上演の時間だ」
 そして、俺は録画していた動画の再生ボタンを押した。
 瞬間、流れてきたのは……、
『そう言えば、白葉さんって一さんと仲いいって聞いたけど、それってもしかして、彼に近づくため?』
 そんな、昨日の屋上での出来事での俺のセリフが発せられる。そして、
『そうだね。彼女、男子人気が高いから、彼女を利用すればグループにも入れるし、彼にも近づけるからね。一石二鳥ってわけだよ』
 という裏の顔をはっきりと表す白葉の言葉が漏れた。
「ハハハ、まあ、俺が彼女を殴ったって言うならそうかもしれないな。だが、死なばもろとも。ただじゃ潰れねえぞ?」
「…………ッ」
 明らかに白葉に動揺が走る。
 自ら墓穴を掘ったな。自身の欲望に体を任せたが故に、このような失敗を犯した。さあ、苦しめ、足掻け。お前を叩き落すのは俺じゃない。周りの人間だ。
「んで、暴力か。まあ、振るったわな。別に振られたからとか、そういうことではないが、さすがに、な。それ相応の出来事があった。それだけのことさ」
 手順は違ってしまったが、結果として俺が望んだ状態となった。
 第一目標は達成。さて、次の作戦を考えるとしますか。

 その日の放課後。
 俺は川寄によって職員室に呼び出されていた。
「で、今度はなんだ。俺も色々考えることがあるんだが」
「少し、言いたいことがあってな」
 川寄は俺に向き直ると、厳しい表情をしながら、俺の瞳を射抜いた。
「あれは、どういうことだ?」
「あれ、とは? 抽象的過ぎて分からねえよ」
「今日、お前、朝に何をした?」
「朝、か」
 まあ、そうだろうな、と思っていた。だが、全くと言って心当たりがない。グループ潰しに必要な手順として、一体どんな文句が……。
「何故、お前はクズ野郎などと言われていたんだ? どうして白葉の立場が失われていた?」
「何故、か。分かってんだろ。俺があいつをクラスカースト下位に叩き落した。その分のデメリットとして俺の認識が悪くなった。ただそれだけのことだろ?」
 それを聞いた川寄ははあ、と息を吐くと俺の核心をつく一言を放った。
「それは、お前の存在しないと言っていた偽善じゃないのか?」
「ハッ、何を言っている?」
 そうだ。今回の事件の解決法は俺の精神の一部を犠牲にして、彼女を叩き落した。
 これだけ聞けば、ただの馬鹿としか言いようがないだろう。だが、この手順の先の未来には、グループが潰れるという学校にとっても殊勝なことに繋がっていく。そこから糸を辿れば、
「最初に言ったはずだ。偽善は、正義は存在しないと。なのに何故それを俺がしなければならない。俺が目指すのは『絶対』という存在。その中間として、この学校を退学する。その目的のためならば、俺は手段を選ばない。例え、自分が削れようとも、お前、川寄が消えようとも、俺は目的を達成する」
 俺はそれだけ言い残し、踵を返す。
「もうこれ以上、文句を言わないでくれ。依頼したのはお前だ。そのお前が文句を言うのはお門違いだろ?」

 俺は教員室を後にし、玄関へと向かったのだが、
「何か用か?」
 一が俺を待ち構えるように、道中で立っていた。
「今日のは、何?」
「何、とは何だ?」
「とぼけないで。今回のことで、白葉さんは完全に立場を失ったのよ」
「ハッ、そんなことか」
 俺は彼女の瞳を射抜くように睨みながら、
「いつまで夢を見ている?」
「え?」
「目には目を歯には歯を、そして悪を倒せるのは悪でしかない。それと同じさ。犠牲なしの正義など存在しない。ましてや悪を倒せるのが悪でしかないのならば、その悪を正義と振るい、倒すしかない。白葉はその犠牲となっただけだ。そして言ったはずだ」
 俺は殺気と憎悪を纏いながら、闇に染まり切った目を向ける。
「これが終われば、俺はいなくなる。だったら、その時まで傍観してろ。もう二度と干渉するな」
 その言葉を置いて、俺はその場を去る。
 もしかしたら、一も潰す必要があるかもしれない。
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