「天才」と書いて、「偽善者」と読む ~この世にないもの~

高桐AyuMe

文字の大きさ
上 下
1 / 12

この世にないもの

しおりを挟む
 この世にはないものが三つある。
 一つは「絶対」
 この世に100%は存在しない。
 どんなに高くても99.9999・・・が限界だ。この世に奇跡とワンチャンス、誤差が存在する限り100%はないだろう。
 二つは「平等」
 世界は平等平等と謳っているが、実際に見れば、経済格差、偏見が混じっている。果たして、それは平等といえるのだろうか。根本的な所が平等とかけ離れているのだ。
 三つは「正義」
 この世にある「正義」は飾りだ。その仮面をとってみれば、裏に隠れているのは「偽善」の二文字。
 自分の命よりも大切なものがあるわけがない。誰しも自分が一番可愛い。結局、自分に利益があることにしか動こうとしない。自分が命の危機に瀕したら、誰かに擦り付ける。これのどこが正義なのだろうか。
 世界はありもしない噓っぱちなもので回っているのだ…。

「これがお前が一年の時に学んだことか?」
高校二年生へと進学してから一週間。俺は新しい担任である川寄かわより斎賀さいが先生に教員室へと呼び出されていた。
「はい。まあ、正確には中一の時には気づいてましたが、去年に学んだことがなかったので書こうかなと。変でした?」
「ああ、お前だけだぞ。こんな世界の心理みたいな感じのもの書いたの」
だろうな。逆にこんなものを書く高校二年がうじゃうじゃいてたまるか。
「ですよね。先生たちに見せたら絶句してたんじゃないんですか?」
「ああ、絶句というか、引いてたな」
いや、引くなよ。俺も一応生徒だぞ。
「まあ、そんなことはいいんですよ。他の要件で呼んだんじゃないんですか?まさか、俺の作文に付けたいちゃもんを本人の前で言うためだけに呼んだんじゃないでしょ?」
「さすが、鋭いな。実はその通りだ」
一体何を話すのだろう。たった一週間で問題を起こすような俺ではない。だったら、と、思考を巡らせていると、想像の斜め上。いや、多分、一生のうちに聞くことはないような言葉が飛んできた。

             「この学校を救ってくれ」

「は?」
シンプルな驚きの言葉が口から零れる。何言ってんだ、この教師。生徒に頭下げるって恥ずかしくないのか?というか、教師としての威厳はどうした。プライドは食べちまったのか?
そして、「救ってくれ」ってなんだよ。しかも、学校を。絶対俺みたいな生徒が介入するような問題じゃないよね。あんた達教師の仕事だよね。
まあ、取り敢えず、
「ちょっと本当に何言ってるかわからないんですが、取り敢えず、頭をあげて下さい」
「失敬失敬。少し取り乱してしまった」
少し、と、取り乱す、という部分に間違えがあったような気がしたが、それを言うと話が脱線してしまうので、黙っておく。
「一体どういうことか、ちゃんと説明してください」
「分かった。じゃあお前、この学校の大きなグループを知ってるか?」
「はい。知ってますよ。クラスは違ったので噂程度ですが、」
大きなグループ。学年の中でもカースト上位の生徒6人。俺からしてみれば陽キャが集まって出来たグループだ。だが、権力がある為、それを振りかざして好き勝手やっているため、黒い噂が絶えない。俺は面倒くさかったから関わらないようにしていたのだが、
「そのグループを止めてほしい。奴らは学校全体も牛耳るつもりだ」
おいおいおい。スケールが違うぞ。いくら何でも、大きなグループが学校全体を牛耳ることなんて無理だろ。クラスならまだしも。
「残念ながら、できてしまうんだよ」
まるで、俺の心を見透かしたように言う担任。エスパーかな。
「グループメンバーの一人、雪崎しろざき芙蓉ふようという生徒がいるんだが」
「雪崎?その名字って確か…」
「ああ、この学校の理事長、雪崎晃司こうじの娘だ」
なるほど。父親の権力か。それなら、実現は可能だ。
「けど、それなら俺に頼まなくてもいいじゃないですか。例えば、にのまえれんの方が…」
一恋はこの学年の成績トップの生徒だ。俺よりは役に立つと思うが…、
「じゃあ、これを見ればわかるんじゃないか?」
そう言うと、担任は一枚の紙を手渡してきた。担任が渡してきたその紙には中学三年間の全国模試の結果と、去年のこの学校の入試の結果が書かれてあった。
「随分と古いデータをお持ちで…」
そのデータの一番上、つまり、トップの結果にはしっかりと。これを知っているなら、わざわざ敬語を使う必要もないだろう。
「で、このデータを見て、俺が最適だと、そう判断しなんだな?」
「あ、ああ。そうだ」
担任は敬語を外した俺の話し方に少し驚きつつも、そう返事をする。
「じゃあ、あんた、これに俺が乗るようなメリットも用意してるんだろうな?」
さっきの作文で言った通り、メリットがなきゃ動かない。常識だ。
「あるよ。お前が飛びつくようなメリットが…」
そんなもの…と、少しばかり考えたが、一つだけあった。それは、
退
俺の予想としていたことを言われ、少し驚く。
「それをどこで…」
「別にどこでもいいだろう。それで、やるのか、やらないのか。どっちなんだ?」
ここで迷うような選択肢はない。
「やるよ」
「そうか。じゃあ、よろしく頼むよ。天才、いや、真条しんじょう拓人たくと
その言葉を背中に受けながら、俺は教員室を出た。
 そう。俺の将来の目標は、この世にないもの「絶対」という存在になること、そして、この学校での目標は…、

              この学校を退学することだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

転校して来た美少女が前幼なじみだった件。

ながしょー
青春
 ある日のHR。担任の呼び声とともに教室に入ってきた子は、とてつもない美少女だった。この世とはかけ離れた美貌に、男子はおろか、女子すらも言葉を詰まらせ、何も声が出てこない模様。モデルでもやっていたのか?そんなことを思いながら、彼女の自己紹介などを聞いていると、担任の先生がふと、俺の方を……いや、隣の席を指差す。今朝から気になってはいたが、彼女のための席だったということに今知ったのだが……男子たちの目線が異様に悪意の籠ったものに感じるが気のせいか?とにもかくにも隣の席が学校一の美少女ということになったわけで……。  このときの俺はまだ気づいていなかった。この子を軸として俺の身の回りが修羅場と化すことに。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

幼馴染と話し合って恋人になってみた→夫婦になってみた

久野真一
青春
 最近の俺はちょっとした悩みを抱えている。クラスメート曰く、  幼馴染である百合(ゆり)と仲が良すぎるせいで付き合ってるか気になるらしい。  堀川百合(ほりかわゆり)。美人で成績優秀、運動完璧だけど朝が弱くてゲーム好きな天才肌の女の子。  猫みたいに気まぐれだけど優しい一面もあるそんな女の子。  百合とはゲームや面白いことが好きなところが馬が合って仲の良い関係を続けている。    そんな百合は今年は隣のクラス。俺と付き合ってるのかよく勘ぐられるらしい。  男女が仲良くしてるからすぐ付き合ってるだの何だの勘ぐってくるのは困る。  とはいえ。百合は異性としても魅力的なわけで付き合ってみたいという気持ちもある。  そんなことを悩んでいたある日の下校途中。百合から 「修二は私と恋人になりたい?」  なんて聞かれた。考えた末の言葉らしい。  百合としても満更じゃないのなら恋人になるのを躊躇する理由もない。 「なれたらいいと思ってる」    少し曖昧な返事とともに恋人になった俺たち。  食べさせあいをしたり、キスやその先もしてみたり。  恋人になった後は今までよりもっと楽しい毎日。  そんな俺達は大学に入る時に籍を入れて学生夫婦としての生活も開始。  夜一緒に寝たり、一緒に大学の講義を受けたり、新婚旅行に行ったりと  新婚生活も満喫中。  これは俺と百合が恋人としてイチャイチャしたり、  新婚生活を楽しんだりする、甘くてほのぼのとする日常のお話。

モブが公園で泣いていた少女にハンカチを渡したら、なぜか友達になりました~彼女の可愛いところを知っている男子はこの世で俺だけ~

くまたに
青春
冷姫と呼ばれる美少女と友達になった。 初めての異性の友達と、新しいことに沢山挑戦してみることに。 そんな中彼女が見せる幸せそうに笑う表情を知っている男子は、恐らくモブ一人。 冷姫とモブによる砂糖のように甘い日々は誰にもバレることなく隠し通すことができるのか! カクヨム・小説家になろうでも記載しています!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。

四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……? どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、 「私と同棲してください!」 「要求が増えてますよ!」 意味のわからない同棲宣言をされてしまう。 とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。 中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。 無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。

処理中です...