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この世にないもの
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この世にはないものが三つある。
一つは「絶対」
この世に100%は存在しない。
どんなに高くても99.9999・・・が限界だ。この世に奇跡とワンチャンス、誤差が存在する限り100%はないだろう。
二つは「平等」
世界は平等平等と謳っているが、実際に見れば、経済格差、偏見が混じっている。果たして、それは平等といえるのだろうか。根本的な所が平等とかけ離れているのだ。
三つは「正義」
この世にある「正義」は飾りだ。その仮面をとってみれば、裏に隠れているのは「偽善」の二文字。
自分の命よりも大切なものがあるわけがない。誰しも自分が一番可愛い。結局、自分に利益があることにしか動こうとしない。自分が命の危機に瀕したら、誰かに擦り付ける。これのどこが正義なのだろうか。
世界はありもしない噓っぱちなもので回っているのだ…。
「これがお前が一年の時に学んだことか?」
高校二年生へと進学してから一週間。俺は新しい担任である川寄斎賀先生に教員室へと呼び出されていた。
「はい。まあ、正確には中一の時には気づいてましたが、去年に学んだことがなかったので書こうかなと。変でした?」
「ああ、お前だけだぞ。こんな世界の心理みたいな感じのもの書いたの」
だろうな。逆にこんなものを書く高校二年がうじゃうじゃいてたまるか。
「ですよね。先生たちに見せたら絶句してたんじゃないんですか?」
「ああ、絶句というか、引いてたな」
いや、引くなよ。俺も一応生徒だぞ。
「まあ、そんなことはいいんですよ。他の要件で呼んだんじゃないんですか?まさか、俺の作文に付けたいちゃもんを本人の前で言うためだけに呼んだんじゃないでしょ?」
「さすが、鋭いな。実はその通りだ」
一体何を話すのだろう。たった一週間で問題を起こすような俺ではない。だったら、と、思考を巡らせていると、想像の斜め上。いや、多分、一生のうちに聞くことはないような言葉が飛んできた。
「この学校を救ってくれ」
「は?」
シンプルな驚きの言葉が口から零れる。何言ってんだ、この教師。生徒に頭下げるって恥ずかしくないのか?というか、教師としての威厳はどうした。プライドは食べちまったのか?
そして、「救ってくれ」ってなんだよ。しかも、学校を。絶対俺みたいな生徒が介入するような問題じゃないよね。あんた達教師の仕事だよね。
まあ、取り敢えず、
「ちょっと本当に何言ってるかわからないんですが、取り敢えず、頭をあげて下さい」
「失敬失敬。少し取り乱してしまった」
少し、と、取り乱す、という部分に間違えがあったような気がしたが、それを言うと話が脱線してしまうので、黙っておく。
「一体どういうことか、ちゃんと説明してください」
「分かった。じゃあお前、この学校の大きなグループを知ってるか?」
「はい。知ってますよ。クラスは違ったので噂程度ですが、」
大きなグループ。学年の中でもカースト上位の生徒6人。俺からしてみれば陽キャが集まって出来たグループだ。だが、権力がある為、それを振りかざして好き勝手やっているため、黒い噂が絶えない。俺は面倒くさかったから関わらないようにしていたのだが、
「そのグループを止めてほしい。奴らは学校全体も牛耳るつもりだ」
おいおいおい。スケールが違うぞ。いくら何でも、大きなグループが学校全体を牛耳ることなんて無理だろ。クラスならまだしも。
「残念ながら、できてしまうんだよ」
まるで、俺の心を見透かしたように言う担任。エスパーかな。
「グループメンバーの一人、雪崎芙蓉という生徒がいるんだが」
「雪崎?その名字って確か…」
「ああ、この学校の理事長、雪崎晃司の娘だ」
なるほど。父親の権力か。それなら、実現は可能だ。
「けど、それなら俺に頼まなくてもいいじゃないですか。例えば、一恋の方が…」
一恋はこの学年の成績トップの生徒だ。俺よりは役に立つと思うが…、
「じゃあ、これを見ればわかるんじゃないか?」
そう言うと、担任は一枚の紙を手渡してきた。担任が渡してきたその紙には中学三年間の全国模試の結果と、去年のこの学校の入試の結果が書かれてあった。
「随分と古いデータをお持ちで…」
そのデータの一番上、つまり、トップの結果にはしっかりと俺の名前が刻まれていた。これを知っているなら、わざわざ敬語を使う必要もないだろう。
「で、このデータを見て、俺が最適だと、そう判断しなんだな?」
「あ、ああ。そうだ」
担任は敬語を外した俺の話し方に少し驚きつつも、そう返事をする。
「じゃあ、あんた、これに俺が乗るようなメリットも用意してるんだろうな?」
さっきの作文で言った通り、メリットがなきゃ動かない。常識だ。
「あるよ。お前が飛びつくようなメリットが…」
そんなもの…と、少しばかり考えたが、一つだけあった。それは、
「お前の退学届けに俺の印鑑を押してやる」
俺の予想としていたことを言われ、少し驚く。
「それをどこで…」
「別にどこでもいいだろう。それで、やるのか、やらないのか。どっちなんだ?」
ここで迷うような選択肢はない。
「やるよ」
「そうか。じゃあ、よろしく頼むよ。天才、いや、真条拓人」
その言葉を背中に受けながら、俺は教員室を出た。
そう。俺の将来の目標は、この世にないもの「絶対」という存在になること、そして、この学校での目標は…、
この学校を退学することだ。
一つは「絶対」
この世に100%は存在しない。
どんなに高くても99.9999・・・が限界だ。この世に奇跡とワンチャンス、誤差が存在する限り100%はないだろう。
二つは「平等」
世界は平等平等と謳っているが、実際に見れば、経済格差、偏見が混じっている。果たして、それは平等といえるのだろうか。根本的な所が平等とかけ離れているのだ。
三つは「正義」
この世にある「正義」は飾りだ。その仮面をとってみれば、裏に隠れているのは「偽善」の二文字。
自分の命よりも大切なものがあるわけがない。誰しも自分が一番可愛い。結局、自分に利益があることにしか動こうとしない。自分が命の危機に瀕したら、誰かに擦り付ける。これのどこが正義なのだろうか。
世界はありもしない噓っぱちなもので回っているのだ…。
「これがお前が一年の時に学んだことか?」
高校二年生へと進学してから一週間。俺は新しい担任である川寄斎賀先生に教員室へと呼び出されていた。
「はい。まあ、正確には中一の時には気づいてましたが、去年に学んだことがなかったので書こうかなと。変でした?」
「ああ、お前だけだぞ。こんな世界の心理みたいな感じのもの書いたの」
だろうな。逆にこんなものを書く高校二年がうじゃうじゃいてたまるか。
「ですよね。先生たちに見せたら絶句してたんじゃないんですか?」
「ああ、絶句というか、引いてたな」
いや、引くなよ。俺も一応生徒だぞ。
「まあ、そんなことはいいんですよ。他の要件で呼んだんじゃないんですか?まさか、俺の作文に付けたいちゃもんを本人の前で言うためだけに呼んだんじゃないでしょ?」
「さすが、鋭いな。実はその通りだ」
一体何を話すのだろう。たった一週間で問題を起こすような俺ではない。だったら、と、思考を巡らせていると、想像の斜め上。いや、多分、一生のうちに聞くことはないような言葉が飛んできた。
「この学校を救ってくれ」
「は?」
シンプルな驚きの言葉が口から零れる。何言ってんだ、この教師。生徒に頭下げるって恥ずかしくないのか?というか、教師としての威厳はどうした。プライドは食べちまったのか?
そして、「救ってくれ」ってなんだよ。しかも、学校を。絶対俺みたいな生徒が介入するような問題じゃないよね。あんた達教師の仕事だよね。
まあ、取り敢えず、
「ちょっと本当に何言ってるかわからないんですが、取り敢えず、頭をあげて下さい」
「失敬失敬。少し取り乱してしまった」
少し、と、取り乱す、という部分に間違えがあったような気がしたが、それを言うと話が脱線してしまうので、黙っておく。
「一体どういうことか、ちゃんと説明してください」
「分かった。じゃあお前、この学校の大きなグループを知ってるか?」
「はい。知ってますよ。クラスは違ったので噂程度ですが、」
大きなグループ。学年の中でもカースト上位の生徒6人。俺からしてみれば陽キャが集まって出来たグループだ。だが、権力がある為、それを振りかざして好き勝手やっているため、黒い噂が絶えない。俺は面倒くさかったから関わらないようにしていたのだが、
「そのグループを止めてほしい。奴らは学校全体も牛耳るつもりだ」
おいおいおい。スケールが違うぞ。いくら何でも、大きなグループが学校全体を牛耳ることなんて無理だろ。クラスならまだしも。
「残念ながら、できてしまうんだよ」
まるで、俺の心を見透かしたように言う担任。エスパーかな。
「グループメンバーの一人、雪崎芙蓉という生徒がいるんだが」
「雪崎?その名字って確か…」
「ああ、この学校の理事長、雪崎晃司の娘だ」
なるほど。父親の権力か。それなら、実現は可能だ。
「けど、それなら俺に頼まなくてもいいじゃないですか。例えば、一恋の方が…」
一恋はこの学年の成績トップの生徒だ。俺よりは役に立つと思うが…、
「じゃあ、これを見ればわかるんじゃないか?」
そう言うと、担任は一枚の紙を手渡してきた。担任が渡してきたその紙には中学三年間の全国模試の結果と、去年のこの学校の入試の結果が書かれてあった。
「随分と古いデータをお持ちで…」
そのデータの一番上、つまり、トップの結果にはしっかりと俺の名前が刻まれていた。これを知っているなら、わざわざ敬語を使う必要もないだろう。
「で、このデータを見て、俺が最適だと、そう判断しなんだな?」
「あ、ああ。そうだ」
担任は敬語を外した俺の話し方に少し驚きつつも、そう返事をする。
「じゃあ、あんた、これに俺が乗るようなメリットも用意してるんだろうな?」
さっきの作文で言った通り、メリットがなきゃ動かない。常識だ。
「あるよ。お前が飛びつくようなメリットが…」
そんなもの…と、少しばかり考えたが、一つだけあった。それは、
「お前の退学届けに俺の印鑑を押してやる」
俺の予想としていたことを言われ、少し驚く。
「それをどこで…」
「別にどこでもいいだろう。それで、やるのか、やらないのか。どっちなんだ?」
ここで迷うような選択肢はない。
「やるよ」
「そうか。じゃあ、よろしく頼むよ。天才、いや、真条拓人」
その言葉を背中に受けながら、俺は教員室を出た。
そう。俺の将来の目標は、この世にないもの「絶対」という存在になること、そして、この学校での目標は…、
この学校を退学することだ。
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